私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
上 下
30 / 164
幼少期

30

しおりを挟む


 はい到着!早ーい!!

 馬車でえんやこらと進むより、障害物も無い空の旅は速い!!2時間で着いた!まあ途中鳥と衝突したけど…美味しそうなので教会にお土産として持って行く事にした。
 上空で血抜きしたから…もし下でパニックになってたら犯人は私です。ごめんなさいね。
 
 しかし快適な空の旅でございましたわ。離陸時の圧も着陸の浮遊感も、飛んでる最中もほとんど風は無かった。恐らくリュウオウの能力なんだろうけど、そよ風程度で気持ちよかった~。
 そういえば、リュウオウ長いから15人くらい並んで乗れるかなーって思ってたんだけど…尾の方は荒ぶってるから、あの辺に乗ったら振り落とされるね!想像したら笑っちゃったわ。



「よっし、まず教会に挨拶して、荷物を纏めるよ。私達はもう、ここに保護されてる子供じゃあないんだから。」

「お…おう!」


 …アシュレイ、少し慄いてる?
 そういえば忘れてたけど、私達ってまだ8歳なんだよねえ。小学生が自立して住み込みで働いて…しかも見習いとはいえ執事。立場的には他の使用人と同じか上。
 よく考えたら、普通の子供に耐えられるのか…?今更アシュレイを巻き込んだ罪悪感が…!
 でももう退けないし、アシュレイは分かってて覚悟していたハズ。私はアシュレイの手を握った。


「これから大変だけど…一緒ならきっと大丈夫!」

「…!おう!頑張ろうぜ!」


 その意気だ!!



「「ただいまー、シスター!」」

 元気よく扉を開ける。すると現れたのは…。


「おかえり、リィちゃん!あとレイ。」

「カルマ!久しぶりー。」

「オレはついでかい…。」

 飛びこんでくるカルマをぎゅーっと抱き締める。あー、懐かしいこのやりとり!アシュレイとカルマって仲良いんだか悪いんだかよく分かんないんだよね。
 そしてカルマに手を引かれるまま歩き、皆と再会を喜んだ。皆アシュレイの傷跡が消えてる事にすぐ気づき、祝福してくれた。その中に、

「あれっベラちゃん!久しぶりだねー。」

「久しぶり、アシュリィ。それとそっちがアシュレイだね。初めまして、卒業生のベラよ。」

「ああ…アシュレイです。ベラ…さんの事はアシュリィやトロから聞いてるよ。」



 久しぶりにベラちゃんに会えた!今16歳かな?大人っぽくなっちゃって~。一緒に遊びたいけど…今は急がなくちゃ。

「ごめんね、ゆっくりしたいけど私達…すぐ荷物纏めて行かなきゃ。」

「ああ。早くお嬢様の所に行くんだ。」

「それ!それを言いに来たのよ私!」

 ん?ああ、お嬢様に伝言かな?おっけい、でもトロくんに言えばいいのにぃ~このこのっ。

「ちっがーう!そもそも私、最近トロと会えてないのよ。…いや喧嘩じゃなくてね!?
 なんだか…お屋敷でリリー様が大変みたいなの。よく分からないけど、なるべくお側にいたいんですって。」

「そうなの、トロくんここ2週間くらい教会にも来てないし…あっ!!!」




 その話を聞いた私達は駆け出した。荷物はまた後日!!あ。これは渡しとかなきゃ。

「シスターはいお土産!!じゃ、また!」

「えっきゃっ。あら美味しそう。
 …ちょっとー!!この鳥、天然記念物の…!どうしましょう!?」







 急いで侯爵邸に行かなきゃ!!でも第一印象は超大事。早速燕尾服に着替え頭も整え、侯爵邸に…!


「アミエル侯爵家、どこにあんの!!?」

「お前知らねーのかよっっ!!?」


 詰んだ!!!!










 結局空から探す事にしました。いつもどっちから馬車が来てたかは知ってるから…そっちの方角でとにかくデカい屋敷を探せ!!となりまして…。
 我ながら頭の悪い作戦だ。だが、上流階級の家がどの辺にあるのかは知ってるから、そこを目指した。
 後で冷静になってよく考えたら…教会に戻ってシスターに聞くべきだったね!!










「こんにちは。私はアシュリィと申します。侯爵様にはお手紙が届いてると存じますが…お目通り願えますか?」

「ボクはアシュレイです。同じく、お目通り願います。」


「んん?何も聞いてないが…確かか?子供のお遊びにしちゃあ本格的な格好だが。」


 まず第一関門、門番。
 まあ妥当な対応だな。ちびっ子が燕尾服着て当主に合わせろって、怪しいよなあ。


「はい。こちら、ベンガルド伯爵様より紹介状も預かっております。こちらは侯爵様に直接お渡しするよう言付かっています。」

「ベンガルド伯爵…分かった、確認するからちょっと待ってろ。」

「「はい。」」




 ここで焦っちゃいけないぞ、アシュリィ。確実に雇って貰わにゃ。……ところでさっきから気になってたが…。


「アシュレイ…今の門番、2年前にお嬢様の護衛やってた騎士だわ…。」

「えっ、あのタックル事件の?でも話に聞いてた印象とは違うぞ…?」

「なんちゅう覚え方してんのさ。私も驚いてるよ…。」


 門番はもう1人いるので、ヒソヒソと会話する。
 そして、確かにあいつはお嬢様の護衛だった奴だ。お嬢様が襲われるのをただ見学してたあんちきしょう。私に剣を向けたクソったれ。お嬢様を罵倒した身の程知らず。
 私は2年前は前髪で顔隠してたし、ボロい服を着ていたから気付かなかったんだろうな。言いたい事は山程あるが…んんん?
 

 前からずっと思ってたんだけど…侯爵家って…




「おーい。旦那様から面会の許可が下りたぞ。ここから先はあの人に付いて行け。」

「「はい、ありがとうございました。」」


 っと、思考が遮断されちゃった。今は余計な事考えてる場合じゃない!
 お迎えはあの人か。見た所執事さんだね。
 多分30代半ば、なんかこう…常に胃を痛めてそうな弱々しさを感じる。


「ようこそ、小さな見習い執事さん。私はこの侯爵家で執事長を務めているルイス・コルディです。
 さあ、案内するから付いてきてくださいね。」

「ありがとうございます…。」





 調子が狂う。





「ここが旦那様の執務室ですよ。
 旦那様、見習い執事さん達をお連れしました。」

「入れ。」

「はい、失礼します。」

「「失礼します。」」


 侯爵家の名に恥じない立派なお屋敷にお部屋。ここに来るまでの廊下も、絵画や装飾品が素晴らしかった。来客を目で楽しませてくれる。
 そして屋敷の主人も、一見穏やかそうな紳士だ。


「よく来た、2人共。私がこの屋敷の主、ハルク・アミエルだ。お前達の名前を聞こう。」


「はい、ボクはアシュレイと申します。貴重なお時間を割いていただき感謝致します。」

「私はアシュリィと申します。こちらにベンガルド伯爵様より紹介状を預かっております。どうぞお受け取りください。」


 侯爵は私から紹介状を受け取り目を通す。すぐに読み終わり、私達を見据える。




「ふむ、確かにベンガルド伯爵の筆跡だ。
 確認だが、お前達が仕えたいというのはリリーナラリスで相違ないか?」

「「はい。」」


「そうか…。この家では、あの娘に与える物は何もない。当然人員も。
 そこで提案だが、それぞれ他の兄弟に仕えるのはどうか?お前達はとても優秀だと聞いている。
 アシュレイは2人いる息子の世話をすれば良いし、アシュリィには娘を頼みたい。
 だがどうしてもリリーナラリスに仕えると言うのであれば、侯爵家で雇用する事は出来ない。」


「「………。」」



 落ち着け、予想通りだ。伯爵様は考えがあると仰っていた。それが今、私が持っている一通の手紙。

『もし侯爵が君達を雇わないつもりなら、この手紙を渡すといいよ。』

 そう言いながら渡してくださった手紙。…なんか侯爵の弱味でも書いてあんのかな?実はヅラとか。
 


「はい、私達はリリーナラリスお嬢様にお仕えする為に参りました。
 そして伯爵様よりもう一通手紙を預かっております。こちら、私達を採用出来ないと仰るならお渡しするようにと言付かりました。」

 さっきと同じくルイスさん経由で手紙が渡される。私達はもう心臓バックバクだよ。どうなるんだよ私達!!最終手段はお嬢様を掻っ攫って逃げるからな!!!


 その手紙を読んだ侯爵が、溜息をつく。

「この手紙には、ベンガルド伯爵がお前達を雇う、と書いてある。お前達の給金、生活費、その他諸々全て伯爵が負担するそうだ。
 そしてお前達に拒否権は無い。私が手紙を受け取った時点で契約成立だ。」


 !!!!??
 いやいやいや、なんでそこまで!!?
 特訓のお陰で顔には(多分)出てないけど、私今もの凄く困惑してますよ!?アシュレイも。だってすんごい汗かいてるからね!!
 そんな私達の様子に気付いてんだか気付いてないんだか、侯爵は淡々と続ける。


「それだけでは無い。リリーナラリスが寄宿学校に通うのであれば、当然お前達も付いていくだろうと。2人の学費も負担するそうだ。
 そしてこれが同封されていた。お前達のゲルトカードだ。」


 ゲルトカード。それは…キャッシュカードだ。
 この国にも銀行はある。そしてこのゲルトカードは個人の魔力を登録する。つまり、本人しかお金を引き出せないのだ。入金は別。
 でも魔力を登録した覚えなんて…犯人はジュリアさんか!?魔法の特訓の際、既に伯爵がこれを計画してたなら…!
 や…やられた!!何を考えてるんだあの伯爵!?
 旦那様達の事は信頼してるけど…ここまで私達が施される理由はまるでない。善意…じゃないよな。もしそうだとしても、タダより高いモノは無い!

 じゃあ考えられるのは…投資?…今は考えても仕方ない。ひとまず好意に甘えといて、今度会ったら問い詰めよう。



「それではお前達は本日よりこの屋敷で見習い執事として働く。だがあくまで伯爵家の執事だ。
 立場としては客人に近くなる。故に執事ではあるが他の使用人との上下関係は無いと思って欲しい。仕事に関しても、基本的にリリーナラリスに関する事だけで良い。
 備品や食材なども好きに使えば良いし、食事は使用人の分を食べれば良い。全て伯爵が負担するから気にするな。」




 …さっきからさあ、侯爵の言葉。高圧的に聞こえるかも知れないよね。
 でも実際、彼の声はとても優しい。表情だって柔らかいし、まるで子供の成長を見守る親のよう。


 …その表情、その声は!私達ではなくお嬢様に向けるものでしょう!!!






「…かしこまりました。侯爵様のご温情に感謝致します。伯爵様にも感謝の意を送ります。」

 後で伯爵邸にリュウオウ嗾けてやる…。

「もしよろしければ、お手隙の方がいらっしゃればお屋敷の案内をして頂けないでしょうか?」

 アシュレイも結構言葉使い、様になってきたなー。心配無さそうで安心するわ。
 アシュレイの言葉に返事をしたのはルイスさんだ。

「そう言うと思いましてね、手配しておきましたよ。君達も知ってる人物です。先程呼んだので、そろそろ来るでしょう。
 ああほら、丁度。」


 そこに現れたのは当然、トロくんだ!トロくんは私達を確認すると、安心したような泣きそうな顔をした。


「ありがとうございます。それでは行って参ります。
 …ああ!それともうひとつ。今後私の召喚した精霊が、共に行動する予定です。こちらの子なのですが…屋敷内を自由に散策してもよろしいでしょうか?」

 ラッシュを小型犬サイズにして見せてみる。許可されなかったら、蚊サイズにしてお嬢様にくっ付けてやる!!
 (余談だが。召喚時はジャイアントパンダサイズだったよ)

「精霊を連れ歩くのは問題ない。好きにすると良い。」


 よし、言質取った!もうここに用は無い。私達はトロくんと共に執務室を出る。





 …ついに。最後まで…「娘を頼む」の一言が無かったな…。









「トロくんお待たせ!お嬢様の所に案内して!」

「うん…!待ってたよ、お嬢様をお願い…!!」



 やっと…もう大丈夫だからね、お嬢様!!

しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

妖精の取り替え子として平民に転落した元王女ですが、努力チートで幸せになります。

haru.
恋愛
「今ここに、17年間偽られ続けた真実を証すッ! ここにいるアクリアーナは本物の王女ではないッ! 妖精の取り替え子によって偽られた偽物だッ!」 17年間マルヴィーア王国の第二王女として生きてきた人生を否定された。王家が主催する夜会会場で、自分の婚約者と本物の王女だと名乗る少女に…… 家族とは見た目も才能も似ておらず、肩身の狭い思いをしてきたアクリアーナ。 王女から平民に身を落とす事になり、辛い人生が待ち受けていると思っていたが、王族として恥じぬように生きてきた17年間の足掻きは無駄ではなかった。 「あれ? 何だか王女でいるよりも楽しいかもしれない!」 自身の努力でチートを手に入れていたアクリアーナ。 そんな王女を秘かに想っていた騎士団の第三師団長が騎士を辞めて私を追ってきた!? アクリアーナの知らぬ所で彼女を愛し、幸せを願う者達。 王女ではなくなった筈が染み付いた王族としての秩序で困っている民を見捨てられないアクリアーナの人生は一体どうなる!? ※ ヨーロッパの伝承にある取り替え子(チェンジリング)とは違う話となっております。 異世界の創作小説として見て頂けたら嬉しいです。 (❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾ペコ

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...