私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
上 下
56 / 164
幼少期

56

しおりを挟む

「あら、なんで手を繋いでるの?」

 戻った私達を見てお嬢様がそう言った。まだ繋いだままだったな、もう離してもいいんだが…?だがそれに対して返答したのはなぜか第三王子だった。

「あ、あの。先程アシュリィさんが倒れそうになってしまったんだ。彼はそれを支えていただけだよ。もう離れてもいいのでは?」

「彼女は以前にも急に倒れたことがございます。まだ油断は出来ませんので。」

「へえ…。」


 …なんかこの2人相性悪いの?なぜ険悪になりかけている?まあそんな事は置いといて、大丈夫ですからお嬢様。そんなに心配しなくていいですって!そろそろ撤収しないと。長ったらしいカーテンコールは必要ない、速やかに退場じゃーい!
 

「それでは皆様、本日は楽しいお茶会の場を壊してしまい申し訳ございませんでした。トゥリン様も…どちら?」


「「こちらです!」」


 息を切らした兄妹が姿を現した。頭に葉っぱついてますよ、いいんか?お嬢様は兄妹にも謝罪し、先に帰る事を告げる。ただ侯爵家に帰るのは危険かなあ…。

 お嬢様は家を見限ったと宣言したが、これはそんな簡単な話ではない。現代日本でもそうでしょう。よほど命に関わる虐待でもなければ親は注意されるだけで、結局子供は親元に返される。その後本当に反省して、改善する家庭はどのくらいの割合なんだろうね。
 貴族ともなれば尚更だ、子供は親の所有物と考えている人も少なくない。あの侯爵だって、そう簡単にお嬢様を手放すとは思えん。王子の婚約者であれば余計にね。
 平民になれれば私としては楽である。ぶっちゃけお嬢様のステータスなら王宮魔法師だって目指せるし、教師なんかもいいかもしれない。当面の生活は私の魔法でどうとでもなるし、最悪教会で一緒に暮らそう!彼女が望むなら3人で旅に出たり…「僕は?」…はい、4人ですね。

 だが、今日はひとまず屋敷には帰る。…侯爵とも直接会話する必要があるし。最終手段は屋敷をぶっ壊して侯爵半殺しにして…魔国にでも行こうかな?

 …それいいかも!

 そんな風に私は輝かしい未来絵図を描いていたというのに…



「はっ!今日のことは全部お父様に報告するわよ!あんた達だってタダじゃ済まされないんだから!
 リリーナラリスはどっかの変態貴族に嫁がされて、あんた達は縛り首にしてやるわ!!教会の連中にだって罰を与えてやるんだから!!!」



 うるっせえな…



 近くにあったテーブルに手をつき、力を込める。私が何をしようとしているのか察したお嬢様とアシュレイが、テーブルの上のグラスやお菓子を移動させてる。アルバート殿下もなぜか手伝ってるが。
 うん、もったいない事はしたくないもんね。


 全身ずぶ濡れでなっさけない格好のくせに、この場にいる全員に幻滅されてるくせに。
 最初はここまでする気は無かった。ただ…こいつはもう救いようがねえなあ。口ではぶっ殺リストとか半殺しとか言っていても、お嬢様に対する行為、態度を反省して謝罪してくれたなら。数年修道院にぶち込むくらいで許したのに。もう無理。


 堪忍袋の緒が切れました。




『黙って聞いてりゃあペラペラと…いい加減その不快な口を縫いつけてやろうか。』

「は…?な、なんて言ったのよ。」

 自然と手に力が入る。そのうち、耐えきれなくなったテーブルがヒビ割れ、音を立てて真っ二つになってしまった。請求はアミエル侯爵家にお願いします。
 その2つになったテーブルのうち、脚が付いている方を持ち上げアイニーに近づく。何よ、それで何するつもりよ!なんて言ってるけど、足ガクガクだぞ?

『そんな無様な姿を晒すようなお前が、本気で私をどうこう出来ると思っているのか?』

 
 そしてそのまま振りかぶり…アイニーの目の前に叩きつけた。


「きゃああああっ!!
 …あ、あんた、私にこんな…っ!?」

「何様ですかあなたは。」

 おうおう、さっきまで日本語で話していたから、急に言葉が通じて私が何言ってんのか理解してないな。ぽかんと間抜け面してらあ。
 でも、こいつにゃ容赦しないと決めたので。これ以上その不快な声を聞きたくないから、殺気をぶつけて戦意を喪失させる。仕上げに…さっきの殿下達をちょっと真似しましょうか。


「私の魔族としての血に誓い、あなたを絶対許しません。長年お嬢様を虐げたアミエル家は只今を以て完全に私の敵となりました。お嬢様及び教会の皆に手を出すようでしたら、私の全力で叩き潰します。一切の容赦は致しません。その覚悟がおありでしたらどうぞご自由に。

 …さあ、お嬢様。行きましょう。」


 お嬢様もぽかんとしてらあ。なんて可愛い間抜け面かしら。まるで舌をしまい忘れた猫みたいな愛らしさ!お嬢様はもう何しても可愛いって犯罪レベルじゃない?
 という馬鹿なこと言ってないで、とっとと帰りますか。ギャラリーも先程までの興奮は何処へやら、静まりかえっていますわ。「魔族…?」とかいう声が聞こえるけど、なんか文句でも?
 リュウオウを呼び、アシュレイとお嬢様を乗せる。殿下は後で合流だが…連絡手段残しとくか。クックルも呼び出し、分身・デルタを生み出してもらう。簡単な説明だけして殿下に託した。

 

「お集まりの皆々様へ騒動の謝罪申し上げます。私共は退場させていただきますが、まだ時間は残っております故、どうぞ楽しい一時をお過ごしください。」

 礼をとってそう言い残し、大空に飛び去る。この後どうしようかなあ…シャリオン家に依頼した件もそろそろ結果が来るはずだし。
 一気に忙しくなったな…でももう後には引けない。最初から引く気は無いが。





 ただ…私は、私達は知らなかった。魔族とは思ってた以上に人間に尊ばれ、恐れられていることを。騎士を多く輩出しているような武に特化した家なんかは、魔族を王族同様に敬っていることを。


 この日、アミエル侯爵家が魔族の怒りを買ったという噂が瞬く間に広がった。

 いや別に私個人の問題でして、魔国の皆さんは関係ありませんけど!?それにお嬢様に敵対する家全部に喧嘩売る気ないからね!!?



 だがこの日の夜。全ては急展開を迎えるのであった。








 おまけ。お茶会後、シャリオン伯爵家にて


「…という事があったのよお父様!アシュリィさん、いえアシュリィ様すっごく格好良かったわ!」

「(隣国に逃げる準備をしておこう…)」

「容赦しないって宣言した時、思わず見惚れてしまったわ!」

「(逃さんってことか!?)」



 だから大丈夫だってば!!!


しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

全部、支払っていただきますわ

あくの
恋愛
第三王子エルネストに婚約破棄を宣言された伯爵令嬢リタ。王家から衆人環視の中での婚約破棄宣言や一方的な断罪に対して相応の慰謝料が払われた。  一息ついたリタは第三王子と共に自分を断罪した男爵令嬢ロミーにも慰謝料を請求する… ※設定ゆるふわです。雰囲気です。

処理中です...