勇者の子孫だがもうツラい。最強の血飛沫魔法と共に不マジメンに生きてやる。

満部凸張(まんぶ凸ぱ)(谷瓜丸

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魔王

魔王の側近四天王。牛肉・豚肉人気投票

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 ここは魔王城。
かつて、この場所で勇者と魔王が世界の命運を賭けた闘いが繰り広げられていた。
今は邪悪感のある雰囲気は健全。
踏み込もうとしただけで全身が威圧されそうな雰囲気を醸し出している異形の城である。
その頃、魔王城の前にやって来るであろうブラストン達は……。
───パラリラパラリラパラリラ!!
『愛落部豚肉』『脱牛肉生活』『豚肉最高級』と書かれた特効服や旗を掲げて大地を走り抜ける数台の改造バイクに乗っていた。
そしてリーゼントの髪型になったブラストンは先頭を突っ走る。
その後ろではエメラルがヘルメットを被りながら、無言でこの時間を耐えている。

「…………」(エメラル)

ブラストンの改造バイクの側には数十人の豚肉賛同者達が同じような格好で彼女の後を追って走っている。

「おう、いくぞお前ら!!
あそこに牛肉派閥がいる。カチコミじゃァァァ!!」

ブラストン達が目指すは魔王城。

「オオオオオ!!」(周囲にいる賛同者達)

「みんなチャカを持て。豚肉が最高級のお肉だという事を奴らの頭に叩き込んじゃるけのぉ!!」

豚肉賛同者暴走派閥。
ここらいったいじゃ知る人ぞ知る反牛肉派勢力である。
そして、その頭(ヘッド)を勤めているのがブラストンなのだ。
彼女たちは魔王城の目の前で改造バイクを駐車する。
ここからは直接殴り込みで攻めていくつもりなのだ。

「今夜の焼き肉は牛肉じゃぁぁぁ!!」(ブラストン)

「オオオオオオ!!!」(周囲にいる賛同者達)

今、ついに豚肉賛同者暴走派閥と魔王城との闘いの火蓋が切られようとしていた。





 だが、豚肉賛同者暴走派閥には予想もしていなかった出来事が発生する。

「炎の地獄『アポカリプス・ヘルズ』!!!!」

橋の先にある魔王城の門が自動で開いたかと思うと、いきなり地獄のような炎の塊が彼らに向けて発射されたのである。

「「ヤバイ逃げろ!?」」(ブラストン達以外)

間一髪で豚肉賛同者暴走派閥たちはその魔法を避けることができたのだが……。
放たれた炎の塊は駐車された改造バイクに激突。
改造バイクは木っ端微塵に消しとんでしまったのだ。
もちろん、ブラストンは爆発に巻き込まれることもなく回避する。
ただ、ブラストンはエメラルを見捨てたわけではなく彼の体を抱えた状態でも、その攻撃を避けることはできていた。
そして、ブラストンはエメラルを地面に降ろしてあげると、攻撃が行われた方向に顔を向ける。

「よくも私たちの相棒を……」(ブラストン)

魔王城の橋。
そこは先程の攻撃のせいだろうか。黒い煙がモクモクと立ち、橋が少し焦げている。
そして、その奥からブラストンに向けて話しかける声が聞こえてきた。

「あんたたち、騒音騒ぎをするにしてもここがどこか分かっているのかい?
あきれたねぇ。ここは魔王様のお城だよ?」

「若さゆえの過ちだな。仕方がないさ。
まぁ、魔王城の城の前で騒音騒ぎをするなんてな。この若者どもを脅せばいくら揺すれるだろうか」

「はぁぁん?
あなたはお優しい。お金で解決ですか。ですが、お金だけじゃ勿体ないでしょう。
やはり肉体も貰いたいものですねぇ。
我が夢の実現のためにその肉体を弄らせて貰いたいものですねぇ」

「やめろお前ら。どうせ意味のない会話だ。殺して奪えばいい。魔王城に来た者は全員我ら“四天王”が殺戮するのだからな」

四天王。
その言葉を聞いた瞬間に、エメラルは恐ろしくなってしまいブラストンの背後に隠れる。
魔王城の四天王とはきっと恐ろしい存在のはずだ。
1人1人が国を簡単に滅ぼせるほどの実力を持つ強者たち。
そんな敵が全員集まっているのだ。

「貴様達が四天王……」(エメラル)

だが、ブラストンだけが四天王を前にしても逃げたり隠れたりしていない。
ブラストンだけが橋の上で自身の愛剣を構えて戦闘体勢に入っている。
ちなみに、豚肉賛同者暴走派閥はブラストン以外にもうこの場には1人もいない。まるで最初から誰もいなかったかのように周囲は静まり返っている。

「1人で我ら四天王に立ち向かうのか?
よかろう。我ら四天王の姿を人間の貴様にも特別に見せてやろう……」

四天王の1人が手を振りかざすと黒煙は風圧でかき消されてしまった。



 黒煙から姿を現したのは全身黒い鎧を装備した黒騎士。漆黒の鎧に包まれた強者。

「「「「我らこそが魔王様をお守りし側近、四天王である」

「…………何あれ」(ブラストン)

「…………ねぇ、ブラストンさん。四天王なのにあの人1人だけだよ」(エメラル)

エメラルは指摘する。
先程まで4人の声が聞こえてきていたのに煙が払われたら1人しかいないのだ。疑問に思うのも当然である。
しかし、黒騎士としてはそこに触れてほしくなかったのだろう。
彼はエメラルに指摘された際に涙声でその理由を吐き捨てるように白状した。

「だってしょうがないじゃない。私も四天王したかった……。四天王じゃなきゃダメだった。だって……まさか…………まさか。

他の四天王が仮面浪人していたなんて思わないじゃないの!!!!」

橋の上で泣き始めた黒騎士。
魔王城で数年間共に過ごしてきた仲間がまさか魔王城志望ではなかったなんて思っていなかったのである。
四天王はきっと今では魔王城よりもレベルの高い大学に通っているのだろう。黒騎士をここに残して……。

「黒騎士さん……」(エメラル)

エメラルも彼に同情してしまう。
エメラルが隣を見るとブラストンもハンカチで涙を拭っている。
さすがのブラストンも泣いている黒騎士を相手にすることはできないのだろう。
エメラルは(ブラストンにも心優しい一面があるのだなぁ~)と感心させられていたのだが……。

「甘ったれるな!!」(ブラストン)

ブラストンの一刀が黒騎士を切りつける。
そして、すぐにふらついた黒騎士の襟足を掴んでブラストンは彼に告げる。

「四天王すればいいじゃねぇか。勝手に諦めてんじゃねぇよ。お前1人でも私たちにお前の四天王を見せてみろ!!」(ブラストン)

その言葉は黒騎士の意識を変えた。彼女のお陰で気づかされた。先程までのように1人4役で四天王を続ければいいのだ。

「ありがとう侵入者。私、間違ってた」

「良いってことよ。さぁ、お前の四天王を見せてみな!!」(ブラストン)

ブラストンは自身の胸を親指で指差しながら、黒騎士を迎え撃ってやろうと考えている。
彼の新たなる四天王っぷりを見定めるためにブラストン自らが相手となる。
彼の全力の四天王を受けきるつもりなのだ。

「風の地獄『クレイジースラッガー』(ただの一刀)」
「土の地獄『デストロイグラウンド』(ただの一刀)」
「水の地獄『アトランテスウェイブ』(ただの一刀)」

「フハハハハ、どうだ侵入者。我ら四天王の力思い知ったか?」

「…………」(ブラストン)

無言で何も答えないブラストン。彼女は黙って黒騎士の攻撃を避けながら、ウンウンと相づちをうっていた。
いつの間にか、彼女はこれまでの黒騎士の四天王ぶりを判断する審査員のような格好に着替えている。

「くらえ、最後は私の炎の地獄『ストラ……』」

さて、最後の四天王ぶりを発揮しようとする黒騎士に対するブラストンの判定は……。




 「ウザい!!」(ブラストン)

黒騎士の炎の地獄が発動する前にブラストンの『血飛沫スラッシュ』の一刀が放たれる。
ブラストンの攻撃は黒騎士の鎧を貫通し、地肌にまで傷をつけた。

「グハッ!?」

黒騎士はその一撃によって吐血し、フラフラと後方へと下がっていたのだが……。

「あっ、アレレレレレレレレ~!?!?」

黒騎士は橋の上からバランスを崩して転落。
底も見えない橋の下へとその姿は消えていった……。




────────────
 ゴゴゴゴ…………!!
黒騎士が奈落の底へと落ちていくと、突然魔王城の門が音をたてて開き始める。
魔王城の門はまるでブラストン達が入城するのを待ち望んでいるかのようだ。

「待っていろ魔王。私が必ずこの世界を救って見せる!!」

「ブラストンさん今日は討伐じゃないっす!!」

打倒魔王の決意。
今回の目的は魔王を助っ人にする事だと言うことも忘れて、ブラストンは世界を救う勇者のような気分で入城するブラストンであった……。
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