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僕の大好きな兄ちゃんは勇者です!!

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 ある日、目が覚めると僕の兄ちゃんが勇者になっていた。

突然だった。七夕の次の日だ。
つい昨日までは兄ちゃんはただの正義感が強いだけの普通の高校生だったんだ。
それに僕の兄ちゃんは優しいんだ。
僕にショートケーキの頂点イチゴを分けてくれるし、勉強だって教えてくれる。
捨ててあった野良猫を拾って「飼ってもいい? 見捨てられなかった」って抗議してくれるくらい優しいんだ。
今ではその野良猫も僕の家族の一員さ。
家族みんなが兄ちゃんの優しさを知っている。



 勇者って言うのは悪い魔物や化け物や悪者からみんなを護る職業なんだって。
両親からも許可は得たらしい。まるで桃太郎みたいに送り出すつもりだってさ。
でも、僕には勇者ってのが分からない。
「勇者って何?」って僕が聞いたら兄ちゃんは。
「スーパーヒーローみたいなものだよ」って言っていた。
スーパーヒーローは憧れの存在だ。僕もスーパーヒーローは大好きさ。
スーパーヒーローはかっこいいんだ。
どんな怖い怪獣や怪人や悪人にも立ち向かう。そしてピンチになっても必ず怪獣や怪人を倒してくれるんだ。
日本のみんなを救ってくれるんだ。
そんなスーパーヒーローみたいなのが勇者ってことは。
勇者ってすごい存在なんだろうね。

どうやら突然、夢の中に神様みたいなのと猫みたいな神獣が現れて、兄ちゃんは勇者に選ばれたらしい。
この地球を護るために闘うんだって。
ますますスーパーヒーローみたいだ。僕は勇者になった兄ちゃんを誇りに思う。
七夕の短冊に「スーパーヒーローに会えますように」って書いたら、まさか兄ちゃんが勇者になるとは予想外だったけど、願いが叶ったよ。
兄ちゃんは子供らしい夢だって笑っていたから「じゃあ兄ちゃんはどんな願い事を書いたの?」って聞いたら。
「これからも家族みんなで幸せに暮らせますように」って書いたらしい。
やっぱり兄ちゃんは優しいや。
しっかし、神様って本当にいたんだな。



 僕が小学校から帰ると、帰り道の途中で兄ちゃんの同級生に会った。
僕の家の隣に住んでいる兄ちゃんの友達だ。

「学校での兄ちゃんの様子かい?
別に今まで通りのあいつだよ。たぶんあいつには裏がないからな。君の家でも見る普段のあいつだけど?」

「それでも兄ちゃんの事を聞きたいの。教えて!!」

「そうだな~。
あいつはすごい奴だよ。
みんなに頼られる学級委員長だしさ。運動神経もよくてサッカー部の次期キャプテン候補だぜ?
しかもモテる!!
そりゃそうさ。カッコよくて優しいとなりゃ、もうクラスの女子たちは釘付けよ。
サッカーの試合の日にゃたくさんの黄色い声援で相手チームがビビったらしいぜ笑
お陰で俺も先日彼女から別れ……おっと何でもない。
それでいて、謙虚だ。自慢もしない。
お陰で男子からも大人気さ。
恨んでいるのは数人の教師くらいかね?
妬みってやつだろうよ。
ああ、学校でのあいつが心配なら安心しな。何も問題はないよ。実は俺は感謝してるんだぜ?
あいつの近所に住んでるってだけで俺の株も急上昇。
まったく、お兄様様ってやつだな。
まぁ、あいつは正義感が強いからな。揉め事が起きたらいつもすっとんで来て解決しようとしやがる。
……そういえば最近早退が多いな。珍しいこともあるもんだが。
理由が勇者とくりゃ。冗談までもうまい。
そういう“才能”のある立派な奴だし、生まれた時から勇者になるって決まってたとしか思えねぇよ笑」

兄ちゃんの友達が話してくれる学校での様子に僕は感動した。想像するのはカッコいい兄ちゃんの姿ばかりだ。
兄ちゃんの友達が兄ちゃんが勇者だって事を信じてはくれなかったけど。
学校での兄ちゃんも立派な人間だったようだ。
やっぱり、兄ちゃんは学校でも優しいんだ。



 僕なりに勇者について調べることにした。僕も兄ちゃんの役に立ちたいんだ。僕は図書館に行って難しい本を読み漁る。

勇者は魔王という恐ろしい存在から人々を護る正義の味方で英雄らしい。
神様から“すごい力”を与えられて生まれてくるんだって。
この“世界には存在しない異世界って場所にいる存在”らしいけど、兄ちゃんは例外だったのかもしれない。
どうやら、伝説の剣を手にいれてそれを武器にして戦うらしい。
あとパーティー?という勇者を助ける仲間がいる場合もあるみたい。
強大な威力の魔法を操る、世界を支配しようとする悪役の魔王を倒すために頑張っているんだって。

いつか僕も兄ちゃんを助けられる立派なパーティーって奴に入りたいな。
そのために僕もいっぱいいっぱい勇者について学んでいかないと……。



 兄ちゃんが勇者になって数日後。
テレビをつけると兄ちゃんの話題が映っていた。
どうやら立て籠り殺人鬼を倒したんだって。
僕としては正直「なんだ。兄ちゃんは勇者なのに相手は殺人鬼か」くらいに思って観てた。
でも、世間の人も近所の人も僕の両親も、「素晴らしい素晴らしい」って兄ちゃんの事を褒めていた。
お父さんは「あいつは私の誇りだ」って言ってたし、お母さんは「初勝利だもん。お祝いしなきゃね」って言ってたよ。
だから、その日はごちそうだった。まるで「お誕生日会かな?」って思うくらいのごちそうがいっぱい。
僕の好きなスパゲッティも兄ちゃんが好きなドーナツもある。
僕らは兄ちゃんが帰ってくるのを待った。
そして兄ちゃんが家に帰ってきた。
だけど、兄ちゃんはどうやら疲れてしまっていたみたいで……。
食事も食べずにそのまま自室に入っていっちゃった。
あの兄ちゃんが……珍しい。



 それからというものの、兄ちゃんの噂は日本中に広まった。
それと同時に兄ちゃんの活躍もどんどん増えていっている。
たくさんの悪人をやっつけてくれている。
だから、テレビをつけるといつも勇者特集だ。

「勇者様サイコー」
「勇者様がいるから怖い事件も減ってきてますね」
「勇者様って“いつどこへでもワープ”できるそうじゃない。私の前にも現れてくれないかしら」
「勇者様ブームのお陰で商品が売れに売れ」

街角インタビューでも色々な人が兄ちゃんの活躍に喜んでくれている。
もう勇者はこの日本のヒーローにまで登りつめちゃった。
世の中は空前の勇者ブーム。流行語まで勇者になりかもしれないくらい皆が勇者について話をしていた。

「勇者!!」
「勇者!!」
「勇者!!」
「勇者!!」
「勇者!!」
「勇者!!」
「勇者!!」
「勇者!!」
「勇者!!」
「勇者!!」
「勇者!!」
「勇者!!」

ネットの中でも勇者ブーム。
たまに勇者について“批判的な意見”も来るけれど、それは炎上させられていたらしい。
僕がインターネットを使って調べたことだ。
最近では図書館や書店では勇者関連の本はほとんど見なくなった。
しょうがなく、お母さんと一緒にお店に行ってみたりもしたのだけれど。
そもそもお店の物も勇者関連の物が減っている。
お母さんにどうしてかを聞くと「転売っていう現象だね」って言っていた。
僕としては正直、困っている。由々しい事態だ。
だって勇者について調べないと僕が兄ちゃんのパーティーに入ってサポートができないじゃないか。



 僕は感謝状を送ることにした。
勇者業務で忙しい兄ちゃんに渡すのだ。
兄ちゃんには少しでも喜んでもらえたら嬉しいな。
紙を切って。文字を書いて。色を塗って。折り紙を張り付けて。
昔、兄ちゃんに教わったように工作を始める。
──こうして完成した感謝状。
頑張って作ったから兄ちゃんに喜んでもらえると嬉しいな。
その後、僕は自室で兄ちゃんが帰ってくるのを待った。
兄ちゃんが帰ってきたのだ!!

「た……ただいま」

「おかえり~今日は遅かったわね。ご飯置いているからチンして食べちゃいなさい」

お母さんと兄ちゃんの話し声。そしてテレビから聞こえてくる勇者特集。
僕は急いでリビングに駆け降りた。

「兄ちゃんおかえりーーーー!!」

そう言って僕は兄ちゃんに飛び付く。兄ちゃんは少し焦ったような表情を見せたが、「ただいま」と声をかけてくれた。

「でも、ごめんな。先に手を洗わせてくれ。
……ほら、外から帰ったら手洗いだろ?」

「そうだった。ごめんなさい兄ちゃん」

すっかり無我夢中だった。僕は兄ちゃんにごめんなさいと謝罪を行う。
すると、兄ちゃんの顔が一瞬明るくなったような気がした。

「ああ、ありがとう。お前はほんとうに良い弟だな」

こうして手洗いを行うために洗面台へと兄ちゃんは向かっていく。
数分後、戻ってきた兄ちゃんに僕は笑顔で感謝状を手渡した。

「兄ちゃん。いつもありがとう!!」

「おっ…………フフ。いや~照れるな~。こちらこそありがとう。嬉しいよ。中身は後で読むからな。
ほら、それよりもう子供は寝る時間だろ?
俺を待ってくれたのは嬉しいが、夜更かしはいけないぞ?」

「わかってる。おやすみなさい兄ちゃん!!」

僕は感謝状も渡せることができて大満足。そのまま二階へと向かい、自室に戻っていくのだ。
兄ちゃんは感謝状を手渡しただけでも喜んでくれたし、きっと中身を読んだから嬉しくて泣いてくれるんだろうな~。






深夜に兄ちゃんのすすり泣く声と一度だけ壁を殴る音が聞こえてきた。





 ────兄ちゃんが勇者になって明日で1年。今日は7月7日。

「みなさん避難してください」
「空をご覧ください。あの雲のように黒いのが魔王軍です。もう数えきれない数です!!」
「勇者壊滅を目論む魔王と名乗る集団が上空に現れました」

今日も勇者は闘っている。日本のために闘ってくれている。
結局、僕は勇者のパーティーに入れなかったけど。
心の中で兄ちゃんの事を応援するんだ。

「勇者様頑張って……」

そして空が光った。
あれは魔法……?



────────────

 ある日、目が覚めると僕の兄ちゃんが勇者になっていた。

突然だった。七夕の次の日だ……。
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