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1.どうしましょう?
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公爵家のお茶会の帰りの馬車で、伯爵令嬢とその侍女が二人で頭を抱えながら、茶会での出来事に溜息をついていた。
「ど、どうしましょう。お嬢様。」
「なるようにしかならないわ。まさか、お茶会でエリオ様から婚約の申し出を受けるとは思わなかったしね。」
「そ、そうですが......」
「公爵夫人主催のお茶会というのがね......。」
そう、今日のお茶会は公爵夫人主催のお茶会だったのです。伯爵夫人の体調が悪く、急遽出席できないこととなり、伯爵令嬢であるエリーゼお嬢様だけが参加するに至りました。
いつものように侍女である私アリーリアと二人で準備をし、いつものようにお茶会に参加して、ささっと令嬢達からの嫌味を流し、ご婦人方からの婚約の勧めを受け流し、子息様との接触を避けるつもりでいたのです。本来なら侍女も同行する必要はないのですが、公爵家のお茶会で招待者も多いことから、給仕の手伝いに侍女も連れてきて欲しいとあったのです。
そして招待状を受付の方に見せて連れて行かれた席が、何故かいつもと様子が違ったのです。いつもなら同じ爵位くらいの子息令嬢の席なのですが。
公爵夫人と一緒の席を進められ、あれよあれよと席に着いた方々を見やると、公爵夫人と娘のミーシャ様、侯爵子息のエリオ様と、なんと王妃と王太子殿下までもが一緒の席にいらっしゃる。
いつもの嫌味令嬢も下心のある子息も近づくこともなかったのは良いのですが、流石にこの面々は爵位が違うどころではないのです。
公爵令嬢のミーシャ様も侯爵子息のエリオ様も同じ学園での学友でした。ミーシャ様は、エリーゼお嬢様の数少ない友人とも呼べる方です。
エリオ様とは、何度か学友同士で買い物を付き添いしたのを覚えていますが、学園ではさほど親密であったとはお嬢様からは聞いていません。夜会でも数度、ご学友ということから踊りに誘われたことはあるようですが。
「ミーシャ様は気づいていらっしゃらなかったのでしょうか。」
「そうね。でも、卒業してから一年、ミーシャ様も王妃教育で会っていなかったし。」
「王妃と殿下まで居たんですよ。私、ガクガクブルブルものでした。間違いなく、不敬罪じゃないでしょうか。」
「露見したら、私も貴方も修道院は決定よね。ふふっ。」
「わ、笑いごとではないですよ! 私は兎も角、お嬢様は......。」
そうなのです。お嬢様と私の恰好は、侍女と令嬢なのです。当たり前だろうと?
そうではないんです。只今、お嬢様が侍女の恰好を、私が令嬢のようにドレスを着て着飾っているのですよ。所謂、入れ替わりということです。
お嬢様と私は、髪がミルクティー色でストレート、目の色はダークブラウンで歳が私の方が一つ上で背格好が似ているのです。胸は、若干お嬢様には劣ります......、本当に若干ですよ!
異なる点は、目付きがお嬢様は少し垂れ目で唇もプルっといい感じの厚みがあり、甘~い、御顔立ち。性格も御顔立ちの通り、おっとりとして優しさが表情から滲み出ているような感じなのです。
対して私は、目付きが鋭く、唇も薄いくてどちらかと言うとキツイ感じでしょうか。キツイ顔つきとは真逆な性格で、せっかちで興味を持つと周囲が見えなくなるほど夢中になってしまう、あぁ我ながら良い所が思い浮かばない。
ですので、家族やご友人が近くで見れば、露見してしまうのです。もちろん、化粧で目付きや口元は、お互いに似せているので、ちょい見ではわかりません。
実は、この入れ替わりは今回が初めてではないのです。もう学園卒業してから今回で5回目だったりします。ちょっと二人で遊び過ぎちゃいました。てへ。
遊び過ぎは少し冗談ですが、最近一部の令嬢からお嬢様が嫌がらせを受けているのです!
婚約者がいないことを遊び好きだからだとか、ミーシャ様にいい顔したいから一緒にいるだとか、お茶をドレスに零すとか、皮肉や冷笑など、女性の僻みは恐るべしです。
お嬢様が婚約しないのは、伯爵様が溺愛しているからで、今は婚約を全て断っているだけですし、伯爵様もお嬢様が好きになる方なら良いと言っているだけです。学園の時からミーシャ様とも親友なだけですし。完全なやっかみで煩わしいので、優しいお嬢様ではなく、特定の令嬢がいる場合は、私と入れ替わっているのです。
考えただけでも腹立たしいです。まったく。
今までは、夜会でもお茶会でも、嫌な特定令嬢がいる時で、出席者が多く壁の花や存在感を消せそうな時だけ。知り合いが居ても接触は控えていたのです。まぁ、お嬢様のご友人自体、先に話したお二人と片手で数えられる程度なので、問題なかったのです。
だから、今回も条件が嵌り、ひっそりやり過ごすだけで済むはずだったのです。それがまさかの主賓席に、入れ替わった平民の私がいたのです。お、思い出しただけでも背中に冷たい汗がつつぅーと。
「あぁ、思い出しただけでも、あのテーブルは寒気しかしないんですが。」
「ごめんね。アリー。」
「私も今まで楽しませて頂いていたので。自業自得ではあるのですが。はぁ~、これからどうしましょう。」
本当になぜこんなことに。後悔先に立たずとは正にこのことでしょう。
「アリー。その席での状況と会話、話してくれるかしら。できれば一言一句ね。」
「はい。いつも通り、記憶していますので。」
記憶力だけは、人並み以上の私。エッヘン! でもその御陰で、また寒気が......。
では、勧められた席に着いてからの会話を思い出して、お嬢様に報告です。
「ど、どうしましょう。お嬢様。」
「なるようにしかならないわ。まさか、お茶会でエリオ様から婚約の申し出を受けるとは思わなかったしね。」
「そ、そうですが......」
「公爵夫人主催のお茶会というのがね......。」
そう、今日のお茶会は公爵夫人主催のお茶会だったのです。伯爵夫人の体調が悪く、急遽出席できないこととなり、伯爵令嬢であるエリーゼお嬢様だけが参加するに至りました。
いつものように侍女である私アリーリアと二人で準備をし、いつものようにお茶会に参加して、ささっと令嬢達からの嫌味を流し、ご婦人方からの婚約の勧めを受け流し、子息様との接触を避けるつもりでいたのです。本来なら侍女も同行する必要はないのですが、公爵家のお茶会で招待者も多いことから、給仕の手伝いに侍女も連れてきて欲しいとあったのです。
そして招待状を受付の方に見せて連れて行かれた席が、何故かいつもと様子が違ったのです。いつもなら同じ爵位くらいの子息令嬢の席なのですが。
公爵夫人と一緒の席を進められ、あれよあれよと席に着いた方々を見やると、公爵夫人と娘のミーシャ様、侯爵子息のエリオ様と、なんと王妃と王太子殿下までもが一緒の席にいらっしゃる。
いつもの嫌味令嬢も下心のある子息も近づくこともなかったのは良いのですが、流石にこの面々は爵位が違うどころではないのです。
公爵令嬢のミーシャ様も侯爵子息のエリオ様も同じ学園での学友でした。ミーシャ様は、エリーゼお嬢様の数少ない友人とも呼べる方です。
エリオ様とは、何度か学友同士で買い物を付き添いしたのを覚えていますが、学園ではさほど親密であったとはお嬢様からは聞いていません。夜会でも数度、ご学友ということから踊りに誘われたことはあるようですが。
「ミーシャ様は気づいていらっしゃらなかったのでしょうか。」
「そうね。でも、卒業してから一年、ミーシャ様も王妃教育で会っていなかったし。」
「王妃と殿下まで居たんですよ。私、ガクガクブルブルものでした。間違いなく、不敬罪じゃないでしょうか。」
「露見したら、私も貴方も修道院は決定よね。ふふっ。」
「わ、笑いごとではないですよ! 私は兎も角、お嬢様は......。」
そうなのです。お嬢様と私の恰好は、侍女と令嬢なのです。当たり前だろうと?
そうではないんです。只今、お嬢様が侍女の恰好を、私が令嬢のようにドレスを着て着飾っているのですよ。所謂、入れ替わりということです。
お嬢様と私は、髪がミルクティー色でストレート、目の色はダークブラウンで歳が私の方が一つ上で背格好が似ているのです。胸は、若干お嬢様には劣ります......、本当に若干ですよ!
異なる点は、目付きがお嬢様は少し垂れ目で唇もプルっといい感じの厚みがあり、甘~い、御顔立ち。性格も御顔立ちの通り、おっとりとして優しさが表情から滲み出ているような感じなのです。
対して私は、目付きが鋭く、唇も薄いくてどちらかと言うとキツイ感じでしょうか。キツイ顔つきとは真逆な性格で、せっかちで興味を持つと周囲が見えなくなるほど夢中になってしまう、あぁ我ながら良い所が思い浮かばない。
ですので、家族やご友人が近くで見れば、露見してしまうのです。もちろん、化粧で目付きや口元は、お互いに似せているので、ちょい見ではわかりません。
実は、この入れ替わりは今回が初めてではないのです。もう学園卒業してから今回で5回目だったりします。ちょっと二人で遊び過ぎちゃいました。てへ。
遊び過ぎは少し冗談ですが、最近一部の令嬢からお嬢様が嫌がらせを受けているのです!
婚約者がいないことを遊び好きだからだとか、ミーシャ様にいい顔したいから一緒にいるだとか、お茶をドレスに零すとか、皮肉や冷笑など、女性の僻みは恐るべしです。
お嬢様が婚約しないのは、伯爵様が溺愛しているからで、今は婚約を全て断っているだけですし、伯爵様もお嬢様が好きになる方なら良いと言っているだけです。学園の時からミーシャ様とも親友なだけですし。完全なやっかみで煩わしいので、優しいお嬢様ではなく、特定の令嬢がいる場合は、私と入れ替わっているのです。
考えただけでも腹立たしいです。まったく。
今までは、夜会でもお茶会でも、嫌な特定令嬢がいる時で、出席者が多く壁の花や存在感を消せそうな時だけ。知り合いが居ても接触は控えていたのです。まぁ、お嬢様のご友人自体、先に話したお二人と片手で数えられる程度なので、問題なかったのです。
だから、今回も条件が嵌り、ひっそりやり過ごすだけで済むはずだったのです。それがまさかの主賓席に、入れ替わった平民の私がいたのです。お、思い出しただけでも背中に冷たい汗がつつぅーと。
「あぁ、思い出しただけでも、あのテーブルは寒気しかしないんですが。」
「ごめんね。アリー。」
「私も今まで楽しませて頂いていたので。自業自得ではあるのですが。はぁ~、これからどうしましょう。」
本当になぜこんなことに。後悔先に立たずとは正にこのことでしょう。
「アリー。その席での状況と会話、話してくれるかしら。できれば一言一句ね。」
「はい。いつも通り、記憶していますので。」
記憶力だけは、人並み以上の私。エッヘン! でもその御陰で、また寒気が......。
では、勧められた席に着いてからの会話を思い出して、お嬢様に報告です。
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