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二人の生活
第009話
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ソイエル駅は、カラクシスの首都にして最大の都市であるソイエル市の中心にある駅だ。ここからあらゆる方面へと鉄道路線が延び、ヒトも貨物も一緒にして、つぎつぎに運んでいく。そんな駅の中は、当然のごとくヒトでごった返している。あらゆる方面へと向かうヒトがたった一つの駅に集まるのだから、無理もない。離れないように手を繋いで人混みを掻き分けながら、コメットとハービーは駅舎から這い出るようにして飛び出した。
「相変わらず、すごいヒトだね」
息も絶え絶えになったコメットが、振り返りながら言う。
「この国の中心だもの。しかたないさ」
二人が出て来た中央口からは、常にヒトが溢れてくる。その分駅舎の中のヒトは減るはずなのだが、そこはソイエル駅。出て行ったのと同じだけのヒトが足早に入っていく。平日の昼間である今でこの状態なのだから、通勤時間帯はもっと酷いことになっているのだろう。万が一にも採用されたら、いっそのことソイエルにもっと近い所に引っ越してしまうことも、コメットは考えていた。
「どこだっけ? 待ち合わせ」
ハービーが尋ねる。二人は近くにあるベンチに腰を下ろして、ホログラムの地図を二人の間に広げた。
「駅前にあるここだと思うんだけど……」
指差したところにピンが立つ。駅前大通りの一角にある小さな公園だ。
「おや、こんなところで会うとは」
突然、ひとりの男性が二人に声を掛けた。二人の間に開いた地図から目を離して声のした方を見てみると、そこにはひとりの男が立っていた。買ったばかりのように綺麗な運動靴と、それとはアンバランスに汚い黒いズボン。なにか文字がプリントされたTシャツの上には、紺色の長袖ジャケットを着ている。
「初めましてじゃ分からないかな?」
その声はやはり、どこかで聞いた記憶がある。いや、どこかでじゃない。はっきりと憶えている。
「えっと……朝の電話の?」
「正解!」
嬉しそうな顔をしてコメットを指差す。
「どうして私がコメットだと分かったんですか?」
お互いの声は確かの知っている。しかし、これだけのヒト込みの中から特定の声を探していたとは考えにくく、男はコメットの顔を知っていたと考えるのが普通だろう。しかし、音声通話しかしていない人物の顔など、男はどうやって知ったのだろうか? あるいはどこかで会ったことがある人なのだろうか? それこそ、風俗店のお客さんとして。
「だって、メアリーさんのお店で働いていただろう? あそこに顔写真が貼ってあったからさ」
なるほど。記憶力の良い人なら、アンドロイドの顔ひとり分くらい簡単に憶えることができるだろう。しかし、コメットにはやはりこの男には見覚えがない。
男が手をコメットに差し出す。
「あらためて、ジョセフだ。今日はよろしく」
「コメットです」
ジョセフと名乗ったその男に対する警戒心が僅かに強くなったが、求められた握手を断るのも変な感じがする。震える手でそっと握りながらコメットは改めて名乗った。
「そちらの方は?」
コメットの隣にいるハービーの方を指差す。見てみると、ハービーは警戒感をむき出しにして、鋭い目つきでジョセフを見ている。握手したことさえ、あまり良いとは思っていないようだ。
「ハービンジャーです。コメットと一緒に住んでいる者です」
「なるほど、同居人か、それで……」
うんうんと頷いて、一人で納得する。ハービーの警戒感を知ってか知らずか、ジョセフは彼には手を差し出さなかった。
「このまま立ち話でもなんだから、どこかのカフェでも入ろうか。お二人さん、飲めないものとかは?」
「アルコール以外なら、ひととおり」
「同じく」
コメットの答えに続いて、ハービーが警戒をふくんだ鋭い声で続けた。もちろん、人間が一般的に飲める物に限定される。化石燃料とかも飲めなくはないだろうが、十中八九故障するだろう。
「上出来だ」
にやっと笑みを浮かべると、ジョセフは一人で歩き出した。二人は遅れないようにと、いそいで荷物をしまい、人混みに消えかけていたジョセフを追いかけた。
「相変わらず、すごいヒトだね」
息も絶え絶えになったコメットが、振り返りながら言う。
「この国の中心だもの。しかたないさ」
二人が出て来た中央口からは、常にヒトが溢れてくる。その分駅舎の中のヒトは減るはずなのだが、そこはソイエル駅。出て行ったのと同じだけのヒトが足早に入っていく。平日の昼間である今でこの状態なのだから、通勤時間帯はもっと酷いことになっているのだろう。万が一にも採用されたら、いっそのことソイエルにもっと近い所に引っ越してしまうことも、コメットは考えていた。
「どこだっけ? 待ち合わせ」
ハービーが尋ねる。二人は近くにあるベンチに腰を下ろして、ホログラムの地図を二人の間に広げた。
「駅前にあるここだと思うんだけど……」
指差したところにピンが立つ。駅前大通りの一角にある小さな公園だ。
「おや、こんなところで会うとは」
突然、ひとりの男性が二人に声を掛けた。二人の間に開いた地図から目を離して声のした方を見てみると、そこにはひとりの男が立っていた。買ったばかりのように綺麗な運動靴と、それとはアンバランスに汚い黒いズボン。なにか文字がプリントされたTシャツの上には、紺色の長袖ジャケットを着ている。
「初めましてじゃ分からないかな?」
その声はやはり、どこかで聞いた記憶がある。いや、どこかでじゃない。はっきりと憶えている。
「えっと……朝の電話の?」
「正解!」
嬉しそうな顔をしてコメットを指差す。
「どうして私がコメットだと分かったんですか?」
お互いの声は確かの知っている。しかし、これだけのヒト込みの中から特定の声を探していたとは考えにくく、男はコメットの顔を知っていたと考えるのが普通だろう。しかし、音声通話しかしていない人物の顔など、男はどうやって知ったのだろうか? あるいはどこかで会ったことがある人なのだろうか? それこそ、風俗店のお客さんとして。
「だって、メアリーさんのお店で働いていただろう? あそこに顔写真が貼ってあったからさ」
なるほど。記憶力の良い人なら、アンドロイドの顔ひとり分くらい簡単に憶えることができるだろう。しかし、コメットにはやはりこの男には見覚えがない。
男が手をコメットに差し出す。
「あらためて、ジョセフだ。今日はよろしく」
「コメットです」
ジョセフと名乗ったその男に対する警戒心が僅かに強くなったが、求められた握手を断るのも変な感じがする。震える手でそっと握りながらコメットは改めて名乗った。
「そちらの方は?」
コメットの隣にいるハービーの方を指差す。見てみると、ハービーは警戒感をむき出しにして、鋭い目つきでジョセフを見ている。握手したことさえ、あまり良いとは思っていないようだ。
「ハービンジャーです。コメットと一緒に住んでいる者です」
「なるほど、同居人か、それで……」
うんうんと頷いて、一人で納得する。ハービーの警戒感を知ってか知らずか、ジョセフは彼には手を差し出さなかった。
「このまま立ち話でもなんだから、どこかのカフェでも入ろうか。お二人さん、飲めないものとかは?」
「アルコール以外なら、ひととおり」
「同じく」
コメットの答えに続いて、ハービーが警戒をふくんだ鋭い声で続けた。もちろん、人間が一般的に飲める物に限定される。化石燃料とかも飲めなくはないだろうが、十中八九故障するだろう。
「上出来だ」
にやっと笑みを浮かべると、ジョセフは一人で歩き出した。二人は遅れないようにと、いそいで荷物をしまい、人混みに消えかけていたジョセフを追いかけた。
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