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第3台目:価値価値村

旅館+睡眠

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さて、飯居先輩に連れられてやって来たのは山奥のとある小さな村。
飯居先輩はここで親睦会というものを計画しているらしく、それに強制的に参加させられた3人。
霧が濃い中、車を走らせること4時間。
彼らはようやく小さな村にある旅館の前にたどり着いた。

「「旅行ー旅行ー温泉!!」」

飯居先輩と長与は2人してテンションアゲアゲの状態で旅館へと急ぐ。
そんな2人に置いていかれた芦谷とエビル。

「ったく。はしゃぎすぎだろあのバカ2人」

芦谷は頭を掻きながらもエビルの方をチラ見しながらゆっくりとエビルのペースに合わせて歩く。
だが、エビルの方から芦谷を見ることはあっても、芦谷の方からは絶対に視線を合わせたり振り向いたりをすることはなかった。
その不自然さにエビルは耐えられなくなり尋ねる。

「……何?」

「その~なんだ。ほら、子供が1人でいるってのは誘拐されかねないからな。それにお前は狙われてる身だから」

「……別に気にしないで」

「そうか?
僕の気にしすぎなら別に構わないけどさ。まぁこんな山奥に追っ手が来るわけも」

「……そうじゃない。あなたのこと。
誘拐された事を……恨んでないから。慣れてる……」

「ん……ああその。悪かった謝罪する。命令とはいえ誘拐したのは僕だ。お前にツラいものを見せたキッカケは僕だ」

「…………いい。慣れてる」

そう言ってこの会話は終わり、エビルは芦谷よりも早歩きで旅館へと向かっていく。
正直に白状すると、芦谷はエビルの許しを得たいとは思ってもいなかった。
芦谷の命令通りの行動によってエビルが見るはめになった光景は謝罪なんかで解決できない。
謝罪の言葉なんかで終われるものでもなかったのだから。



さて、長与たち4人は旅館へとたどり着いた。

「見ろよ。エビルちゃん!!
めっちゃ広いぞ。なにここ!!」
「見てよ。芦谷!!
めっちゃ広いよ。なにここ!!」

旅館内に入ってもテンションが静まらない長与と飯居先輩。
入った瞬間からさらにゼンマイが巻かれたように走り回りだしてしまいそうな2人。
まるで子供だ。
エビルが最後に入ってきた時には既に問題児2人は旅館内の半分を見終わっていた。

「「離せーーあと半分なんだーー」」

そんな問題児2人の首根っこを芦谷は抑える。これ以上暴れられてはたまらないからだ。

「旅館を走るな。大人しくしてろ。まだお金も払ってないんだぞ!!」

芦谷の注意もむなしく、問題児2人は一向に静まる気配がない。
まるで荒ぶる神のようだ。
芦谷が手を離せば、すぐに2人は旅館中を駆け巡ることになってしまう。
そんな中、芦谷の側に1人の老婆が現れた。

「いらっしゃいませ。ようこそ我が旅館『茶釜荘』へ。私は管理人の者ですじゃ」

「すみません管理人さん。お騒がせしてしまい。あの……1泊の間2部屋借りたいんですけど」

「気にしないでください。これほどの山奥、人は自然に帰ると獣に戻っていくと言いますし。気分があがるのも当然ですじゃ。ただし、夜はお静かに」

「そうなんですか……?  すみませんね」

「それではどうしましょう。男女2人ずつ部屋を分けますかな?
一応、西が男性。東が女性と分かれておりますが」

管理人の言うことにゃ、どうやらこの旅館は男性側の建物と女性側の建物に分かれているようだ。
芦谷としては旅館の決まりならば、それに従いたかったのだけれど。

「嫌だ。エビルちゃんと離れたくねぇ!!」
「嫌だ。エビルちゃんと離れたくない!!」

問題児2人のワガママを聞くことにした。
どうせ、断ってしまえば再び荒ぶって走り出すに決まっている。
それだけは避けておきたいという芦谷の考えからである。

「この2人の意見、なんとか通せませんか?」

「そうですね…………それならば特別に205号室と216号室を使いましょう。男性側の建物ですが、今回は特別です」

「ありがとうございます」

「それではこの管理人めに着いてきてください。はぐれないように……」

管理人さんは長与たちを案内するために先を急ぐ。
彼女の後ろにはエビルがトコトコと着いていき。
その後ろには長与、さらに後ろには芦谷と泣きながら歩く飯居先輩。

「……私がーーエビルちゃんとーー同じーーーー部屋がよかったよーーー」

「飯居先輩。諦めてください。
エビルちゃんは長与と一緒の方が良いらしいです。諦めてこれまで通り僕と同じ部屋で寝てください。なにもしませんから。
って選ばれない僕の方がつらいんですからね!!」





205号室と216号室。それぞれの部屋割りが決まった。お互いに少し距離はあるが、会いに行けばいいので問題はない。
というか。飯居先輩が向こうに言ってくれた方が助かると芦谷は考えていた。
芦谷的には独りになれた方がいいのである。独りの方が気楽なのだ。

「ねぇー芦谷。あっちに遊びに行こう?
せっかくの親睦会だよ。
これじゃあまるで偶然ご近所と同じ旅館に泊まる旅行じゃないか」

「寂しいなら1人で向こうの部屋に行けば良いじゃないですか?」

「寂しいのではないよ。暇なんだよ。
ここなーーーんにもないんだもん。
お店も史跡も観光地もない。家々が連なってるだけだ」

「恨むならここに決めた自分を恨んでください。それじゃあ僕は寝るんで」

芦谷は飯居先輩に背を向けてダラダラと寝入ろうとする。
目を閉じると聴こえてくるのはサワサワという木の葉が風に揺れる音や川の水が流れる音。
たまに野鳥の声が聴こえる。

「…………」

なんて寝やすい場所なのだろう。
ここならば日頃の睡眠不足も解消できるというものだ。
都会という辛い日々を忘れて田舎でのんびりと休息の時間を満喫する。
それこそが今芦谷が求めている幸せだった。

しかし、芦谷が完全に眠りに入ろうとした時である。

───バタッ!!
大きな音を発ててふすまが開かれ、現れたのは別室にいるはずの長与とエビル。

「よし、夕食までトランプしようぜ!!!!」
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