私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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幼少期

45 アシュレイ視点

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~数時間前、アシュリィとリリーナラリスが外出した後~



「はあ…オレも行くか…。」


 今日オレは、警備隊のおっちゃん達と鍛錬だ。身体を動かして頭冷やすか…。


 もう1週間以上、オレとアシュリィはまともな会話をしていない。原因はオレだ、オレの態度がよくねえんだ…。

 先日、アシュリィがオレの住んでいたスラムを襲った傭兵達を捕まえたらしい。でも家族の行方は分からず、それを知っている奴もどこにいるか不明…。
 だったら手がかりである子爵家を訴えるなりなんなりして情報を吐かせりゃいいじゃん!と言ったが、
「相手は貴族、こっちは孤児上がりの執事見習い!どっちが有利か考えるまでもないでしょう!?明確な証拠も無しに行動は出来ん!!
 それに侯爵家はどうなろうが知ったこっちゃないが、お嬢様やベンガルド家に迷惑がかかるんだよ!分かってんのか!?」
と言われた…。頭に血が上って、全然考えてなかった…。

 じゃあせめて傭兵共を投獄しようと言ったら、それも出来ないと。しかも今は伯爵家に置いてあるなんて言いやがった。
 それに関しても正論で返された。アシュリィの言っている事は正しい、正しいんだけど…!


 ものすごく、モヤモヤするんだ。正しいって分かってても、受け入れ難いんだよ…。
 終いにゃアシュリィはなんて冷血女なんだ!とか一瞬でも考えちまったし…。違う違う!あいつの事、そんな風に思ってない!!
 アシュリィが家族の為に頑張ってくれてるのは知ってるのに…なのに…疑っちまう!


 そんな風に考えてる自分が嫌で…アシュリィに対する罪悪感やら猜疑心で、まともに話も出来ねえ…。

 お嬢様にも「早く仲直りしなさい」って言われるし、トロには「ちゃんと話し合うように」ってアドバイスされた…。あの、それが出来なくて困っているんですが。



 そして今日もモヤモヤしながら外に出る。扱いてもらって、頭空っぽにしよう。そう思って詰所の方に足を向けると…。


「あ、やっほ~アシュレイくん。来ちゃったあ。」

「ジュリアさん?」


 そこにいたのは、久しぶりのジュリアさんだった。そういえば、アシュリィに遊びに行くって言ってたな…。
 ジュリアさんはオレの様子を見て、元気無いねえ?と言った。そんなに見て分かるほどなのか…。

 …ジュリアさんは伯爵家の関係者だし…話してもいいかな?そう思い、少しだけ現状を相談する事にした。もう自分ではどうしようもなくて、大人の意見を聞きたかったんだ…。




 場所をカフェに移し、少しずつ語り始めた。遮音をかけてくれたから、周囲を気にせず話せた。
 ジュリアさんは、ずっと静かに聞いていた。そしてオレが全部吐いた後、うーんと唸った。


「そおね~…色々言いたい事はあるけど…。
 聞いちゃうけどお、今の問題についてアナタはどういう展開を望んでるの?全部言っちゃいなさい?」


 …オレは…。
 家族が全員無事に保護されて、子爵は今までの行いが全部公になって裁かれて。ガイラードとかいう奴も傭兵達も全員投獄させたい、と思っている。

「ふうん。それを、全部自分1人で出来ると思ってる?」

「無理…です…。」

「そおよね~、もちろんアタシだって無理だもの。じゃあ他人の手を借りるしかない訳だけどお…それが嫌なんじゃないの?」

「…へ?」

 
「本当に、アシュリィちゃんの事信頼してる?ああ、相手の言うこと成すこと全部肯定して鵜呑みにするのは信頼じゃないわよ?
 でも、今回傭兵さん達を捕縛したのだって、自分でやりたかったんでしょ?アシュリィちゃんに横取りされたとか、考えてない?」

 ガタッ!と思わず立ち上がり、

「そんなこと…っ」


 ない。と、言えなかった。
 


「うーん、目立ちたいとかそういう感情じゃなくてね。自分の家族の問題なのに、アシュリィちゃんに頼ってるっていうのが嫌なんじゃない?アナタ。」



 そう…かも…。オレはゆっくりと椅子に座った。


 だってそうだろう!オレに力があれば、あの時無様に逃げ回る必要もなかった!
 きっとアシュリィだったら、辺り一面を更地にしてでも家族を守れたはずなんだ。そんでオレらに不利な状況になっても、子爵を半殺しにしてでも逃げ切る事が出来たはずだ!!

「あまりアシュリィちゃんの影響受けないでちょうだいね?アナタが最後の砦なんだからあ。」

 あ、はい。
 するとジュリアさんは、オレの肩に留まっているガンマに視線を移した。


「ん~…ところでそのコ。旦那様が言っていた、通信専用の精霊よねえ?」

「ええ、そうですけど。」

「じゃあ、今旦那様に繋げなさい。ほら早く。」


 今!?なんで!?混乱するオレに、ジュリアさんが「こういうのは男同士の方がいいのよお!じゃ、アタシ外すわね」と言って別の席に移動してしまった…。
 …しょうがない。アシュリィに教わった通りに…




「ガンマ、オン。アルファに通信。」


〈…リチャードだ。アシュリィか?〉

「旦那様、オ…ボクです、アシュレイです。」

〈え、アシュレイ?〉

「はい。今少々お時間よろしいですか?」
 
 オレが名乗ると、旦那様は驚いた声を出した。だが快く応じてくれた。
 そのままオレもアシュリィから鳩を受け取った事、オレとお嬢様の鳩の名前とか報告しといた。
 で、本題…。オレ達の現状と、ジュリアさんに言われた事を話した。

 旦那様は全部聞いてくれた後、少し黙ってこう言ったのだ。


〈よかったら…トレイシーと少し話してみるか?〉

「トレイシー…?傭兵のボスで、ハゲ愛好家団体の名誉会長の男ですか…?」

〈うん、実は〈なんだその不名誉な称号は!?〉…ちょうど側にいるんだ。〉


 !!!こいつが…!


〈おいガキ!!さっきから聞いてりゃ何女々しい事言ってんだ!?〉

「な…!うるせえ!!そもそもてめえらのせいで!」

〈うっせえな!!こちとら爬虫類の依頼受けただけだっつの!!
 言っとくがなあ!お前らガキ共を殺す気なんてハナから無かったわ!!ガイラードが「悪いようにはしない」っつーから任せただけだボケエ!!〉

「は…はあ!?信用できるか、そんな言葉!!あとカエルは哺乳類だバーカ!!!」

〈いや両生類だから。アシュレイの方が遠いぞ。というよりよく通じたなあ…。〉

〈バカはどっちだバーカ!!!〉


 ぐうううう…!!腹立つ、コイツ!!!旦那様もオレのフォローしてくれよ!
 その後も不毛な言い争いを続ける事10分。いい加減疲れてきた…。



〈あー、あほらし…。おい大将、お前結局何がしたいんだ?〉

「あ?なんだ大将って。」

〈ヘタレ大将なんだろ?お前。ぷぷ、お似合いじゃねーの。ちいとばかし嬢ちゃんから、漢らしさっつーのを分けてもらえや。〉

「てめえに言われたくねーーー!!!」

 ハアハアと息を切らしながら叫ぶ。さっきから周囲の人は、声は聞こえずともオレが怒鳴っているのに気付いているんだろう、チラチラ見られている。
 ジュリアさんに関してはパフェを食うのに夢中でこっちを気にかけてもいないが。


 つか傭兵って、思ってたのと違う…。もっと、血も涙も無いような連中だと思ってたのに。
 コイツと話していると、全然そんな感じがしない。くっそ腹立つけど不快感は無くて…まるで…兄貴がいたらこんな感じかな、とすら感じる。



 でもオレは認めたくなくて。
 だってオレの家族を奪った連中で。
 たとえ依頼を受けただけだとしても。
 オレの日常を壊した奴らは、んだ…!



〈…ふーん、そういう事かい。
 
 …お前の気持ちは、分からんでもない。〉

「…は?」

〈今お前と語り合うつもりはねえが…俺だって、人を手にかけた事がない訳じゃない。善人か悪人かで言ったら悪人だろうよ。
 それでも…誰彼構わず皆殺しにするほど落ちぶれてもいねえつもりだ。女子供なら尚更な。〉


「……だから、なんだ。」

〈俺達は、お前の望むような悪党になってやるつもりはねえって事だ。悲劇の主人公ぶりたいんなら余所でやれ。俺らと嬢ちゃんを巻き込むな。〉



 コイツは一々、人の神経を逆撫でするような事を…!



 
 知ってるよ!俺だって傭兵っつー職業に関して、少しは調べてみたわ!!
 大体どの国に行っても野蛮人だと蔑まれ、人殺しのイメージが強い。実際、そういう連中だっているらしい。依頼だって多い訳じゃないから、来るもの拒まずで仕事をする。
 だが中には…信念を持って行動し、たとえ依頼であっても外道な行いには手を染めない、そういう連中もいるって。
 
 アシュリィが監視付きとはいえ、連中を自由にしてるって事は…コイツらはそういう傭兵なんだろうよ。それくらい、分かってる!



〈本当に分かってんのか?お前が俺らを悪党にしたいのは、ただの保険だろうが。
『力を尽くしたけど家族を助けられませんでした。それもこれも、コイツらが奪ったからです』って言いたいだけだろうが。
 それになあ、俺らが依頼を断りゃ、どうなってたと思う?あのカエルの様子からして、誰かしらに依頼しただろうよ。
 そしたらそれこそ、あの場で殺戮おっ始めるような連中が雇われてたかもしんねーぞ。〉



 …ぐうの音も出ない…。
 アシュリィといいコイツといい、オレ言い負かされてばっか…。

「それじゃあオレは…どうすりゃいいんだ…。」


〈………お前よ、プライドと家族の命、どっちが大事なんだよ?〉

「家族に決まってんだろ!」


〈だったらよお、お前は周囲をもっと頼れや。任せきりにすんじゃねーぞ?お前ももちろん働けよ?
 特にあの嬢ちゃんな。力任せすぎて荒削りすぎる。だから、お前がサポートしろ。暴走しそうになったらお前が止めろ。
 …誰かを頼るっつー事は、悪い事じゃねえ。人間にゃ得手不得手がある。だから、嬢ちゃんが困ってたらお前が助けてやれ。〉



 …前にも…同じような事を言われた気がする。
 オレはまた、繰り返していたのか。



 バチン!!

〈うお、なんの音だ?〉

「気合入れただけだ。」


 オレは自分が情けない。
 それでもいい、今は。これから少しずつ、成長していくんだから。自分の両頬をはたき、深呼吸する。
 今度こそオレは、迷わない。



「おい会長。あんたも手伝え。そうしたら…チャラにしてやる。
 あんたらの行動は許せねえが、ただ依頼を受けただけだってのも…アレがなけりゃ今のオレが無かったのも事実。
 だからこの先は、失ったものを取り戻す。」


〈…ふん。言っとくが、俺らはお前に謝るつもりはねえぞ。
 ただ…悪かったとは思ってる。だから、手伝ってやろーじゃねえか。もうふらつくなよ?大将。〉


 なんとでも言え。
 まずは…アシュリィに謝ろう。謝って、ちゃんと話を聞こう。

 旦那様にお礼を言い(会長には言わん)、通信を切る。するとジュリアさんがちょうど戻ってきた。


「うまくいったみたいねえ?」

「はい、ありがとうございました!」


「うんうん、男の子ねえ。じゃあ早速。
 アナタ、用事あったんじゃないのお?」


 あ。鍛錬。



 折角気合入れたのに、オレはダッシュで詰所に向かい謝罪するのであった。

 決まらねえな、オレ…。







 ただまあ…このくらいの歳だったら、泣いたり怒ったりするのが当然で。妙に物分かりの良いアシュリィの方が異常なんだよな~とか思っている大人3人であった。
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