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第16章 どうやら金剛は八虐の謀反のようです。

届かない剣先

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 どうやら俺は少しの間、気を失っていたようだ。確か、金剛の攻撃を受けて気絶した後、夢を見ていたような気がする。
しかし、こうして考え事ができているということは、どうやら俺はまだ生きているらしい。
金剛にまだ殺されていないようだ。
「不思議だ」と思いながらも、ゆっくりと目を開く。
耳に響き渡るのは爆発音。
目に映るのはたくさんの火花のような光。
幻想的な魔方陣が宙に浮かび上がり、そこから放たれる光の数々。
黒VS金剛。
俺の目の前では詠唱なしの魔法のぶつけ合いが行われていた。

「おい、黒?
怪我は大丈夫なのか?」

胸を刀で突き刺されたはずの黒が時間を稼いでくれていたということは理解できる。
だが、何故動けないほどの彼女が動けるようになるまで回復しているのか。
その理由はわからない。
すると、黒はこっちを向くことなく俺に話しかけてきた。

「大丈夫もクソもないわよ!!
あなたがのんきに気絶している間に、金剛から守ってあげてたんだからね!!
まだ、傷だってちゃんと治っていないんだからね!!」

どうやら、黒は金剛の足止めに必死なようだ。彼女は少し怒っている。
もう泣きそうな顔で俺に対して愚痴を呟いてきた。
俺でさえ、動きすら止められなかった金剛を相手に戦っているのは素直に尊敬する……。

「ああ、すまない。もう大丈夫だ。」

「何が大丈夫だっていうの?
さっきまであんなに負けてたあなたが、なんの自信があってそんなことを言えるの?
ほら、早く隙を見て逃げるわよ!!」

黒は魔法の詠唱を行いながらも、逃げる隙を探している。やはり、彼女でも金剛を完全に倒す自信を持ってはいないようだ。
金剛からの遠距離攻撃を魔法で防御出来なくなるのも時間の問題。
俺が目覚めたと分かった瞬間に金剛は攻撃対象を俺に切り替えてくるはずだ。
俺を憎んでいる奴なら絶対俺を始末しに来るはずだ。

「………いや、逃げなくていい。」

「ハァ!?
何を言ってるのよ。負けたじゃない。あなただって一撃も与えられないまま負けたじゃない。」

黒の口から語られる真実は俺の心に深く突き刺さる。
確かに俺は金剛に一撃も与えられないまま敗北した。これまでにない負け戦だった。正直、戦歴も技術も金剛の方が上なのは間違うこともない真実である。
でも、それでも…………。俺が諦めてはいけない。

「俺はまだ生きている。この手は動く。もう一度俺に行かせてくれ。今度はやりとげてみせるから。」

俺は重たい腰を起こし、ゆっくりと金剛の方へと歩き始めた。
そんな俺を黒は止めようとはしない。
そこでようやく金剛は俺が目覚めたということに気づき、遠距離攻撃を中断する。
2人の視線が俺に向けられて、そんな2人の視線を受けたまま俺は足を踏み出す。
その最中、俺は黒の横を通りすぎる最中。

「……………。」

小さな声で彼女に頼み事を呟いた。

「ちょっ………!?
正気?   本気なの!?」

背後から聞こえる黒からの驚愕の声に耳も向けることなく。
俺は再び金剛の前に立ちふさがった。



 お互いに無言。
言葉を返すことなく。俺は金剛の前に立つ。
金剛の手には新しい剣が握られている。
その剣を振るう金剛。
剣筋は宙に線を引くように光る。
その剣筋を五円ソードで防ぐ。
そして、足を踏み込ませて、反撃を与える。
しかし、やはりその剣は金剛には届かない。

「ウオオオオオ!!!」

それは気合いを入れて、雄叫びをあげようが変わらない。
どれだけ防いでも、どれだけ攻めても、ジワジワと押されていくのは俺の方だ。
そもそも力の差が違う。
上下左右に剣筋が振るわれる。
それを必死に受け流す。
深い傷は負わされていないが、その分体力がドンドン削られていく。
奴の呼吸は冷静で、俺なんて赤子の手を捻るくらいにしか見てはいないのだろう。
少しでも警戒を解けば、一息で斬られる。しかし、この戦いに俺が勝てる勝算も時間もない。
生き延びる時間を必死にかき集めて消費しているだけの無駄にすぎない。
それでも、俺はやらねばならない。
勝算なんて計算する暇などない。
今はひたすらに攻めて防いで攻める。
このままずっと俺の剣が届かないまま力尽きるかもしれないが……。
それでも剣と剣は再びぶつかり合う。
その間合いは一定の距離を保ったまま、斬り合いは繰り広げられる。
お互いに隙を狙った一刀を弾かれていく。
金剛の方は俺の一刀を弾くのも、いとも容易く行っているのだが、俺の場合はもう必死になって考えることもなく。
思考が行動に追い付いていなかった。俺は今、無我夢中で剣を操っている。
上下左右あらゆる方向から放たれる金剛の攻撃。
それを弾いているのが奇跡だと感じるほどに、俺は気合いだけで攻撃を弾いていた。
カキーン!!
シャギッーー!!
ピキッーー!!
俺の体は気絶した時から、とうに限界に達している。
さすがの回復魔法でも、全身すべてを回復させることはできなかった。
俺の折れた骨を復元するくらいにしか。
それくらいにしか、黒は回復魔法に魔力を費やすことができなかった。
だから、完全には復活できていない。
壊れそうな体を無理やり復元させて、それが再び悲鳴を上げているだけだ。
それでも、生きている以上は腕を止めることはしない。

「くそッ……。俺はまだ……まだ戦え……。」

戦え!!!   腕を動かせ!!!   すべてを防げ!!!
俺はやらねばならない。俺は……俺は!!



 激しい戦闘の最中。
金剛は剣を振るいながら俺に問う。

「…………貴様の想いはそれだけか?
敵討ちをする。貴様の想いはそれだけか?」

「なに……?」

その質問を聞いた俺の思考が止まる。

「敵討ちをするという信念が貴様からは感じられない。貴様はなんのために戦うのだ?」

「そんなの俺は…………!!   俺は…………!!」

それはもちろん、死神さんを奪った八虐への復讐に決まって……。
いや、俺は死神さんを失う前も失った後も……同じ想いで戦ってきた。
死神さんを奪ったエルタを殺した時に俺の敵討ちは終わっている。
それは心の底で俺も感じていたことだ。
その怨はただの加算した物。
もはや、個人的な恨みなど他の八虐に感じることはなかった。別に自分があの居場所にいられるなら、迎え撃つだけなら問題もなかったかもしれない。
でも、俺は魔王軍を倒さなければいけなかった。
それは私怨ではない。他者のために……。
自らとは関係のない彼らに苦痛を与えられるであろう他者のために……。
俺の理想としている【他者のためを思った行動をする】という主人公像のために……。
俺の足は止まらなかっただけなのだから。




 力の差は完璧に体に打ち付けられた。
一撃も与えられないまま、敗北した結果は変わらない。
それなのに俺はまだ金剛との勝敗を諦めていないのだ。
それが金剛には気になった。
だから、彼はそんな質問を俺に行ったのであろう。
ならばと俺は自分の心に深く重んじている想いを彼に打ち明けた。

「はぁ……俺にはお前らが正しいとは思えない。お前らが行っているのは正義じゃない。」

「正義…………?」

「人々の平穏を守る思いやりが正義だ。俺の考える主人公像だ。
そんな他者への思いやりのない事をしているお前らが許せない。皆のために行動できない、他者を傷つけるだけのお前がな!!!」

正直な気持ちを金剛にぶつけた。主人公は他者がいるから成り立つ。他者そのものを破壊し、苦しめるような奴が俺には許せなかった。そんな理由である。
こいつらは鍵の獲得候補者を殺すために、無関係の人を危険に晒し、殺し、残虐な行為を一般人に働いた。
そんな奴らが俺には許せなかった。
【皆のためを想った行動】ではない、悪を憎んだ。
だが、そんな心境が金剛に伝わるはずもない。俺の想いを聞いた金剛は静かに笑っていた。
右手で顔を隠しながら、呆れるように笑っていた。
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