私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
上 下
32 / 164
幼少期

32

しおりを挟む


「これで全部かな。」

「よし、ありがとうトロ。大体把握出来た。
 そろそろ部屋戻っても良いかな…。」

「僕らには見せられないってことは、やっぱ…。」

「…何考えてんだお前!!」

「こっちのセリフだよ…顔赤くしちゃって。」


 アシュレイお年頃ですから。
 ちなみにトロは、純粋にお嬢様の怪我を気にしているだけである。




 そうして屋敷内の散策を終えて部屋に戻ってきた。

「そういやお前、仕事は?」

「今日は君達のサポートが仕事だって。」


 部屋をノックし、出迎えたのは…


「「うわっっ!!」」

「…ってラッシュ!びっくりしたあ…!」


 ラッシュは2人を抱えて部屋に放り投げ、ドアを閉める。そしてまた門番に戻るのだ。
 
 ああ、ラッシュはお嬢様の守護を了承した。やっぱお嬢様の魅力にメロメロに…という訳では無いらしい。
 私の熱意に圧されたってのと、多分私の側より仕事があるって思ったんだろうね…。私は自分でどうとでも出来るし。
 ラッシュの仕事は、私、アシュレイ、トロくん以外の人間がお嬢様に触れようとしたら止める事。でもお嬢様が「この人は大丈夫」と言えば良し。
 武器を持って襲いかかって来られたら、死なない程度に吹っ飛ばす事。他の細かい事は自己判断に任す。
 

「「……。」」

「あ、おかえり。どう?お嬢様、素敵でしょう!」

「「……。」」

 ちょっと…なんか言ってよ。もしかして…気にしてる?



「な、なんでお前まで短くなってんだよっ!!?」

「イメチェンさ!!」

「はああーーー!!?」

「…止める暇も無かったわ。」


 アシュレイもトロくんも、私がバッサリと髪を切った事に驚いている。
 ふふふ、今の私はサイド長めのショートボブだ!パッと見少年執事って感じ?長さ的にはアシュレイといい勝負だ。
 でもねえ、髪の長さなんて私にとっちゃ大した事ないんだよなあ。前世のヘアカタログを見せてやりたいわ。ショートヘアの魅力を分かってない!!

 語りたいとこだがもう夕方だし、まずお嬢様のご飯だね。
 お嬢様、普段食事は?大体貴族って食堂で食べるでしょ。あ、ダイニングルームって言うべきか。



「…前は部屋に食事が運ばれてたけれど、今はそれすらも無いわ。
 だから自分で取りに行くの。食事をちょうだいって言えば、無言で出てくるわ。使用人と同じ物だけど…。」

 …まあ、食事を出さないよりマシと考えよう。



「じゃあ今日からオレらが交代で取りに行くか。」

「少なかったら、食材勝手に使ってアレンジしよう。」


「あの…2人も一緒に食べてくれる?1人の食事はもう嫌なの…。トロは駄目だし…。」


 はい喜んでー!!!お嬢様が可愛すぎる…アシュレイと私でぎゅーっとする。ほら、トロくんも来いってば。
 こういう時トロくんは遠慮するんだよねえ。使用人だからって言って。そんな君にいい言葉を教えよう。それはそれ、これはこれ!!
 本来主人と食事なんて許されないけど…知った事か!「いやあ、私ら客人なんで」でごり押す。



「今日は挨拶も兼ねて、2人で行ってきます。」

「ちょっと遅くなるかもしれないけど、ラッシュが側にいますから。頼むよ、ラッシュ!」

—心得た—

 
「ほい、トロくんも。私今日は皆に話したい事もあるし、トロくんも一緒に食べるよ。今日だけね。」

「ああ、オレも。トロも聞いてくれ。」

「えええ?いいのかなあ…?」


 ぐだぐだ言うトロくんを引き摺り廊下に出る。








 さて…そろそろいいかな?

「トロくん、聞きたい事あるんだけど、いい?」

「だよねえ…なんでも聞いて。」


「大前提として、お嬢様はこの屋敷で虐げられています。トロくんは?お嬢様と仲の良いトロくんもいじめとかあるの?」

「それが、無いんだよ。」

「やっぱりか…。さっきオレら散策してた時な、何人かの使用人に会ったんだ。
 そんで、オレとアシュリィが執事見習いで来るのは聞いてたらしい。もちろん、お嬢様の執事として。
 でもなあ…んだよな。オレら、自分達以外は全員敵!って意気込んで来ただろ?
 どころか頑張ってね、とか言われるし…拍子抜けっつーか…。」
 
「やっぱり…ちょっとそれに関しては、夜じっくり話し合うよ。とにかく!今は屋敷の人達に友好的に接する事。
 お嬢様を悪く言われても、「自分はそう思いませんけどね」くらいに留めとく事。いいね?」


 アシュレイが頷いたのを確認し、厨房に急ぐ。トロくんは複雑そうな表情をしている。…今まで、この屋敷でお嬢様を1人で守ってくれてありがとね。



「ここか…すいませーん。」



「ん?おお、お前ら見習い執事かい、ちびっこいなあ!」

「あら、可愛いわねえ。でも男の子と女の子って聞いてたけど…。」

「あ、私女です。」

「あらやだ!どうしたのその髪型!?」

「ふっふっふ、おかしいでしょう。でも、ステキだと思いません?常識抜きに考えたら。」

「ま、まあ、確かに?可愛いけど…。」

 厨房にいたのは4人。料理長っぽいのと女将さんって感じの人が話しかけてきた。


「それより、ボク達食事を貰いに来ました。リリーお嬢様とボク達3人。4人分ください。
 それと使用人は専用の食事スペースがあると聞いてますけど、ボク達毎日お嬢様と食べますので、毎回貰いに来ますね。」

「……おうよ!今用意すっから、ちと待ってな。」

 そう言って2人共奥に引っ込んだ。



「どう思う?」

「そうだね…なんて言ったらいいんだろ。ちょっと気持ち悪い…。」

「オレも…。」



 その後出された食事をワゴンに乗せて、とっとと移動する。内容は…まあ良し。貴族のお嬢様にお出しするモンじゃないが…栄養は問題無いだろう。





 そしてお嬢様の部屋で食事する。お嬢様が楽しそうでなによりです。



「それで2人は、お話があるんでしょ?」

「そうそう、アシュレイからどうぞ。」

「ん…実は…」



 …ふむふむ。つまりアシュレイはスラムの仲間…いや家族達を探したいと。そんでその目的の為に執事になりたかった。それを謝罪したいと。


「なんで謝罪するのかしら?」

「へ…?いやだって…こう…お嬢様を護りたい気持ちに嘘はないけど、利用してるような気がしまして…ですね?」

「いや、謝罪いらないよ?ねえアシュリィちゃん。」

「その通り。むしろあんたが「オレはスラムから解放されたんだっ!過去は忘れて自由に生きるぜヒャッハー!!」とか言う方が嫌だわ。」

「言わねーよ!?」

「じゃあいいじゃん。利用出来るものはなんでも利用しなさいよ。私は一緒に執事の勉強して、ずっとあんたの本気を見てきたんだぞ。
 お嬢様を護りたい気持ち、その為の努力に嘘は無い。というより、私だって微力ながら協力するよ?ねえお嬢様。」

「ええそうよ。私も…出来る事は少ないと思うけれど、手伝える事があったら遠慮なく言って?ねえトロ。」

「そうそう。僕は何も出来ないかもしれないけど…愚痴や弱音くらいいつでも聞くよ。」

「……。」


 アシュレイ、そんな事考えてたのか。
 教会に初めて来た時から、ずっと悩んでたのは気付いてた。ご飯食べててもちびっ子達と遊んでる時も。お手伝いしてる間もお風呂…は知らん。

 多分ずっと…ここに家族がいればって思ってたんだね。目の前で家族を失うのは…そりゃ辛いよ…。
 無事でいてくれればいいけど…流石に楽観は出来ない。でも調査は早い方がいい。
 そしてアシュレイの、権力ちからのある貴族と繋がりたいってのに可笑しな所はないぞ。
 …ハロルドさんには話したんだよね?伯爵家で何か調査してくれている可能性もある。


 …うお!?アシュレイ泣いてらっしゃる!?
 えーと、えーと、えーっと…!お嬢様もトロくんもあたふたするしかねえ!
 トロくん、そのデザートのミカンに親指つっこんでハンドパワ~ってやつ、私が教えたんじゃん!アシュレイも知ってるよ!!見事にテンパってるね。


「わり…もう、大丈夫だから…。早く言わなくて、ごめんな。今度から…すぐに相談するから。」

 
「えーっと、あ、そうだ!私も皆に報告があるんだけど!」

「何々!?」

「すっごく聞きたいわ!」

「…あははっオレも!」


 ふいー。…皆、受け入れてくれるといいけど…。
 私が真顔になったもんだから、皆も真剣な顔をする。





「私自身まだ受け入れられてないんだけど…私…私…。」


 3人が緊張してるのが伝わる。ええい、ままよ!


「私…人間じゃないかもしれないの…!」



「「「…は?」」」


「だから…っ純粋な人間じゃないんだって!もしかしたら魔族かもしれないし、それすらも違うかもしれない…!」





 …………。






「「「人間だと思ってたの!!?」」」




 ……おん?

「どどど、どういう意味よーーー!!!?」

 何この反応!?すんごいカミングアウトじゃん!ここは「お前が何者だろうと、オレ達との友情は変わらない…!」とか言うとこでしょーーー!!?

「いや友情は変わんねーけど!今更だろーが!」

「あなたのステータス、詳しい数字は知らないけど人間のものじゃないわよね?」

「魔族どころか、魔王様って言われても納得するよ?」


 んな…!三者三様に言いたい放題言ってくれる…!いや人間離れしてるのは分かってたけど!人間じゃないとは思わなかったの!!!


「はあ、緊張して損したわ。早く食べちゃいましょう。」

「そうですね。」

「アシュリィ、冷めるぞ?」


 


「もう…!もおーーー!!!」






 清水の舞台から飛び降りる気持ちでカミングアウトしたのに…!

 でも…皆笑ってるから…ま・いっか!!

しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

君のコエが聞こえる

天地海
恋愛
ずいぶん昔に某S社のロマン大賞――少女小説系の賞で二次審査まで進んだ作品。 友達だと思っていた男子にこっぴどく振られた主人公――真琴は落雷事故のショックで意識不明になるも一命を取り留める。 しかし、目覚めた真琴にはなぜか人の心の声が聞こえるようになっていて、自分を振った例の男子が本当は真琴が好きなんだという心の声を聞いてしまう。 カクヨムでも同時公開中です。 心の声が聞こえたら、恋愛なんて楽勝だと思ってたのに……。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

処理中です...