私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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幼少期

10 リリーナラリス視点

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「トロ、教会へ参ります。付いてらっしゃい。」

「はっはい!」

 
 わたくしはリリーナラリス・アミエル。ここアミエル侯爵家の娘。ですが…


「まあ、簒奪者の娘だわ。」

「また教会に行くのね。意味のない事をするわね。」


 このように、メイド達にも敬われていない娘です。何やら最近使用人達は、私の事を「簒奪者の娘」と呼びますの。…その言い方ですと、お父様が簒奪者という意味合いにも聞こえますが…?
 私が母を殺し、この家から太陽を奪い。アミエル家を乗っ取ろうとしているらしいですわ。…くだらない。


 私には、母の記憶などもちろんございません。それでも、母が皆に愛されていた事はよく分かります。
 …もしも母が存命でしたら、私も…今は…。


 いえ。もしもの事を考える意味はありませんね。
 その時、廊下を歩いていたらお兄様がお部屋から出て来ました。


「お兄様、ご機嫌よう。」

「……。」


 お兄様は私を睨みつけた後、また部屋に戻ってしまいました。…いつもの事です。

 




 この家に、私の味方はいません。皆母が大好きだったから。母を殺した私が憎くて堪らないのです。
 でもそれでも、私はお父様に愛してほしい。お兄様達やお姉様と、笑い合いたい。

 知っていますわ。私がいない空間では、お父様も上兄様も下兄様もお姉様も使用人も、和やかに穏やかに談笑していらっしゃること。
 そこに私が登場すると一気に場の空気が凍りつき、皆それぞれ席を外してしまいますよね。


 私も、その輪に入れてほしい…例え私に笑いかけてくださらなくてもいい。外側から眺めているだけでいいから、私がその場にいることを許してほしい…。
 そう願う事は、罪なのでしょうか。



 私は誰かに褒めてほしくて、良い子であろうとした。

 最初は使用人のお仕事を手伝おうとしました。
 そうしたら使用人の邪魔をするなと、執事経由で叱られてしまいました。
 次はお勉強を頑張りました。
 だけど私がどれだけ良い出来でも、家族はおろか教師も褒めてくださいませんでした。
 ならばと思い、慈善活動をしてみました。
 褒めてくださらないけれど、叱られもしないので間違った行動ではないようです。

 そうして私は教会通いをしています。
 お父様が、私の行動をお姉様の功績にしている事は知っています。
 おかげでアミエル侯爵家の長女はまるで聖女のよう、と社交界で評判なのも知っています。

 私は、例えお姉様の手柄になろうとも。自分の行動を褒められているようで嬉しかったのです。





 しかしある日、あの事件が起きました。


 侯爵家を逆恨みした男が、私に襲いかかって来たのです。
 護衛は動きませんでした。私を護る気などありませんから…。
 しかし、その時。
 私と同じくらいの小さな女の子が、目にも止まらぬ速さで突っ込んで来ました。
 私も衝撃波で少し吹っ飛んでしまったのですが…直撃した男はどうやら背骨と内臓をヤってしまったようです。…最近の庶民は恐ろしいですね…ぶるり。


「(チッ…)お嬢様、お怪我は。」

 そして護衛が残念そうに私に声をかけてきました。…私だって、少しは苛つきますわよ?
 そしてあろう事か自分の事は棚に上げ、女の子に剣を向けました。

 その場はなんとか収めましたが…はあ。


 
 そして邸に帰った私は、お父様に呼び出されました。そんな事滅多にないので、私は浮かれてしまいました。
 ですがお父様の執務室の前に立ち、ノックをしようとしたら。

「…それで、あの娘は無傷なのか。」

「はい、旦那様。かすり傷ひとつございません。」

 お父様と、執事長の声…?





「忌々しい…そのまま死んでしまえばよかったものを。」

「は…仰る通りで。」







 彼らは、何を言っているの?









 ああ、そっか。
 そっか…。






 
 その後は震える身体をなんとか動かし、お父様のお話を聞いた。
 私を助けた子供に何か褒美をやれ、という内容でした。目撃者が大勢いましたものね…何も礼がないとなれば侯爵家の評判が落ちますものね…。



 もう疲れてしまいました。
 どうせ私を見てくれないのなら、いっそ困らせてしまいましょうか。
 こんな風に言われてもなお、お父様の愛を求める私は…滑稽な愚か者でしょうね。


 でも…私は…誰かに愛されたいの…







 新しく護衛になったトロ。彼は元々騎士見習いなどではありませんし、まだ13歳なのです。
 彼はただの庭師見習いで、お父様が…死んでもいい者を私に付けたのです…。
 ヒョロヒョロで気弱で怖がりで。馬にも乗れない、鎧の重さで転倒する、剣など生まれてこの方持ったこともない、魔法も平均以下。
 そんな彼が護衛騎士とは…お父様はよほど、私に死んでほしいのですね。

 彼自身それに気付いているようで、常にビクビクしております。
 本来彼は、花を愛でるのが好きなだけ。だから庭師になったというのに…。


「…トロ。」

「はいっ。」


 彼は他の者の様に私を見下しはしません。味方でもありませんが。
 それだけでも———いいのです。



「もし私の身に不幸が降りかかろうとも、あなたはお逃げなさい。
 安心なさい。侯爵はあなたを責める事はありません。むしろ褒美をいただけるかもしれませんわ。
 だから…あなたを解放できる日まで…お待ちなさい。」

「……。」


 彼の顔を見ずに言ったから、どんな表情をしているかわかりません。
 

 もう教会に行くのは今日で終わりにしよう。
 そう思いながら、向かうのでした。



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