私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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幼少期

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 もうここまで来たら殿下も仲間だ!という事で移動中、事情を全部話した。アシュレイに関する事だけね。
 殿下は力になってあげたいけど、自分が動かせる人はヒューしかいないと落ち込んだ。その気持ちだけで十分ですよ。
 そのヒュー様も、いざとなったら手助けしよう、と言ってくれた。お気持ちだけありがたくちょうだいします。



 
 そしてやってきました伯爵邸。なんとまあ、使用人総出でお出迎えですよ!流石王子様。旦那様と奥様が前に出る。


「ようこそおいでくださいました、第二王子殿下、リリーナラリス嬢。私はベンガルド伯爵家当主リチャードと申します。こちらが妻のアリーナでございます。
 大したお持て成しも出来ませんが…ごゆるりとお過ごしください。」

「うん。こちらこそ急に来てしまい申し訳ない。僕は彼らについてきただけなので、仕事を優先してほしい。」

「ええ、突然の来訪お詫び致します。伯爵様の事は2人からお話を伺っておりますわ、どうぞ楽になさってくださいませ。」


 うん、殿下。そのセリフ、なんで私達には無かったのかな?予定より早く来ちゃってゴメンネすらも無かったぞ?


「ありがたきお言葉感謝致します。それではアリーナ、後は任せるね。そこの2人はこっちね。」


 旦那様、ニコニコしながら怒ってらっしゃる。器用な人だなー!ご指名を受けた私とアシュレイは別行動だ。また後でねー。






 私達は当然執務室。部屋に入った瞬間、旦那様はどでかいため息をついた。おとと、遮音しとこっと。


「あのね…せめて前日くらいに連絡しなさい…!殿下をお迎えするのに2時間じゃ大した準備も出来ないんだから!」

「もちろんですとも!だからスピード遅めにして時間稼いだんですから!そもそも殿下が来たい来たい言ってんのに断れませんて!」

「それはそうだけど!」

「だ、旦那様、多分大丈夫ですよ!殿下もヒュー様もお優しい方ですから!」

 そうそう!さ、過ぎた事を悔やんでも仕方あるまい。前を向いていきましょう!
 旦那様は最後にもう一度大きく息を吐き、椅子に座る。


「全く…では、こちらがその手紙だ。さっき通信した直前に届いた物で、恐らく影が直接持ってきたのだろう。…今、いそうか?」

「わかりません…ですが、私達の周囲に遮音をかけたので、姿は見られても声は届かないはずです。」


 あの半人前ならともかく、凄腕の影の気配なんぞ私にはわからん。だがまあもし天井裏とかにいようとも、声さえ届かにゃ問題ない。
 旦那様から手紙を受け取り、アシュレイと共に内容を確認する。どれどれ…?


『依頼内容の詳細を聞く。
 以下の日時に我が屋敷にて待つ。』


「…こんだけか?」

 みたいだね。暗号になってるとか、紙に細工がされているとかもない。指定の日付は3日後。ふむ…。


「どうする…行くのかい?」

「ええ、当然です。その為に接触したのですから。」


 で、だ。私達は依頼で訪問する訳で。つまり報酬も必要ですよね。金か…?





 そういえば。今までこの国の通貨について一切の説明をしていなかったね。ついでにここでサラッと言ってしまおうか。


 まず、この国には硬貨のみ。紙幣は存在しない。
 小さい順から
 エーク(10円)
 ドゥ(100円)
 テン(1000円)
 アルフ(10000円)
 セキズ(100000円)
 てな感じだ!私なりの日本円相当も参考にしておくれ。

 お肉屋さんのコロッケは1個3エーク(30円)。
 ちょっとお高い服は2テン(2000円)。
 私達の貰った燕尾服は、多分1着で2セキズはくだらないよ…!20万円ですよ!
 そんで1世帯の平均月収が約1セキズ5アルフってとこかな?ただセキズ硬貨はあまり庶民には流通してなく、大体給料っつったら15アルフって事。

 流通してない理由は単に、そんな大金を使う用事がないからさ。日本で言えば100円の物を1万円札で買ったら、お釣りが全部100円玉しか無いって言われる感じ?邪魔でしょうがない!
 それなら最初から100円500円を数枚持ち歩いてる方がいいでしょう。
 それに大金使う用事があれば、その時に銀行から1セキズでも2セキズでもおろしゃいいんだから。


 とまあ、簡単な説明はこの辺にしておきましょう。大して重要じゃないから覚えなくていいぞ。
 問題は、シャリオン家への報酬をいくらほど用意すれば良いのかって事…!
 正直相場が分からん。


「そうだね…もし相手が一般の探偵だったとしたら…人物調査に大体3セキズって所だろうか。
 ただ成功した場合のみだ。前金で1セキズのみ支払い、残りは後払いかな。
 でも裏だとな…前金でも3セキズは用意した方がいいだろう。となると合計で10セキズは覚悟しないと。」

 私の感覚で言うと100万以上って事か…8歳にゃ大金すぎる…!



「うーん…私達いくら持ってんだろう…?こないだ初給料貰ったばかりだし、まだおろしてないよね。」

「そうだな。必要無かったし…。」


 私達のお給料は1ヶ月12アルフ。見習いが取れたらもっと上がるらしい!という事は今、2人で24アルフ。3セキズに全然届いてねえ!!

 あ。

「旦那様、服飾会社の私のお給料は今どの位でしょう?」

「ええと。デザイン料、アイデア料が計2セキズ。染色が1着2アルフで…今までに6着染めてもらったから12アルフ。
 ドレスはまだ発売したばかりだけど、結構好評でね。君が関わった商品の売り上げは現在…。」

 旦那様は資料を見ながら計算している。本来なら支払いはまだ先だけど、前払いしてもらえないカナ?




「…うん、現在合計で11セキズ4アルフだ。今後はドレスの売れ行き次第でもっと増えるだろう。」

「前払いで頂けませんか!?」

 金額を聞いた途端に、直角に腰を折る。アシュレイも同時にだ。そんで、小声で「必ず返すから!」と言ってきた。
 別にいらんけど…とは言わんよ。じゃあ半分はいつか払ってもらおうかな!



「はは、分かったよ。君が受け取るべき正当な報酬だからね、気にしなくていいよ。」


 よおっし!金はなんとかなりそうだが…残る問題は…


「手土産…必要だよな?」

「うん…そうだね。」

 確実に依頼を受けてもらう為、少しでも印象を良くしたい!となると、手ぶらで行くのもなあ。
 そもそもシャリオン伯爵ってどんな人物よ?何が喜ばれるの?ああもう、あの影に聞いときゃよかった!旦那様は知ってるのかな?



「それが…私も詳しくなくてね。なにせ一度しか顔を合わせた事がないんだ。
 名前はケイン・シャリオン。年齢は知らないが、まだ若いように見えた。恐らくトレイシーとそう変わらないんじゃないかな。
 謎が多い人物でね。娘を溺愛しているなんて話、私も初めて聞いたよ。」

 
 トレイシーと?25前後に見える外見か。…ってアシュレイの前でトレイシーの名前出していいのか?
 そろ~っとアシュレイの顔を覗く。


「へえ、会長と。そもそもあいつ、何歳なんですか?」

 どっかの会長と勘違いしてる!?でも気安い対応してるし…何会長なんだろ?
 だが旦那様が「25歳だよ」って言うもんですから、やっぱあのトレイシーじゃん!!いつの間に仲良くなったの!?

「いや仲良くはない。でもまあ…今はどうこうするつもりもねえ。」

 ふうん?私の知らん間に…?
 気にはなるが、今はそれよりシャリオン伯についてだな。前金は多めに4セキズ持って行くことになった。問題の手土産は…。うーん。



「そうだなあ…こういうのはどうかな?」


 



 …うん、それでいこう!旦那様の提案に乗ることにした私達は、今日はここまでと言われた。残りは自分達でどうにかする事にして、お嬢様達と合流だ。

 旦那様にお礼を言い遮音を解除し、部屋を出る直前に天井に視線を向けてみる。
 何か、物音がした気がした。








 

 3人で向かった先は応接室。皆ここにいるらしい。中に入ると殿下、お嬢様、奥様と…あと座っている少年は…?


「あら、お仕事は終わりかしら?
 そういえば、貴方達にはまだ紹介してなかったわね。こちら、先日養子として迎えた息子なのよ。
 さあランス、いつもお話ししてるでしょう?ご挨拶なさい。」

「はい、母様。
 初めまして、俺はランス・ベンガルドです。君達の事は父様と母様、屋敷の皆からよく聞いているよ。今後ともよろしく。どうかランスと呼んで欲しいな。」


「ご丁寧にありがとうございます。ボクはアシュレイと申します。どんなお話をお聞きになったのかは存じませんが、こちらこそよろしくお願い致します、ランス様。」

「私はアシュリィです。お嬢様共々よろしくお願い致します。」


 やっぱり男主人公か!うーん、主人公と悪役が並んで仲良くお茶してんの面白いな…ここにミーナ様がいれば完璧だった…。
 この幼気な少年が、成長すると熱血漢になるんだなーこれが。ザ・主人公って感じで…正直私は苦手だった気がする。


 だが物語当初は自分の行いが正しいって信じて疑ってなくて。自分の正義が世の正義だと思い込んでいて。
 上手く言えないが…例えば病気で苦しんでいる人がいるとしよう。その人はもう何年も苦痛と闘っていて、治療法は無く完治は不可能。
 その人が「もう死にたい、楽になりたい」と懇願したとしたらランスは「何を言っているんだ!命があるのに死ぬなんて駄目だろう!もう少ししたら治療法が見つかるかもしれないだろうが!」とか言っちゃう系。
 もし私だったら…考えて考えて…その人の望みを叶えてしまうかもしれない…。でもその相手がアシュレイとかお嬢様だったら…どうすんのかな。

 だがまあそんなちょいうざいランスは、アルバート殿下や魔王リャクル。そして攻略対象の女の子達や他の登場人物と触れ合ったり攻防したりで、人間的に成長していくのだ。


 
 まあベンガルド家の令息だからね、今後も付き合いはあるだろう。原作に無い悪役陣営わたしたちとの交流で、彼がどう成長するのか楽しみだな。




 その後私達も会話に加わり、穏やかな時間を過ごした。だがそろそろ帰らないと、殿下の帰宅時間が夜になってしまうので解散する事に。一度侯爵家に寄って、馬で帰んなきゃいけないからね~。

 また遊びに来ることを約束して離陸する。ランス様も乗りたそうにしていたので、また今度。



 帰りは行きと違ってちょっと飛ばす。スピードが上がってもリュウオウの能力で空気抵抗的なものは少ないから問題ない。
 帰り道の会話はぽつぽつとしたものだったが、殿下の「今日、父上と話してみるね」という発言に心の中でエールを送る。

 大丈夫、ちゃんと語り合えば絶対いける!ちゃんと、ね!!ファイト!

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