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二人の生活
第018話
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コンテナが高い山に積まれるのを見届けたコメット等一行は、自分たちの部屋に戻ってきていた。ジョセフはお風呂に入っていて、ジョセフはベッドで横になって、ハービーは自分の寝袋にはいって休んでいた。
コメットはというと、ベッドの縁に座って本を読んでいた。売店で売っていた「懐かしの名著」というやつだ。紙の本というのを読むのは久しぶりだが、やはり悪くはない。電子書籍だと書き込みなどをしやすいのだが、やはり文字を読んでいる以上の感覚にならない。今となっては市場に出回る本の大半が電子書籍として出版されているが、一部の人気な本などが紙の本として印刷される理由はこれだろう。
どんな紙の本だが、ひとつ問題があるとすれば、重たいということだ。微少重力下において重さというのは感じないと直感で感じるのだが、そうやって油断していると力加減を誤って、ものがどこかへ飛んでいってしまうこともある。本も見た目は非常に小さいのだが、紙の束なのだからある程度の力が必要だ。それを一時間ほど手に持って読んでいたのだが、かなり腕が疲れてきた。
少し休憩しよう。コメットはベッドの上に転がしておいた栞を読んでいたところに挟み、しっかりと閉じて開かないようにベルトで止めた。こうしておかないと、どこかへ飛んでいってしまったときに勝手に開いて、せっかく挟んでおいた栞も外れてしまうから。こういうところは、電子書籍のほうが圧倒的に便利である。とくに、微少重力の環境下であればなおのことだ。
ふと、窓の外を見る。今日の七一九号室の窓からは、地球がほとんど見えていない。しかし今日は代わりに良い物が見えた。少し前に見た、あの彗星だ。ちょうどここからみて地球の昼側にむかって、とても美しい青色の尾を伸ばしている。大気がないせいなのか、あるいは本当に真っ暗な宇宙空間に浮いているからなのか、地上であのとき見た物よりもずっと美しく見える。しかし、その形はたしかに先日見た彗星と同じだった。
「ハービー、見てよ!」
思わず声かけた。返事こそかえってこなかったが、ハービーは寝袋をごそごそと抜け出して、コメットのすぐ隣にやってきた。
「今日はなにが見えるのさ」
そう言って覗き込んだハービーが、目の前に現れた彗星に言葉を失う。その美しい姿を確実にメモリーに焼き付けるように、目を大きく見開いている。コメットも黙っていると、ハービーがぼそっと「すごい」と口にする。コメットも同意見だった。むしろそれ以外の言葉が出てこない。形の美しさや色のきれいさなどを総合的に考えると、本当に「すごい」という感想しか出てこない。
「なんか、飛びつけそうだね」
自然とそんな言葉がコメットの口から漏れていた。最初にこの彗星を見たあの日とは違って、ともてその彗星が身近なものに感じられたのだ。
「ずっと遠くだよ?」
どうやらハービーはあまりそのような感覚がないらしい。あまりピンときていないようだ。
「でも、あのトラック使えばひとっ飛びだよ」
「そりゃそうだけどさ……」
ハービーが次に続く言葉を考えている間に、ジョセフの声が聞こえてきた。
「あんなのただの汚れた雪だるまだろ」
ふりかえると、ジョセフはパジャマを着ていた。水色のラインが入った飾り気の無い寝巻きだ。
「だとしても、近くで見てみたいじゃないですか!」
「ああいうのは、遠くから見るのが一番なんだよ」
そう言いながら、ジョセフがゆっくりと窓の方へとやってくる。コメットとジョセフの隙間から窓の外を見た。僅かにシャンプーの香りがする。
「でも、どうしてもっていうなら連れていってもいいけど」
ジョセフからその言葉がでてくるとはおもっていなかった。あまりそういうことに興味があるとは思えなかったからだ。
「まあでも、いくとしても次の彗星だな。あのトラックでは、もうあの彗星には追いつけないから」
そういいながら、ジョセフは自分の寝袋に入ってしまった。
「起きててもいいけど、あまり騒ぐなよ。俺は眠いんだ……」
言葉を言い終わらないうちに、彼はもう寝息を立て始めた。二人につきっきりで指導していたから、かなり疲れてしまったのだろう。
「早く行けるといいね」
通信機を通して、コメットはハービーに話しかけた。今日お世話になったジョセフをゆっくりと休ませるためだ。それをハービーも理解してくれたのだろう。宇宙空間と同じような通信機を通した会話が始まった。
「でも、しばらく大きな彗星は来ないよ。小さいのはよく来ているけど」
「どうせ近くに行くんだから、どの彗星にいっても同じじゃない?」
「……まあ、それもそうか」
ハービーはそこで窓を離れてジョセフの横にある自分の寝袋に入る。
「おやすみ、ハービー」
コメットは最後に声を掛けた。もう眠ってしまったかなとも思ったが、しばらくして
「おやすみ」
短くそうハービーが返してくれた。コメットはもう少し窓でこの彗星を見ていようと思った。
次の日の朝、コメットは窓の前で浮かんだまま眠っていた。
コメットはというと、ベッドの縁に座って本を読んでいた。売店で売っていた「懐かしの名著」というやつだ。紙の本というのを読むのは久しぶりだが、やはり悪くはない。電子書籍だと書き込みなどをしやすいのだが、やはり文字を読んでいる以上の感覚にならない。今となっては市場に出回る本の大半が電子書籍として出版されているが、一部の人気な本などが紙の本として印刷される理由はこれだろう。
どんな紙の本だが、ひとつ問題があるとすれば、重たいということだ。微少重力下において重さというのは感じないと直感で感じるのだが、そうやって油断していると力加減を誤って、ものがどこかへ飛んでいってしまうこともある。本も見た目は非常に小さいのだが、紙の束なのだからある程度の力が必要だ。それを一時間ほど手に持って読んでいたのだが、かなり腕が疲れてきた。
少し休憩しよう。コメットはベッドの上に転がしておいた栞を読んでいたところに挟み、しっかりと閉じて開かないようにベルトで止めた。こうしておかないと、どこかへ飛んでいってしまったときに勝手に開いて、せっかく挟んでおいた栞も外れてしまうから。こういうところは、電子書籍のほうが圧倒的に便利である。とくに、微少重力の環境下であればなおのことだ。
ふと、窓の外を見る。今日の七一九号室の窓からは、地球がほとんど見えていない。しかし今日は代わりに良い物が見えた。少し前に見た、あの彗星だ。ちょうどここからみて地球の昼側にむかって、とても美しい青色の尾を伸ばしている。大気がないせいなのか、あるいは本当に真っ暗な宇宙空間に浮いているからなのか、地上であのとき見た物よりもずっと美しく見える。しかし、その形はたしかに先日見た彗星と同じだった。
「ハービー、見てよ!」
思わず声かけた。返事こそかえってこなかったが、ハービーは寝袋をごそごそと抜け出して、コメットのすぐ隣にやってきた。
「今日はなにが見えるのさ」
そう言って覗き込んだハービーが、目の前に現れた彗星に言葉を失う。その美しい姿を確実にメモリーに焼き付けるように、目を大きく見開いている。コメットも黙っていると、ハービーがぼそっと「すごい」と口にする。コメットも同意見だった。むしろそれ以外の言葉が出てこない。形の美しさや色のきれいさなどを総合的に考えると、本当に「すごい」という感想しか出てこない。
「なんか、飛びつけそうだね」
自然とそんな言葉がコメットの口から漏れていた。最初にこの彗星を見たあの日とは違って、ともてその彗星が身近なものに感じられたのだ。
「ずっと遠くだよ?」
どうやらハービーはあまりそのような感覚がないらしい。あまりピンときていないようだ。
「でも、あのトラック使えばひとっ飛びだよ」
「そりゃそうだけどさ……」
ハービーが次に続く言葉を考えている間に、ジョセフの声が聞こえてきた。
「あんなのただの汚れた雪だるまだろ」
ふりかえると、ジョセフはパジャマを着ていた。水色のラインが入った飾り気の無い寝巻きだ。
「だとしても、近くで見てみたいじゃないですか!」
「ああいうのは、遠くから見るのが一番なんだよ」
そう言いながら、ジョセフがゆっくりと窓の方へとやってくる。コメットとジョセフの隙間から窓の外を見た。僅かにシャンプーの香りがする。
「でも、どうしてもっていうなら連れていってもいいけど」
ジョセフからその言葉がでてくるとはおもっていなかった。あまりそういうことに興味があるとは思えなかったからだ。
「まあでも、いくとしても次の彗星だな。あのトラックでは、もうあの彗星には追いつけないから」
そういいながら、ジョセフは自分の寝袋に入ってしまった。
「起きててもいいけど、あまり騒ぐなよ。俺は眠いんだ……」
言葉を言い終わらないうちに、彼はもう寝息を立て始めた。二人につきっきりで指導していたから、かなり疲れてしまったのだろう。
「早く行けるといいね」
通信機を通して、コメットはハービーに話しかけた。今日お世話になったジョセフをゆっくりと休ませるためだ。それをハービーも理解してくれたのだろう。宇宙空間と同じような通信機を通した会話が始まった。
「でも、しばらく大きな彗星は来ないよ。小さいのはよく来ているけど」
「どうせ近くに行くんだから、どの彗星にいっても同じじゃない?」
「……まあ、それもそうか」
ハービーはそこで窓を離れてジョセフの横にある自分の寝袋に入る。
「おやすみ、ハービー」
コメットは最後に声を掛けた。もう眠ってしまったかなとも思ったが、しばらくして
「おやすみ」
短くそうハービーが返してくれた。コメットはもう少し窓でこの彗星を見ていようと思った。
次の日の朝、コメットは窓の前で浮かんだまま眠っていた。
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