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幼少期
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しおりを挟む「おおー、おおお?お~…!」
何やら殿下の変な声が後ろから聞こえるわ。多分楽しんでもらえてるんだろうけど…?
現在は、街の上空にいる。あまり遠出は出来ないので、この辺りで観光案内をする事にした。ちょっと下降しまして…と。
「殿下、あれが私達の育った孤児院である教会ですよ。」
「そこの山で、よくアシュリィが鹿やら猪を狩っていたんですよ。素手で。」
「あちらのお肉屋さんのコロッケは、本当に美味しいですわ。」
とまあ、そんな感じで案内しまくった。そしてこの街でリュウオウはそこそこ知られているので、気付いた人が手を振ってくれる。リュウオウも短い腕で返すのだ。そこが可愛いねん。
「あ!あの噴水、アシュレイ落っこちたんですよ!」
「違います、アシュリィが押したんです!」
「あ、ごめんなさい。それ押したの私だわ。」
「お嬢様ぁ!?」
それほど長い時間を過ごした訳ではないが…思い出はいくらでも蘇ってくる。
3人で騒がしく案内をしていたのだが…そういや殿下静かだな?さっきまで相槌打ってくれてたのに。気になって振り向いてみたら…。
なんか…表情抜け落ちてません?虚無ですよ殿下?さっきまではしゃいでたのに…?
「君達は…。」
「…なんでしょう?」
お嬢様が答えても、中々次の言葉が出てこない。なんか様子がおかしいので、ちょっと降りるか。
私が狩りの途中、見つけた秘密の場所。いやまあ、秘密って程じゃないんだけど、山の中に綺麗な滝と川があるんだよな~。
夏はそこで水浴びするのが気持ちいいのだ。アシュレイとお嬢様は知ってるが…殿下とヒュー様もご招待しましょう!
殿下は心なしか、喜んでいるようだ。
「…君達の秘密の場所?」
「一応は。まあ他にも知っている人はいるかもしれませんが…今の所私達以外とは会っていませんねえ。」
ねーっ。と言った風に3人で頷き合う。その様子を殿下が眩しそうに見ていた。
彼は川縁に座り足を水に浸け、ばしゃばしゃとし始めた。暫くしてお嬢様が右に座り、その隣に私も座り。殿下の左にはアシュレイが座った。ヒュー様は後ろで、私達の事を微笑ましそうに見つめていた。
数分間誰も口を開く事なく、水遊びをする。そこで漸く、殿下が声を出した。
「君達は…僕といて、辛くない?」
「「「………?」」」
????何が??私の頭ん中はハテナしかない。多分2人も同じだ、なんのこっちゃ??
「殿下、伝わっていませんよ。ほら、いつものように全部話してしまうといいですよ。」
ヒュー様が微笑みながら言う。よく分からんがその通りだぞ。嘘も誤魔化しも下手くそなんだから、言っちゃいなさいよ?
流石にそう言う事は出来んが。殿下は少しずつ話し始めた。
「僕は…自分が人とちょっと違うって事、分かってるんだ。」
ちょっとじゃありませんが。
「だけど自分でもどうしようも出来なくて…僕の周りには誰もいないの。
歳の近い貴族の子供達も…将来的に僕達の側近候補として集められても…兄上やジェイドを選ぶばかりで、僕の側には誰もいないの…。」
それは…辛いだろうな。
ゲームでは…殿下はお嬢様と違って、家族には恵まれている。陛下も王妃殿下もご兄弟も皆、ちゃんとアルバート殿下を愛している。
ただ…全然伝わってないんだけどね…。
兄は次期国王にして、すでにカリスマを備えており文武両道、眉目秀麗な完璧超人。
弟は将来的に人心掌握術に優れ、他人を動かすのが天才的に上手かったりする。今もすでにその片鱗を見せており、彼の発言で大体の人間が動くらしい。
そんな兄弟に挟まれたアルバート殿下は、事あるごとに比較され続ける。
つってもアルバート殿下だって、良いところはいっぱいあると思うんだけどなあ。まだ知られてないけど、魔法なんかは他の追随を許さない。多分王宮魔法師よりもっと上だよ。これに関しては、寄宿学校に入ってから分かる事だが。
勉強だって上位に入るし、身体能力も高い。ただトップじゃないってだけだ。それにかなり容姿もいいと思うけど?
オレンジ色の髪の毛は、日に当たると夕焼け色になって綺麗だし。普段無表情が多いけど、楽しそうに笑う顔は可愛らしいとも思う。
ただまあ素直すぎる口とか、人の話を聞いてんだか聞いてないんだかな耳とか、奔放すぎる性格のせいで人が寄ってこないんだろうな…。
私にはそんな所も魅力的だと思うけどねえ。
「だから…仕えてくれるのもヒューしかいない。他にもいるけど、みんな嫌々なの。でもヒューは優秀だから、本当は兄上に仕えた方がいいと思う。嫌だけど…。
それと、僕はリリーナラリスに興味を持ったから婚約を申し込んだ。アシュレイとアシュリィも面白そうだったから。
でも、僕の事が嫌だったら言って…もう関わらないようにするから…。
それに最近父上に…「お前はもういい。そのままでいればいい」って言われたの…。僕は、父上にも見放されちゃったのかな…。」
しまいにゃ殿下は、泣きそうな顔でそう言った。その、陛下の言葉だけど…多分…。
『お前(のその癖はどうにも直りそうにないな。だがそれがお前という人間だし、私)はもう(直さなくても)いい(と思う)。
(いつの日か)そのまま(のお前を理解してくれて、受け入れてくれて、愛してくれる人が現れるかもしれない。だから、無理に変わろうとしないで、ありのままの自分)でいればいい。』
って事だと思うなー!!!
ゲームでだが、殿下のやらかした事が公になった際、陛下がそう語ったのだ。「伝わっていなかったんだな…!」じゃねーよ、伝わる訳ないだろーがー!!?
陛下はお忙しい方だから、仕事以外では言葉をちゃんと伝えない所があるらしい。この親にしてこの子ありだよ。似た者親子だよ!!大事な部分を言葉にしない父と余計な事を言う息子。正反対にそっくりだよ!
ちなみに王妃殿下に「今日のお前(のドレス)は老けて(見え)る(から、やめた方がいいと思う)ぞ。(今度、似合うものをプレゼントしよう)」と言って平手を喰らった事があるって有名な話だ。それから学習せいや。
…ともかく!このままでは殿下が悪堕ちしてしまう!ここは…
「え?…うん、ふんふん…分かったわ。」
お嬢様にだけ聞こえるように、小さく耳打ちする。ここは婚約者のお嬢様がなんとかすべきだろう。
「殿下…陛下のお話ですが、もう一度聞いてみてくださいませ。きっと、想いがすれ違っているだけだと思うのです。」
「…でも…違ってなかったら…。」
「そうだとしても。私は殿下を受け入れます。先程辛くないか、と仰いましたね?
そのような事全然ありませんよ?ね、2人共?」
「そうですよ、まあいきなり現れるのはビックリしますけど…なんだか楽しくなってきましたしね。今度はボク達が脅かしてあげましょう!」
「それに殿下の素直すぎる発言は、普段は問題だけどたまにファインプレーしてくれますしね!それに言い方をちょっと変えるだけでも、印象って変わりますよ。」
例えば。
クソだせえドレス→→個性的。
浪費家→→経済を回してる。
ヘタレ→→優しい
…無理があるか?まあいっか。
何はともあれ、私達は殿下のこと多分好きだぞ。まだ知り合ってから会うのも2回目だから、あまり多くの事を知らないが…一緒にいて楽しいと思えるよ。
少なくとも、今後も付き合いを続けて欲しいくらいには。お嬢様をお任せ出来る男かどうかが気掛かりだがなあ!まあ、なんだかんだで大丈夫だと思うけどね。
今度一緒に教会行きましょう、とか。
いつか皆で外国に行って、海を見に行きませんか?とか(ここは内陸国)。
秋になったらこの山の紅葉は見事なんですよ、お弁当持ってきて紅葉狩りしましょうとか。
殿下は私達の1つ上だから、寄宿学校に行ったら先輩ですね!色々教えてくださいね、とか。
王都に遊びに行きますから、皆でお忍び散策しましょうね。もちろんヒュー様も!お兄ちゃんと4人の弟妹でいけるはず、とか。
そんな風に3人で言っていたら、殿下は両手で顔を覆って俯いてしまった。…言い過ぎた!?不敬でしたかね!?あああ、償いは侯爵がしますので、私達は無罪放免でお願いします…!!
と思ったが…顔を真っ赤にしていらっしゃる。耳から首まで真っ赤っかだ。今の会話、照れる要素あったか?
そして蚊の鳴くような声で「ありがとう…」と呟いた。
その様子がなんだかとても可愛らしくて愛おしい。なんつーか、母性本能をロケットランチャーで撃ち抜かれたイメージだ…!
お嬢様が殿下の頭を撫でている。羨ましい!!!私もよしよししたい!!!うずうずしながらヒュー様に視線を向けると、「どうぞどうぞ」とジェスチャーしてくれた。
なので遠慮なく撫でた。不敬とかそういう言葉は空の彼方にぶん投げました。あ~サラサラの髪が良い手触りですな~。
思わずうへへへへなんちゅー声を出してしまい、アシュレイに叩かれた。なんだよう、自分だって撫でてるくせに!!!
殿下は、黙ってされるがままになっていた。
その後顔を上げた殿下が、嬉しそうにはにかんでくれた。初めて見る笑顔だ。その笑顔にやられた私達は、心臓をおさえながらその場に崩れ落ちた。よく見たらヒュー様も。
その笑顔は死人が出るので封印しましょうね。
そういえばさっき私はお嬢様に「殿下に、陛下とちゃんとお話しするよう言ってください。あと、お嬢様が殿下をどう思っているのかも素直に言ってあげてくださいね」としか言っていない。
だからお嬢様が殿下と一緒にいたいってのは彼女の本心だ。
暫く水遊びをし、殿下も吹っ切れた様子だったので、そろそろ帰りますかー、となった。近いうちに王宮に行く事も約束し、リュウオウに乗ろうとしたら…クックルの目が光る。
「あ、すみません。多分旦那様から通信です。ちょっと失礼しますね。
オン。…はい、アシュリィです。」
〈リチャードだ。早速だが、シャリオン伯爵から手紙が届いた。〉
「「はやっっ!!?」」
昨日の今日ですけど!?早いな伯爵!アシュレイと揃って声を上げた。
だが早いに越した事はない。私は皆を侯爵家に送り届けた後、伯爵家に向かう事にした。
「僕も行きたい。」
「「だああああっっ!?」」
いつの間に後ろに立ってたの!?けらけら笑ってんじゃなーい!!
私はベンガルド家まで行くんですよ、往復4時間かかりますよ!侯爵家でお嬢様達とのんびりしててください。と言っても行きたいと言われる。
私仕事ですから、殿下来てもつまらんですよ!と言っても邪魔しないから行きたい。と言われる…。
ヒュー様が諌めようとしたら、絶望したような顔になった…。
最終的に、はい。私が折れました。
「旦那様、第二王子殿下とリリーナラリスお嬢様も同行しますから、お出迎えの準備よろしくお願いします!じゃ!オフ。」
〈は〉
じゃ、とっとと向かいましょうか!
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