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最終章 どうやらヘレシーは【道徳否定】のようです。
最終回:どうやら主人公は付喪人のようです
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エルタの体は殴り飛ばされて、ゴロゴロと転がる。そして、大の字に倒れていた。
「はぁ…………はぁ………………………………」
俺は腕を下げる。もうこの場から動く体力すらもない。速く回復させなければ……。エルタにダメージを与えただけで、殺したわけではないのだから。エルタはきっと立ち上がり、再び俺にトドメを刺そうとするはずだ。それまでの時間稼ぎとして速く休まなければ……。
「………はぁ………アア……!!?」
呻き声をあげながら、エルタは生きていた。その数分後、身体中から出血しながらもエルタはピリピリと痙攣する体を圧し殺しながら立ち上がった。お互いにもう限界が近い。
お互いににらみ合いながら、そのまま2分が経過する。
お互いに「なぜ、殺しに来ない?」などとは言えない。
お互いが限界の状態など理解している。
俺はエルタによる肉弾戦の結果。
エルタは俺による何倍にもあげられた威力の連続パンチの餌食。
お互いがすでに限界に至ろうとしていた。
「…………フッ、まさか我らがここまで追い詰められてしまうとはな。前回はもう少しキツくはなかったのだがな」
そう言いながら、エルタはやっと口を開く。そういえば、エルタは自分のヘレシーの力を復活させようとしていたのだ。紅の食卓をしている時も、妖魔王に従えていた時も……。
目標の第一段階はそれだった。
昔こいつと戦った奴がそこまでエルタを追い込めたというのには感心させられる。
俺ではエルタを弱体化させるどころか、勝てる自信すらないというのに……。
「そうか。ちょっと誉められた感じで嬉しいぜ……」
そのまま、「そういうエルタも俺が戦ってきた中で一番強かった」なんて言いたかったが。
エルタは会話を遮って、再び話し始める。
「終わらせよう。もうお互いに時間も体力も少ない。おかしいな、逃げたい生きたい終わりたくない。それなのに、お前を潰したいと考えてる。お前を倒さなければいけないが……。役割のためでなく、我らは真にお前を殺したがっている」
「ああ、俺も……。お前に勝ちたくなってるよ。正直、世界とかどうでもいい。お前に勝って白星をあげたいぜ。お前はすごい奴だよエルタ。不死身……神化していなきゃまともに戦えなかった。それじゃあ、終わりにしようかエルタ」
お互いに、構える。
すべての勝敗をこの一撃にかけるつもりなのだ。
この遠距離から放つとすれば遠距離攻撃くらいしかない。それに、近距離で戦うことができる自信がない。あいつの一撃でも、パンチの1つでもくらってしまえば、終わる気がする。ガラスのように割れる気がする。
「「必殺技!!!!!!」」
迎え撃つ。この一撃にありったけの力を込める。この必殺技の影響で、町は崩壊するかもしれない。この元いた故郷に二次被害が発生するかもしれない。
だから、エルタ、二次被害が起こる前に消えてくれ!!!
「『50円波動光線』!!!!!」
「『世界を変革せし非業(アキリヤヴァーダ)』!!!!!」
昼間のごときまばゆい輝きがぶつかり合う。
激しい光線同士のぶつかり合い。
黒と白。闇と光。耳を覆いたくなるような激しい轟音。
橋が巻き込まれる。俺たちが巻き込まれる。
けれど、ここで諦めて光線に飲まれるわけにはいかない。押し返すんだ。
幸いにも、光線はちょうど中心付近でぶつかり合っている。
諦めるな。疲れを出すな。これはチャンスなんだ。
どちらの想像する世界が正しいか。これでハッキリとするんだ。
ヘレシーであるエルタの【道徳否定】な次元。
ルイトボルトである俺の【平穏】な世界。
どちらがこの世界の普通にあっているか。変革と日常。
それがこの一撃にかかっている。この世界の未来がかかっているのである。
熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。
体が燃えつきそうな熱量。これほどまで巨大な波動光線を出したことはなかった。体が吹き飛ばされそうだ。けれど、少しでも気を背けてしまえば、この光線とエルタの光線が俺に降りかかってくる。そうしたら、いくら不死身でも塵すら残してはくれないだろう。
それはエルタも同じこと。
不死身でないエルタがこの光線に巻き込まれてしまえば確実に死ぬ。
だから、あいつも必死なのだ。
自分の望む、理想の世界の実現のため。
あいつにとっても理想の世界は【皆の事を想った行動】なのだ。
だけど、認めない。
この身が砕けようと、砕けていこうと変わらない。
不死身でもこの先、俺が生きているか分からなけれど。
逃げたくはない。
この勝負に勝ちたい。
「「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!」」
俺とエルタの体は光に飲まれ、俺はもう目の前が真っ白になって何も見えなくなっていった。
「──────────ハッ!?!?」
目が覚めるとそこは静かな場所だった。
なんだろう? これは夢でも見ているのだろうか。
体がなんだか軽いように感じる。
いや、大切なのは目を覚ましたことだ。なんでこんなところで目を覚ましたのだろう。
俺はまだ生きているのか? 死んでしまったのか?
勝敗はどうなった?
先程まで橋の上でエルタと戦っていたはずの俺に何が起きたのだ?
分からない。分からないから怖い。
俺は…………いったいどうなったんだ?
「────勝ちましたよ?」
「え?」
突然、俺の背後から帰ってきた返事に、思わず間抜けな感じに返答してしまった。俺以外に誰かがこの場所にいたのか。
「勝ちましたよ。勝ちましたとも……。あなたはヘレシー・エルタに勝ちました。まぁ、相討ちでしたけど、あの世界は守りましたよ」
懐かしい声に耳を傾ける。懐かしい声から、俺の勝敗を告げられた。
そいつはまったく変わっていない。俺が……俺たちがどんな想いで変わって、ここまで来たのか。その変化に取り残されたあの頃のままのあいつ。
青色の長い髪と目の大鎌を持った優しそうな美少女。そんな彼女が慈愛を向けた目で俺を見てくれている。
「どうしました?
勝ったことが信じられませんか?
聞こえませんでしたか?
なら、もっと言ってあげましょうかね?
あなたは……勝ちました勝ちました勝ちました勝ちました勝ちました勝ちました勝ちました勝ちました勝ちました勝ちました勝…………」
「いやいやいや、もう充分だ。聞いた。聞こえたよ!!!」
このままでは永遠と同じ単語を繰り返し、告げられそうだ。そのうち、気が狂ってもおかしくない。そう考えて、俺は慌てて彼女の台詞に返事を行う。
「そうですか。聞こえてたならよかったです。お久しぶりです明山さん。覚えてますか?
私です……」
「死神さんーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
らしくもない。俺らしくもない。
この場でもう再会できないと思っていたあいつに再会できたんだ。かつて、エルタに殺されたあいつに会えたんだ。
だから、嬉しかった。心の底から感謝の念があふれでてきそうだった。そのため、俺が死神さんに抱きついたのである。先程までの疲れはどこへ行ったのかも分からないけれど。俺は彼女の姿を見た瞬間に全速力で抱きついたのである。
まぁ、今日くらい。頑張った今日くらいは叱らずに見逃してほしい。
数分後。
「そういえば、なんで死神さんがここにいるんだ?」
俺は彼女を押し倒したまま、顔をあげて彼女に質問をする。
そういえば、こんな近距離で死神さんの顔を見ることは初めてだ。体が密着しているとはいえ、初めてだ。
「─────それは歩きながら話したいんです。だから、そろそろ離れてくれませんか?」
5分ほど抱きついていたからか、死神さんの顔はひきつっている。そのうち、抱きついていることに嫌悪感を覚えて、怒られそうな雰囲気だ。
「……というか離れてください。えいッ!!」
力業で剥がされた。見た目からはうかがえないほどの筋力である。
俺の体は死神さんに突き押されて、コロコロと転がって、股の間から死神さんを見るような格好になってしまった。
死神さんの体が上下逆転して見える。
空も地面も白い。どこからが空でどこからが地面かも分からないほど白い。
白い……?
ふと、足を見てみると俺の体が白くない。
神化が解けている……?
「…………よっこらせ。
ハハハッ、なんか悪かったな。俺らしくもなかったぜ」
「ほんとですよ。神化して自分のキャラを見失ったんですか?
純粋にキモかったです」
「まてまて、キモかったのか?
久しぶりの再会なんだからいいだろ?
挨拶だ。コミュニケーションだったよ」
「どこの平行世界の常識ですか?
さすがに5分間も抱きつくコミュニケーションの取り方があるわけがないでしょ?
はぁ、今まで通りのでいいですよ」
そう言いながら、死神さんはこの場から振り返り、トコトコとどこかへ向かって歩いていく。
こんな見知らぬ場所に置いていかれては、たまらない。俺は慌てて起き上がると、彼女の後を着いていく。
「なぁ、どこに行くのさ?」
その質問に彼女は振り返ることなく、まっすぐと先を見つめたまま答えた。
「あなたを待っている人のもとに行くんですよ?
謎のコミュニケーションのせいで、待ち合わせに遅れちゃうかもです」
5分くらい待ってくれてもいいんじゃないかと思ったが、時間がないのだろうか?
しかし、俺を待っている人とは誰のことだろう?
「まさか、エルタ?
俺に復讐するために死神さんを呼び寄せたとか?」
これは「悪魔と死神って闇の存在だから似ている」という適当推理だったが……。
見事に推理は外れていた。
「違いますよ。復讐するにしても速すぎます。安心してください。その人に敵意はないです。むしろ会わなきゃいけない人ですね。向こうから会いたいのではなく、あなたが会う必要がある相手ですよ。それじゃあ、行きますよ」
「会わなきゃいけない人? 俺が?」
そんな人いたかな?
俺に会いたいのではなく、俺が会わなきゃいけない人。
誰だろう?
そんな奴いただろうか?
「なぁ、死神さんはそいつと俺を会わせるために迎えに来てくれたってことか?」
「ハイそうです。その通りですね」
俺の質問を軽く流してそのまま歩いていく死神さん。
セクハラ染みたことは言っていない。それなのに、何故か彼女は振り返ってくれない。なんだか雰囲気が違う。いつもの死神さんよりも大人びているというか。冷静というか。その変化は口では言い表しにくい。
それでも、無視はしなかったので、俺は死神さんの死後の話を(脚色も含めて)話すことにした。
歩き出して30分後。
武勇伝を語り尽くしたのも30分間くらいだった。
「こんなにピッタリと終わるのが偶然か?」と思う。俺の武勇伝が終了するのと、死神さんが立ち止まるのが同時だった。
やはり、その景色は真っ白。開放的な空間に出たとか、壮大な光景を目にしたとかは無い。
景色は変わらなかった。
それでも、そこには1つの変化があった。
俺と死神さん、そしてもう1人。
この死神さんと2人だけの空間と思っていた世界に部外者がいたのである。
言われてみれば、俺と死神さんは俺が会わなきゃいけない誰かに会わないといけなかったので、誰かに会うのは当たり前なのだが……。
死神さんに連れられて現世とかで会うのかと思っていた。ここは死神さんが作り出した空間だと勘違いしていた。
その女性が目の前で俺たちを待っているのである。
俺たちの目の前には白無垢を来た女性が1人。
仏前式で女性が着る白い和服みたいな服を着て
いるのである。
「さぁ、明山さん。彼女があなたが会わなきゃいけない人物ですよ」
死神さんはそう告げると、俺と女性から1歩距離を置くように下がった。
そして、俺に座るように急かしてきたので、言われるがままに俺はその女性の前に座らせていただく。
「…………ここまでの旅路、ご苦労様でした。あなた様の活躍は失礼ながらこの場所から拝見させていただいておりました。度重なる苦労や苦難を乗り越えたあなた様に会えて本当にうれしゅうございました。最後に会えてよかったと失礼ながら思わせていただいております。本当に本当にお勤めご苦労様でした」
すると、俺の目の前にいる女性がそう言って深々と頭を下げた。
「あっ、いえ……その………?」
助けを求めるような目で死神さんの方を見てみるが、死神さんはただまっすぐにその女性を見つめている。視線を逸らすことなく見守るようにまっすぐとその女性を見つめている。
しかし、いい加減、女性、女性と言うのも面倒だ。
「…………なぁ、何してるんだよ黒?
お前、黒帝黒だろ?」
俺の目の前にいるのは黒帝黒だった。
すぐに調子に乗るし、煽てに弱いし、ヒロインからヒロイン候補に落ちた奴だし、ポジティブだし、飯はたらふく食うし、アホだし、チート持ちだし、空気読めないし、トラブルメーカーだし、泣き虫で、我儘ばかり言うし、最後には先代ルイトボルトであったことを告白して俺の前から消えていった黒帝黒である。
そんな黒からは想像もできない。
こんなに敬語を使って無表情で人に話す彼女が、黒だとはにわかに信じられなかった。
目の前で対面している今でさえ、信じられていない。もう俺が頭でもおかしくなったのかと自分を疑い出すレベルで信じられていない。
「…………黒帝黒?
いいえ、私はルイトボルトと申します」
「う~ん、まぁ、そうなんだろうけどさ。俺もルイトボルトになっちゃったわけだろ?」
難しい。実際、この場にはルイトボルトが2人いる。本来は1人しかいてはいけない唯一神が2人いる。
先代ルイトボルトと新人ルイトボルトである。
彼女が自分をルイトボルトと言い張ってしまうと、「俺は誰なんだ?」となりそうになるのだ。
ルイトボルトに番号でも着けることができれば楽なのだが、それこそ天罰でも落とされそうなほど無礼な気がした。(天罰を落とすのは俺だが)
なので、俺は彼女のことを名前で呼びたいのだ……。
「…………分かりました」
その想いが伝わったのか。
彼女は一言返事を返してくれた。
黒として呼んでもいいと言う許可が出たのである。
「よし、よかった。黒、久しぶりだな?
俺はあれから大変だったんだからな。
でも、また会えてよかったよ」という台詞を言おうと頭の中で考えていたのだが、俺が口を開くよりも速く彼女は先に話し始めた。
「それでは……ルイトボルトとしてのルールについては分かっていますね?」
「えっ?…………ああ、確か、魂の管理とかだろ?
俺が体験したみたいに、誰をどの世界に送るか。
あと、平行世界の創造。
あとは神らしいことをしていればよかったんだっけ?
だいたい、黒がどんな神らしいことしてたかなんてそんなに覚えてないよ。お前が神なんて知らなかったわけだしな」
「分かりました。よかったです。ありがとうございます」
堅苦しい。なんだか今の黒には慣れない。
「なぁ、俺からも質問をしていいだろ?
なんで、お前がこんなことしてるんだ?
みんな待ってるぞ?
妖魔王は討伐したし、ヘレシーもいなくなった。帰ろうぜ?」
照れ臭いが、今となってはエルタと死闘を繰り広げた元の世界も、ルイトボルトによって手違いで送られた異世界も、俺にとっては故郷になってしまったのだ。
完全体なルイトボルトなら平行世界も頑張れば移動できるだろう。里帰り気分で元の世界も異世界も移動できるなら、俺は付喪カフェのみんなに再会したいと考えたわけだ。
はぁ~これからは勇者として楽しい日々を送っていけるんだろうな~。
そんな風に呑気に妄想を考えていたのだが、その妄想は完璧に打ち砕かれることになる。
次の瞬間の死神さんの一言で……。
「明山さん。残念ですがみなさん死んでます」
はぁ?
みんな死んでる?
おいおい、死神さん。さすがに冗談がキツいぜ。みんな死んでるなんて、死神さんは平穏が嫌いなタイプだったのか?
……なんて言いたかった。この話を死神さんの冗談として処理したかった。
「いえ、魔王城に関わった者は数人を残してほぼ全滅してます。英彦さんはバイオンと共に焼失ですね。魔王城に乗り込んだ人もヘレシーによって殺されてます。
変だとは思いませんでしたか?
上空から見たんでしょ?
それに、魔王城へ誰も来なかったんですよね?
───ああ、王都の者?
彼らは白帝蔵王に殺されてますね。いや、この姿は殲魔王かな?
王女様はあなたに鍵を渡すための鍵の獲得候補者として自身で自害。
その後、店長と妙義さんは殲魔王と相討ちで死亡してます。
2人の鍵の獲得候補者を巡った戦いはどちらもバッドエンドでしたね。
ヘレシーさえ関わってこなければ、連盟同盟側の勝ちだったのでしょうが……。
えっ?
なんで、そんなに平然としゃべれるのか?ですか?
…………そりゃ、当然ですよ。
私は死神なんです。最初に魂を確認するのは私ですよ?
みなさんの魂を確認するのは私の仕事なんですから。
……………………………ええ、今はもう慣れました」
………………………。
俺はそのまま、頭を地面に着ける。
もしかしたら、そういうことだったのだろうか。
死神さんが俺の武勇伝を聞いてもあまり反応を示してくれなかったり、あんまり前とは違う雰囲気だったのは、みんなのことを思い出さないようにするためだったのだろうか。
もう後半からの死神さんの話は理解することができなかった。耳に入ってこなかった。
俺がここまで苦労して得たのは何もなかったのか?
俺が生きて、駆けずり回って、疲れただけなのか。
これなら、あいつらと天国で暮らした方がもう楽なんじゃないか?
ヘレシーなんて無視して、妖魔王に殺されて妖魔王の望む【神から解放された不老不死の新人類の世界】の方がよかったのかもしれない。
妖魔王ならみんなを生き返られていたかもしれない。新人類として……。
やはり、俺が鍵の獲得候補者として抗っていなければ、俺が最初から転生なんてしなければ……。
俺は結局誰も救えなかったのか……?
「…………死神さん。私にはあなたの気持ちが分からないわ!!」
その時、先程まで真面目ぶっていた黒が急にキャラ変したかのように声をあげた。
「────────ああ!!
もうめんどくさい。こんな台詞もこんな姿もこんな性格もこんな役割も!!!!
最後の最後で面倒かけさせやがって!!!
明山!!!
起きなさい。頭をあげなさい!!!」
さらに、黒に怒られた。あの頃の黒に怒られた。
姿は違う、雰囲気も違う。
けど、目の前で俺を叱ってくれているのは明らかに黒であった。戻ってきてくれたあの黒が……。
「あなたはなに?
ルイトボルトでしょ?
平行世界を造る神でしょ?
だったら、あの世界を平行世界にできるじゃない!!!
“あいつらがいない世界”なら、“あいつらがいる平行世界”もあるのよ!!
上書きしなさい!!
真実をねじ曲げなさい!!
簡単なことじゃない。
生き返らせるんじゃない生かすのよ。
あなたが上書きすればいい。
私があの国からモンスターがいないように世界を上書きし直したように!!
あなたも上書きすればいいじゃない。
上書きによって歴史や世界が多少変わるかもしれないけど、だいたい問題はないわ。証明済みよ!!
ほら、なに、絶望しきってるのよ!!
もうこれ以上の絶望なんて無いんだからね!!
ハッピーエンドよ!!!
あなたはそれだけのことをしてきた。ここまで頑張って努力が認められないなんてあり得ないわ。
あなたには生きていてほしいのよ!!!!!
それと死神。あんたもあんたよ!!
私の補佐であるあんたが忘れてんじゃないわよ!!」
ハッとした。黒の一声で俺と死神さんは希望を取り戻せた。
そうだった。真実をねじ曲げればいい。
殺されていない世界線(平行世界)にすればいい。
簡単なことだった。それができるのは平行世界を自由自在に作り替えれるルイトボルトしかいない。
ちょっとした違いは起こるかもしれないけれど、やってみる価値はある。
そして、今、ルイトボルトは俺だ。
俺がルイトボルトなんだ。
その真実がなかったことになれば、元通りの生活に戻れるのだ。
「そうだよな……。危なかったぜ。ありがとうな黒」
「そうでした。そうですよね?
ふぅ…………絶望しなくてよかったのかもしれません」
俺と死神さんは最後の最後で黒の一声で救われた。
変なやつだとは思っていたが、このいつもの黒が俺を救ってくれたのだ。
やっぱり、お前がヒロインだよ……。
最後に俺の目の前にいるのはいつもの黒であった。最後と言うのはそのままの意味である。
本当に黒とは最後なのである。
「ハァ、もういつも通りでいいわね。それでは……明山さん。最後の質問です。
あなたの望む世界はなんですか?」
堅苦しい黒ではない。ルイトボルト感のある黒ではない。俺たちが出会った俺たちと過ごした。人間態の黒である。
その彼女からの意味を俺は理解していないわけではない。
前に、黒自身が言っていた。妖魔王と戦う時に……。
「もし、ルイトボルトが2人の場合。通常の世界だと維持は不可能。だから、古い神は力を失い新しい神の肉体に貯まる。
私の体にはね。これまでのルイトボルトがすべて背負わされているの」
そう言っていた。
ルイトボルトは一神教でルイトボルトは2人いてはいけないと言っていた。
だから、あのときにもう覚悟はしていた。黒と別れる覚悟は済ませていた。それがこんな奇跡みたいな……普通は会えないと思っていたのに会えたのである。
だから、彼女は俺の創造した世界を見ることができないのかもしれない。
だからこそ、口で言うのだ。決心するように……。
ハッキリと泣かないで、最後の最後の最後まで黒には面倒をかけられない。
「………俺は………………」
感傷的になるな。最後の見せ場だ。
「俺はもう一度…………もう一度みんなとバカやれる世界を造りたい!!!!
平穏にみんなと過ごせる世界を造りたい!!!」
俺は黒に宣言するように、ハッキリと彼女の前で自分の意思を……願望を伝えた。
伝えることができた。
「よろしい。それでは頑張って後輩!!」
黒がその返事を言うと、俺たちの目の前には大きなドアが現れた。真っ白の世界に色のついたドアが現れた。
この先に……あの異世界を上書きした世界が待っている。
俺が創造(想像)したドアの向こう側が待っている。
このドアを開いてしまえば、それは新しい世界の始まりである。もちろん、もうルイトボルトは1人になる。旧世界は上書きされて変わる。
俺の後ろでは黒と死神さんが俺の行く末を見守ってくれているはずだ。
ドアノブに手をかける。
鍵は空いていた。
そのドアノブを大きく回せば、ドアは開く。
だから、俺は最後に死神さんを見る。
死神さんが俺にお辞儀を返してくれた。
そして、黒を見る。
そのときに黒と目があった。
「…………………」
黒は笑顔で俺に小さく手を降ってくれている。
俺を見送ろうとしてくれている。
俺を見送れば彼女の役割は終わる。
彼女の役割は先程のように俺を叱ってくれるのではない後輩の旅立を見守ることである。
消えてなくなるのに、俺のために俺の未来のために諭してくれたのだ。
自分自身には未来がないのに……。
そう、彼女は消えてなくなる。旧世界は上書きされてしまう。
「あっ…………」
そうだ。彼女は消えてなくなってしまうのだ。
これが2度目の別れになる。
みんなと過ごせる世界に…………彼女だけがいないなんてことはあり得ない!!!
俺はドアノブから手を離した。
何事かと驚いた顔で黒も死神さんも俺を見ている。
「ちょっ……明山何し……」
黒が慌ててなにかを言おうとしていたが、俺はそれを遮るように死神さんの方を向く。
「死神さん!!
俺忘れてたんですが。
あなたと初めてあった時、俺を誤って送ってしまったから願い事を叶えさせてくれるって言ってましたよね?」
「ええ、確かあの時は願い事を2つにして、1つは私と友達になることでしたね?」
「そうです。“2つ目の願い”。今、使ってもいいですよね?」
「あっ!?」と俺の台詞を聞いた死神さんと黒は何を思ったのだろうか。
黒も死神さんもおとなしくしているが、なんだかワクワクとした表情を浮かべている。
まったく、こんなことまで計算して俺を誤って異世界に送ったのであれば、とんでもない女神様だ。
だが、これも偶然。
みんなとの出会いも偶然。
俺が明山平死朗として生きてきたのも偶然。
どうやら俺は偶然に助けられてきたらしい。
今となってはありがたいものである。
さて、言おう。
死神さんも黒も、どんな願いが口に出されるか気になっているようだし……。
願うことくらいはいいだろう?
黒は神だし、俺も神だし、死神さんも神が名前に付いている。
少しくらいは神頼みでもしておいた方がいいはずだ。
「では、使います。俺の願いは……………………………………………………………」
─────────────────
太陽が町を照らしている。
穏やかな昼下がり。
男はとある場所に向かうため、歩道を歩いていく。
「さすがです。先輩。最高最強最低最高……えっと~どうしよう」
「いや、続けろよ?
頑張れよ? 最が付く言葉を思い出せよ
まったく、後輩。お前ってやつはな~」
「こら、2人とも遅れちゃうでしょ?
おねぇーちゃんは遅刻は許しませんよ」
「まったく、おねぇーちゃんじゃないじゃないですか……?
でも、本当におねぇーちゃんだったらよかったのにですね。はぁ~、一人っ子なのが恨めしい恨めしや~」
その男の側を学生達が走って通りすぎていく。
そう、平穏な日々。
前の世界とは少し違うような似ているような。同じなのに色々と不思議だ。どうやらあいつらには他のあいつらも混じっていたらしい。
まぁ、オマケだ。今後。“あの集団”に出会うことがあっても、それはそれでいい思い出になるだろう。
そんなことよりだ。
男はとある場所に向かうために町を歩いているのだ。
そこが家と言うわけではない。ただ、とある場所に用があるというだけである。
そんな男の隣を通りすぎていく人々。
その数人はどこかで見たことあるような人々なのかもしれない。そうだとしても、いつか、どこかですれ違ったことがあるだけだろう。
道は国中のどこにでも繋がっているのだから。
すれ違うことくらいはあったはずだ。
そんなことよりだ。
俺が向かっていた場所はカフェである。
普段は兄妹の2人の店員が人気だそうで、なかなか入れないし、店内にはマスコットのウサギや占い屋さんまであるそうだ。
情報量が多すぎる。
だが、それで人気だと言うのも不思議だ。
だからこそ入る。
人が少ないこの時間帯に入れば、ここで優雅に料理が食べられるかもしれない。
そういう期待を込めて、男はそのお店のドアを開いた。
「はい、いらっしゃいませ!!」
このお店の店長らしき人が男に向かって声をかけてくれた。
1名です。と声をかけると、1人の男の店員がカウンターでもよろしいかと聞いてくる。
もちろん、そこで拒否したりする必要はない。
男はカウンターに座る。店内を見渡してみても、美しいし、これなら人気なのも分かる。働くのならこんな場所で働いてみたいものだ。バイトの募集なんてしていないだろうか?
いや、その前に注文だ。もちろん、注文は決まっている。
さぁ、注文を行おうと声をかけようとした瞬間。
俺の両隣の空いていた席に人が座る。
俺の左側には顔の半分を覆うようにして髪が伸びて髪は“白髪の少年”と、その隣には“盟友”である2人。
俺の右側には髪の毛は黒色の長髪で、可愛い美少女的な感じの顔をした“黒髪の女の子”と、その隣には青色の長い髪と目の女性。
どうやら、カウンターが埋まるほど人気な時間に来てしまったのか?
そう考えたが、店内はどこも席が空いている。
まぁ、たまたまか。
「お客様、ご注文はどうします?」
それぞれにお冷を出し、店長が注文を受けようとしている。
そこで、注文を取ろうと口を開いた。
「「「カプチーノをください」」」
見事にハモった。
息も合わせていないのに、両隣の黒髪の女の子と、白髪の少年と声がハモった。
ちょっとおかしいかもしれない。笑ってしまいそうだったが……。
まぁ、そんな奇跡は2度も起きないはずである。
今度の台詞は絶対に隣の奴は言わないはずである。
「「「それと……」」」
「「「ここで働かせてください!!!」」」
どうやら、俺たちは気があっていたようです。
やれやれ、神がいるなら感謝の意を捧げたいものである。
ありがとうな神様。本当に!!
FIN
「はぁ…………はぁ………………………………」
俺は腕を下げる。もうこの場から動く体力すらもない。速く回復させなければ……。エルタにダメージを与えただけで、殺したわけではないのだから。エルタはきっと立ち上がり、再び俺にトドメを刺そうとするはずだ。それまでの時間稼ぎとして速く休まなければ……。
「………はぁ………アア……!!?」
呻き声をあげながら、エルタは生きていた。その数分後、身体中から出血しながらもエルタはピリピリと痙攣する体を圧し殺しながら立ち上がった。お互いにもう限界が近い。
お互いににらみ合いながら、そのまま2分が経過する。
お互いに「なぜ、殺しに来ない?」などとは言えない。
お互いが限界の状態など理解している。
俺はエルタによる肉弾戦の結果。
エルタは俺による何倍にもあげられた威力の連続パンチの餌食。
お互いがすでに限界に至ろうとしていた。
「…………フッ、まさか我らがここまで追い詰められてしまうとはな。前回はもう少しキツくはなかったのだがな」
そう言いながら、エルタはやっと口を開く。そういえば、エルタは自分のヘレシーの力を復活させようとしていたのだ。紅の食卓をしている時も、妖魔王に従えていた時も……。
目標の第一段階はそれだった。
昔こいつと戦った奴がそこまでエルタを追い込めたというのには感心させられる。
俺ではエルタを弱体化させるどころか、勝てる自信すらないというのに……。
「そうか。ちょっと誉められた感じで嬉しいぜ……」
そのまま、「そういうエルタも俺が戦ってきた中で一番強かった」なんて言いたかったが。
エルタは会話を遮って、再び話し始める。
「終わらせよう。もうお互いに時間も体力も少ない。おかしいな、逃げたい生きたい終わりたくない。それなのに、お前を潰したいと考えてる。お前を倒さなければいけないが……。役割のためでなく、我らは真にお前を殺したがっている」
「ああ、俺も……。お前に勝ちたくなってるよ。正直、世界とかどうでもいい。お前に勝って白星をあげたいぜ。お前はすごい奴だよエルタ。不死身……神化していなきゃまともに戦えなかった。それじゃあ、終わりにしようかエルタ」
お互いに、構える。
すべての勝敗をこの一撃にかけるつもりなのだ。
この遠距離から放つとすれば遠距離攻撃くらいしかない。それに、近距離で戦うことができる自信がない。あいつの一撃でも、パンチの1つでもくらってしまえば、終わる気がする。ガラスのように割れる気がする。
「「必殺技!!!!!!」」
迎え撃つ。この一撃にありったけの力を込める。この必殺技の影響で、町は崩壊するかもしれない。この元いた故郷に二次被害が発生するかもしれない。
だから、エルタ、二次被害が起こる前に消えてくれ!!!
「『50円波動光線』!!!!!」
「『世界を変革せし非業(アキリヤヴァーダ)』!!!!!」
昼間のごときまばゆい輝きがぶつかり合う。
激しい光線同士のぶつかり合い。
黒と白。闇と光。耳を覆いたくなるような激しい轟音。
橋が巻き込まれる。俺たちが巻き込まれる。
けれど、ここで諦めて光線に飲まれるわけにはいかない。押し返すんだ。
幸いにも、光線はちょうど中心付近でぶつかり合っている。
諦めるな。疲れを出すな。これはチャンスなんだ。
どちらの想像する世界が正しいか。これでハッキリとするんだ。
ヘレシーであるエルタの【道徳否定】な次元。
ルイトボルトである俺の【平穏】な世界。
どちらがこの世界の普通にあっているか。変革と日常。
それがこの一撃にかかっている。この世界の未来がかかっているのである。
熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。
体が燃えつきそうな熱量。これほどまで巨大な波動光線を出したことはなかった。体が吹き飛ばされそうだ。けれど、少しでも気を背けてしまえば、この光線とエルタの光線が俺に降りかかってくる。そうしたら、いくら不死身でも塵すら残してはくれないだろう。
それはエルタも同じこと。
不死身でないエルタがこの光線に巻き込まれてしまえば確実に死ぬ。
だから、あいつも必死なのだ。
自分の望む、理想の世界の実現のため。
あいつにとっても理想の世界は【皆の事を想った行動】なのだ。
だけど、認めない。
この身が砕けようと、砕けていこうと変わらない。
不死身でもこの先、俺が生きているか分からなけれど。
逃げたくはない。
この勝負に勝ちたい。
「「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!」」
俺とエルタの体は光に飲まれ、俺はもう目の前が真っ白になって何も見えなくなっていった。
「──────────ハッ!?!?」
目が覚めるとそこは静かな場所だった。
なんだろう? これは夢でも見ているのだろうか。
体がなんだか軽いように感じる。
いや、大切なのは目を覚ましたことだ。なんでこんなところで目を覚ましたのだろう。
俺はまだ生きているのか? 死んでしまったのか?
勝敗はどうなった?
先程まで橋の上でエルタと戦っていたはずの俺に何が起きたのだ?
分からない。分からないから怖い。
俺は…………いったいどうなったんだ?
「────勝ちましたよ?」
「え?」
突然、俺の背後から帰ってきた返事に、思わず間抜けな感じに返答してしまった。俺以外に誰かがこの場所にいたのか。
「勝ちましたよ。勝ちましたとも……。あなたはヘレシー・エルタに勝ちました。まぁ、相討ちでしたけど、あの世界は守りましたよ」
懐かしい声に耳を傾ける。懐かしい声から、俺の勝敗を告げられた。
そいつはまったく変わっていない。俺が……俺たちがどんな想いで変わって、ここまで来たのか。その変化に取り残されたあの頃のままのあいつ。
青色の長い髪と目の大鎌を持った優しそうな美少女。そんな彼女が慈愛を向けた目で俺を見てくれている。
「どうしました?
勝ったことが信じられませんか?
聞こえませんでしたか?
なら、もっと言ってあげましょうかね?
あなたは……勝ちました勝ちました勝ちました勝ちました勝ちました勝ちました勝ちました勝ちました勝ちました勝ちました勝…………」
「いやいやいや、もう充分だ。聞いた。聞こえたよ!!!」
このままでは永遠と同じ単語を繰り返し、告げられそうだ。そのうち、気が狂ってもおかしくない。そう考えて、俺は慌てて彼女の台詞に返事を行う。
「そうですか。聞こえてたならよかったです。お久しぶりです明山さん。覚えてますか?
私です……」
「死神さんーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
らしくもない。俺らしくもない。
この場でもう再会できないと思っていたあいつに再会できたんだ。かつて、エルタに殺されたあいつに会えたんだ。
だから、嬉しかった。心の底から感謝の念があふれでてきそうだった。そのため、俺が死神さんに抱きついたのである。先程までの疲れはどこへ行ったのかも分からないけれど。俺は彼女の姿を見た瞬間に全速力で抱きついたのである。
まぁ、今日くらい。頑張った今日くらいは叱らずに見逃してほしい。
数分後。
「そういえば、なんで死神さんがここにいるんだ?」
俺は彼女を押し倒したまま、顔をあげて彼女に質問をする。
そういえば、こんな近距離で死神さんの顔を見ることは初めてだ。体が密着しているとはいえ、初めてだ。
「─────それは歩きながら話したいんです。だから、そろそろ離れてくれませんか?」
5分ほど抱きついていたからか、死神さんの顔はひきつっている。そのうち、抱きついていることに嫌悪感を覚えて、怒られそうな雰囲気だ。
「……というか離れてください。えいッ!!」
力業で剥がされた。見た目からはうかがえないほどの筋力である。
俺の体は死神さんに突き押されて、コロコロと転がって、股の間から死神さんを見るような格好になってしまった。
死神さんの体が上下逆転して見える。
空も地面も白い。どこからが空でどこからが地面かも分からないほど白い。
白い……?
ふと、足を見てみると俺の体が白くない。
神化が解けている……?
「…………よっこらせ。
ハハハッ、なんか悪かったな。俺らしくもなかったぜ」
「ほんとですよ。神化して自分のキャラを見失ったんですか?
純粋にキモかったです」
「まてまて、キモかったのか?
久しぶりの再会なんだからいいだろ?
挨拶だ。コミュニケーションだったよ」
「どこの平行世界の常識ですか?
さすがに5分間も抱きつくコミュニケーションの取り方があるわけがないでしょ?
はぁ、今まで通りのでいいですよ」
そう言いながら、死神さんはこの場から振り返り、トコトコとどこかへ向かって歩いていく。
こんな見知らぬ場所に置いていかれては、たまらない。俺は慌てて起き上がると、彼女の後を着いていく。
「なぁ、どこに行くのさ?」
その質問に彼女は振り返ることなく、まっすぐと先を見つめたまま答えた。
「あなたを待っている人のもとに行くんですよ?
謎のコミュニケーションのせいで、待ち合わせに遅れちゃうかもです」
5分くらい待ってくれてもいいんじゃないかと思ったが、時間がないのだろうか?
しかし、俺を待っている人とは誰のことだろう?
「まさか、エルタ?
俺に復讐するために死神さんを呼び寄せたとか?」
これは「悪魔と死神って闇の存在だから似ている」という適当推理だったが……。
見事に推理は外れていた。
「違いますよ。復讐するにしても速すぎます。安心してください。その人に敵意はないです。むしろ会わなきゃいけない人ですね。向こうから会いたいのではなく、あなたが会う必要がある相手ですよ。それじゃあ、行きますよ」
「会わなきゃいけない人? 俺が?」
そんな人いたかな?
俺に会いたいのではなく、俺が会わなきゃいけない人。
誰だろう?
そんな奴いただろうか?
「なぁ、死神さんはそいつと俺を会わせるために迎えに来てくれたってことか?」
「ハイそうです。その通りですね」
俺の質問を軽く流してそのまま歩いていく死神さん。
セクハラ染みたことは言っていない。それなのに、何故か彼女は振り返ってくれない。なんだか雰囲気が違う。いつもの死神さんよりも大人びているというか。冷静というか。その変化は口では言い表しにくい。
それでも、無視はしなかったので、俺は死神さんの死後の話を(脚色も含めて)話すことにした。
歩き出して30分後。
武勇伝を語り尽くしたのも30分間くらいだった。
「こんなにピッタリと終わるのが偶然か?」と思う。俺の武勇伝が終了するのと、死神さんが立ち止まるのが同時だった。
やはり、その景色は真っ白。開放的な空間に出たとか、壮大な光景を目にしたとかは無い。
景色は変わらなかった。
それでも、そこには1つの変化があった。
俺と死神さん、そしてもう1人。
この死神さんと2人だけの空間と思っていた世界に部外者がいたのである。
言われてみれば、俺と死神さんは俺が会わなきゃいけない誰かに会わないといけなかったので、誰かに会うのは当たり前なのだが……。
死神さんに連れられて現世とかで会うのかと思っていた。ここは死神さんが作り出した空間だと勘違いしていた。
その女性が目の前で俺たちを待っているのである。
俺たちの目の前には白無垢を来た女性が1人。
仏前式で女性が着る白い和服みたいな服を着て
いるのである。
「さぁ、明山さん。彼女があなたが会わなきゃいけない人物ですよ」
死神さんはそう告げると、俺と女性から1歩距離を置くように下がった。
そして、俺に座るように急かしてきたので、言われるがままに俺はその女性の前に座らせていただく。
「…………ここまでの旅路、ご苦労様でした。あなた様の活躍は失礼ながらこの場所から拝見させていただいておりました。度重なる苦労や苦難を乗り越えたあなた様に会えて本当にうれしゅうございました。最後に会えてよかったと失礼ながら思わせていただいております。本当に本当にお勤めご苦労様でした」
すると、俺の目の前にいる女性がそう言って深々と頭を下げた。
「あっ、いえ……その………?」
助けを求めるような目で死神さんの方を見てみるが、死神さんはただまっすぐにその女性を見つめている。視線を逸らすことなく見守るようにまっすぐとその女性を見つめている。
しかし、いい加減、女性、女性と言うのも面倒だ。
「…………なぁ、何してるんだよ黒?
お前、黒帝黒だろ?」
俺の目の前にいるのは黒帝黒だった。
すぐに調子に乗るし、煽てに弱いし、ヒロインからヒロイン候補に落ちた奴だし、ポジティブだし、飯はたらふく食うし、アホだし、チート持ちだし、空気読めないし、トラブルメーカーだし、泣き虫で、我儘ばかり言うし、最後には先代ルイトボルトであったことを告白して俺の前から消えていった黒帝黒である。
そんな黒からは想像もできない。
こんなに敬語を使って無表情で人に話す彼女が、黒だとはにわかに信じられなかった。
目の前で対面している今でさえ、信じられていない。もう俺が頭でもおかしくなったのかと自分を疑い出すレベルで信じられていない。
「…………黒帝黒?
いいえ、私はルイトボルトと申します」
「う~ん、まぁ、そうなんだろうけどさ。俺もルイトボルトになっちゃったわけだろ?」
難しい。実際、この場にはルイトボルトが2人いる。本来は1人しかいてはいけない唯一神が2人いる。
先代ルイトボルトと新人ルイトボルトである。
彼女が自分をルイトボルトと言い張ってしまうと、「俺は誰なんだ?」となりそうになるのだ。
ルイトボルトに番号でも着けることができれば楽なのだが、それこそ天罰でも落とされそうなほど無礼な気がした。(天罰を落とすのは俺だが)
なので、俺は彼女のことを名前で呼びたいのだ……。
「…………分かりました」
その想いが伝わったのか。
彼女は一言返事を返してくれた。
黒として呼んでもいいと言う許可が出たのである。
「よし、よかった。黒、久しぶりだな?
俺はあれから大変だったんだからな。
でも、また会えてよかったよ」という台詞を言おうと頭の中で考えていたのだが、俺が口を開くよりも速く彼女は先に話し始めた。
「それでは……ルイトボルトとしてのルールについては分かっていますね?」
「えっ?…………ああ、確か、魂の管理とかだろ?
俺が体験したみたいに、誰をどの世界に送るか。
あと、平行世界の創造。
あとは神らしいことをしていればよかったんだっけ?
だいたい、黒がどんな神らしいことしてたかなんてそんなに覚えてないよ。お前が神なんて知らなかったわけだしな」
「分かりました。よかったです。ありがとうございます」
堅苦しい。なんだか今の黒には慣れない。
「なぁ、俺からも質問をしていいだろ?
なんで、お前がこんなことしてるんだ?
みんな待ってるぞ?
妖魔王は討伐したし、ヘレシーもいなくなった。帰ろうぜ?」
照れ臭いが、今となってはエルタと死闘を繰り広げた元の世界も、ルイトボルトによって手違いで送られた異世界も、俺にとっては故郷になってしまったのだ。
完全体なルイトボルトなら平行世界も頑張れば移動できるだろう。里帰り気分で元の世界も異世界も移動できるなら、俺は付喪カフェのみんなに再会したいと考えたわけだ。
はぁ~これからは勇者として楽しい日々を送っていけるんだろうな~。
そんな風に呑気に妄想を考えていたのだが、その妄想は完璧に打ち砕かれることになる。
次の瞬間の死神さんの一言で……。
「明山さん。残念ですがみなさん死んでます」
はぁ?
みんな死んでる?
おいおい、死神さん。さすがに冗談がキツいぜ。みんな死んでるなんて、死神さんは平穏が嫌いなタイプだったのか?
……なんて言いたかった。この話を死神さんの冗談として処理したかった。
「いえ、魔王城に関わった者は数人を残してほぼ全滅してます。英彦さんはバイオンと共に焼失ですね。魔王城に乗り込んだ人もヘレシーによって殺されてます。
変だとは思いませんでしたか?
上空から見たんでしょ?
それに、魔王城へ誰も来なかったんですよね?
───ああ、王都の者?
彼らは白帝蔵王に殺されてますね。いや、この姿は殲魔王かな?
王女様はあなたに鍵を渡すための鍵の獲得候補者として自身で自害。
その後、店長と妙義さんは殲魔王と相討ちで死亡してます。
2人の鍵の獲得候補者を巡った戦いはどちらもバッドエンドでしたね。
ヘレシーさえ関わってこなければ、連盟同盟側の勝ちだったのでしょうが……。
えっ?
なんで、そんなに平然としゃべれるのか?ですか?
…………そりゃ、当然ですよ。
私は死神なんです。最初に魂を確認するのは私ですよ?
みなさんの魂を確認するのは私の仕事なんですから。
……………………………ええ、今はもう慣れました」
………………………。
俺はそのまま、頭を地面に着ける。
もしかしたら、そういうことだったのだろうか。
死神さんが俺の武勇伝を聞いてもあまり反応を示してくれなかったり、あんまり前とは違う雰囲気だったのは、みんなのことを思い出さないようにするためだったのだろうか。
もう後半からの死神さんの話は理解することができなかった。耳に入ってこなかった。
俺がここまで苦労して得たのは何もなかったのか?
俺が生きて、駆けずり回って、疲れただけなのか。
これなら、あいつらと天国で暮らした方がもう楽なんじゃないか?
ヘレシーなんて無視して、妖魔王に殺されて妖魔王の望む【神から解放された不老不死の新人類の世界】の方がよかったのかもしれない。
妖魔王ならみんなを生き返られていたかもしれない。新人類として……。
やはり、俺が鍵の獲得候補者として抗っていなければ、俺が最初から転生なんてしなければ……。
俺は結局誰も救えなかったのか……?
「…………死神さん。私にはあなたの気持ちが分からないわ!!」
その時、先程まで真面目ぶっていた黒が急にキャラ変したかのように声をあげた。
「────────ああ!!
もうめんどくさい。こんな台詞もこんな姿もこんな性格もこんな役割も!!!!
最後の最後で面倒かけさせやがって!!!
明山!!!
起きなさい。頭をあげなさい!!!」
さらに、黒に怒られた。あの頃の黒に怒られた。
姿は違う、雰囲気も違う。
けど、目の前で俺を叱ってくれているのは明らかに黒であった。戻ってきてくれたあの黒が……。
「あなたはなに?
ルイトボルトでしょ?
平行世界を造る神でしょ?
だったら、あの世界を平行世界にできるじゃない!!!
“あいつらがいない世界”なら、“あいつらがいる平行世界”もあるのよ!!
上書きしなさい!!
真実をねじ曲げなさい!!
簡単なことじゃない。
生き返らせるんじゃない生かすのよ。
あなたが上書きすればいい。
私があの国からモンスターがいないように世界を上書きし直したように!!
あなたも上書きすればいいじゃない。
上書きによって歴史や世界が多少変わるかもしれないけど、だいたい問題はないわ。証明済みよ!!
ほら、なに、絶望しきってるのよ!!
もうこれ以上の絶望なんて無いんだからね!!
ハッピーエンドよ!!!
あなたはそれだけのことをしてきた。ここまで頑張って努力が認められないなんてあり得ないわ。
あなたには生きていてほしいのよ!!!!!
それと死神。あんたもあんたよ!!
私の補佐であるあんたが忘れてんじゃないわよ!!」
ハッとした。黒の一声で俺と死神さんは希望を取り戻せた。
そうだった。真実をねじ曲げればいい。
殺されていない世界線(平行世界)にすればいい。
簡単なことだった。それができるのは平行世界を自由自在に作り替えれるルイトボルトしかいない。
ちょっとした違いは起こるかもしれないけれど、やってみる価値はある。
そして、今、ルイトボルトは俺だ。
俺がルイトボルトなんだ。
その真実がなかったことになれば、元通りの生活に戻れるのだ。
「そうだよな……。危なかったぜ。ありがとうな黒」
「そうでした。そうですよね?
ふぅ…………絶望しなくてよかったのかもしれません」
俺と死神さんは最後の最後で黒の一声で救われた。
変なやつだとは思っていたが、このいつもの黒が俺を救ってくれたのだ。
やっぱり、お前がヒロインだよ……。
最後に俺の目の前にいるのはいつもの黒であった。最後と言うのはそのままの意味である。
本当に黒とは最後なのである。
「ハァ、もういつも通りでいいわね。それでは……明山さん。最後の質問です。
あなたの望む世界はなんですか?」
堅苦しい黒ではない。ルイトボルト感のある黒ではない。俺たちが出会った俺たちと過ごした。人間態の黒である。
その彼女からの意味を俺は理解していないわけではない。
前に、黒自身が言っていた。妖魔王と戦う時に……。
「もし、ルイトボルトが2人の場合。通常の世界だと維持は不可能。だから、古い神は力を失い新しい神の肉体に貯まる。
私の体にはね。これまでのルイトボルトがすべて背負わされているの」
そう言っていた。
ルイトボルトは一神教でルイトボルトは2人いてはいけないと言っていた。
だから、あのときにもう覚悟はしていた。黒と別れる覚悟は済ませていた。それがこんな奇跡みたいな……普通は会えないと思っていたのに会えたのである。
だから、彼女は俺の創造した世界を見ることができないのかもしれない。
だからこそ、口で言うのだ。決心するように……。
ハッキリと泣かないで、最後の最後の最後まで黒には面倒をかけられない。
「………俺は………………」
感傷的になるな。最後の見せ場だ。
「俺はもう一度…………もう一度みんなとバカやれる世界を造りたい!!!!
平穏にみんなと過ごせる世界を造りたい!!!」
俺は黒に宣言するように、ハッキリと彼女の前で自分の意思を……願望を伝えた。
伝えることができた。
「よろしい。それでは頑張って後輩!!」
黒がその返事を言うと、俺たちの目の前には大きなドアが現れた。真っ白の世界に色のついたドアが現れた。
この先に……あの異世界を上書きした世界が待っている。
俺が創造(想像)したドアの向こう側が待っている。
このドアを開いてしまえば、それは新しい世界の始まりである。もちろん、もうルイトボルトは1人になる。旧世界は上書きされて変わる。
俺の後ろでは黒と死神さんが俺の行く末を見守ってくれているはずだ。
ドアノブに手をかける。
鍵は空いていた。
そのドアノブを大きく回せば、ドアは開く。
だから、俺は最後に死神さんを見る。
死神さんが俺にお辞儀を返してくれた。
そして、黒を見る。
そのときに黒と目があった。
「…………………」
黒は笑顔で俺に小さく手を降ってくれている。
俺を見送ろうとしてくれている。
俺を見送れば彼女の役割は終わる。
彼女の役割は先程のように俺を叱ってくれるのではない後輩の旅立を見守ることである。
消えてなくなるのに、俺のために俺の未来のために諭してくれたのだ。
自分自身には未来がないのに……。
そう、彼女は消えてなくなる。旧世界は上書きされてしまう。
「あっ…………」
そうだ。彼女は消えてなくなってしまうのだ。
これが2度目の別れになる。
みんなと過ごせる世界に…………彼女だけがいないなんてことはあり得ない!!!
俺はドアノブから手を離した。
何事かと驚いた顔で黒も死神さんも俺を見ている。
「ちょっ……明山何し……」
黒が慌ててなにかを言おうとしていたが、俺はそれを遮るように死神さんの方を向く。
「死神さん!!
俺忘れてたんですが。
あなたと初めてあった時、俺を誤って送ってしまったから願い事を叶えさせてくれるって言ってましたよね?」
「ええ、確かあの時は願い事を2つにして、1つは私と友達になることでしたね?」
「そうです。“2つ目の願い”。今、使ってもいいですよね?」
「あっ!?」と俺の台詞を聞いた死神さんと黒は何を思ったのだろうか。
黒も死神さんもおとなしくしているが、なんだかワクワクとした表情を浮かべている。
まったく、こんなことまで計算して俺を誤って異世界に送ったのであれば、とんでもない女神様だ。
だが、これも偶然。
みんなとの出会いも偶然。
俺が明山平死朗として生きてきたのも偶然。
どうやら俺は偶然に助けられてきたらしい。
今となってはありがたいものである。
さて、言おう。
死神さんも黒も、どんな願いが口に出されるか気になっているようだし……。
願うことくらいはいいだろう?
黒は神だし、俺も神だし、死神さんも神が名前に付いている。
少しくらいは神頼みでもしておいた方がいいはずだ。
「では、使います。俺の願いは……………………………………………………………」
─────────────────
太陽が町を照らしている。
穏やかな昼下がり。
男はとある場所に向かうため、歩道を歩いていく。
「さすがです。先輩。最高最強最低最高……えっと~どうしよう」
「いや、続けろよ?
頑張れよ? 最が付く言葉を思い出せよ
まったく、後輩。お前ってやつはな~」
「こら、2人とも遅れちゃうでしょ?
おねぇーちゃんは遅刻は許しませんよ」
「まったく、おねぇーちゃんじゃないじゃないですか……?
でも、本当におねぇーちゃんだったらよかったのにですね。はぁ~、一人っ子なのが恨めしい恨めしや~」
その男の側を学生達が走って通りすぎていく。
そう、平穏な日々。
前の世界とは少し違うような似ているような。同じなのに色々と不思議だ。どうやらあいつらには他のあいつらも混じっていたらしい。
まぁ、オマケだ。今後。“あの集団”に出会うことがあっても、それはそれでいい思い出になるだろう。
そんなことよりだ。
男はとある場所に向かうために町を歩いているのだ。
そこが家と言うわけではない。ただ、とある場所に用があるというだけである。
そんな男の隣を通りすぎていく人々。
その数人はどこかで見たことあるような人々なのかもしれない。そうだとしても、いつか、どこかですれ違ったことがあるだけだろう。
道は国中のどこにでも繋がっているのだから。
すれ違うことくらいはあったはずだ。
そんなことよりだ。
俺が向かっていた場所はカフェである。
普段は兄妹の2人の店員が人気だそうで、なかなか入れないし、店内にはマスコットのウサギや占い屋さんまであるそうだ。
情報量が多すぎる。
だが、それで人気だと言うのも不思議だ。
だからこそ入る。
人が少ないこの時間帯に入れば、ここで優雅に料理が食べられるかもしれない。
そういう期待を込めて、男はそのお店のドアを開いた。
「はい、いらっしゃいませ!!」
このお店の店長らしき人が男に向かって声をかけてくれた。
1名です。と声をかけると、1人の男の店員がカウンターでもよろしいかと聞いてくる。
もちろん、そこで拒否したりする必要はない。
男はカウンターに座る。店内を見渡してみても、美しいし、これなら人気なのも分かる。働くのならこんな場所で働いてみたいものだ。バイトの募集なんてしていないだろうか?
いや、その前に注文だ。もちろん、注文は決まっている。
さぁ、注文を行おうと声をかけようとした瞬間。
俺の両隣の空いていた席に人が座る。
俺の左側には顔の半分を覆うようにして髪が伸びて髪は“白髪の少年”と、その隣には“盟友”である2人。
俺の右側には髪の毛は黒色の長髪で、可愛い美少女的な感じの顔をした“黒髪の女の子”と、その隣には青色の長い髪と目の女性。
どうやら、カウンターが埋まるほど人気な時間に来てしまったのか?
そう考えたが、店内はどこも席が空いている。
まぁ、たまたまか。
「お客様、ご注文はどうします?」
それぞれにお冷を出し、店長が注文を受けようとしている。
そこで、注文を取ろうと口を開いた。
「「「カプチーノをください」」」
見事にハモった。
息も合わせていないのに、両隣の黒髪の女の子と、白髪の少年と声がハモった。
ちょっとおかしいかもしれない。笑ってしまいそうだったが……。
まぁ、そんな奇跡は2度も起きないはずである。
今度の台詞は絶対に隣の奴は言わないはずである。
「「「それと……」」」
「「「ここで働かせてください!!!」」」
どうやら、俺たちは気があっていたようです。
やれやれ、神がいるなら感謝の意を捧げたいものである。
ありがとうな神様。本当に!!
FIN
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偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
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18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
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その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
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