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第16章 どうやら金剛は八虐の謀反のようです。

壊れそうな砕けそうな心

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 俺の身体は宙に舞いながら地面に叩きつけられた。
幸い、受け身を取るように頭を守ったし、どこも斬られてはいないようだ。
ただ蹴り飛ばされただけ。それだけである。

「くそ……痛ッ…………」

しかし、強力な蹴りをくらってしまったのだ。
擦り傷なんて足にも腕にもできてしまった。
それよりもなぜ奴が持っていた剣が新品の別物になっているのかが気になって仕方がない。

「お前…………いったい何時から剣を取り出したんだ?   その剣はさっきのとは違うじゃないか。なんだよ。その新品の剣は?」

「ああ、これか。これは呪毒剣という物だが」

違う。俺が聞きたいのはそういう名前の話ではない。
俺が聞きたいのは何時剣を変える暇があったのかということである。

「違う。お前………俺の五円ソードが壊れてすぐに新しい剣を振るっていただろ?
どこにそんな剣を持っていやがった」

あの攻撃中に剣を取り出す時間なんてない。
あの攻防の一瞬で剣を入れ換えるなんてできるわけがない。
奴はなにかを隠している。そうとしか思えなかった。
敵が俺の質問に答えてくれるかは分からなかったが、決着がつく前に聞いておきたかった。
すると、金剛はその質問を拒否することなく。
俺の質問に答えてくれた。

「まぁ、いいだろう。答えてやる。
剣は持っていたのではない。取り出したのだ」

持っていたのではない。取り出した?
奴が剣を取り出す一瞬なんてあの攻撃中には見えなかった。そういう能力なのだろうか。
それならば、厄介である。
敵は無数の武器を所有しているということだ。
俺のお金が尽きるか、奴の武器が尽きるか。勝負は目に見えていることだろう。

「はぁ……俺は厄介な敵に目をつけられてしまったんだな」

このまま、金剛に勝てる未来が想像できない。
戦歴の差も、力の差も俺とは遠く離れていると感じてしまった。
そんな不安を感じている俺を金剛は煽ってくる。

「どうした?   向かってこないのか?」

圧倒的な余裕で俺に語りかけてくる。
今のままでは勝てるはずもない敵。
実力の差は、分かっている。それでも俺はまだ諦めない。

「上等だ。諦めてたまるか!!!」

俺は再び財布から小銭を取り出すと、金剛に向かって走っていった。



 とりあえず、金剛の隙を見つけなければならない。
例え、見つからないとしても接近するにはタイミングが必要である。
しかし、ただでさえ厄介な敵なのに、剣をやめて金剛は銃で銃弾を飛ばしてきた。
さっきまでは防いでいたのに今度は避けなきゃならない。更に体力を奪われる。
それでも文句なんて言える余裕があるはずもなく。俺は金剛の周囲を駆ける。足を止めたら殺られる。



 10円玉は銃弾のように俺の掌から投げ飛ばされる。
けれど、俺の手から投げられる10円玉を金剛は銃弾で弾き飛ばす。
こうして、3発ほど金剛は小銭を弾き飛ばしたその影から俺が全速力で走ってくる姿を見た。
俺は急に金剛の周囲を走っていた足を変えて、まっすぐに金剛のもとへと走り出したのだ。
俺の手には五円ソードと百円玉が握られている。

「チッ!!」

飛んできた10円玉の影で一瞬対応は遅れたが、金剛は拳銃を俺の眉間に向けて発射。
その銃弾を俺は五円ソードで眉間に撃たれる前に弾き飛ばす。

「俺だって負けるわけにはいかねぇんだよ!!」

気合いをいれて更に走る。足を止めることはできない。撃たれたときはその時だ。
今はただ奴に近づいてこの拳をくらわせる。
それだけのために俺は走る。決して、足を止めない。
そんな俺を金剛は呆れた様子で睨み付けてくる。

「玉砕覚悟か。哀れな奴だな!!」

金剛は手に持っていた銃を捨てる。
そして、次に手にした物は槍。

「お前は哀れだ。勝算があるはずもないだろう?」

そう言って金剛は思いっきり、俺に向かって槍を投げてくる。
この長さ、この速さの槍を五円ソードで弾けるはずもない。

「だったら………!!!『10円シールド』」

再び小銭を払い、俺の目の前に巨大な1度きりの盾を実現させる。
盾は槍と共に空へと弾かれた。
それを見届ける暇もなく。槍を置き去りにして俺は走る。
だが、その槍に構っていた一瞬がいけなかった。

「………!?」

目の前にいるはずの金剛の姿がない。
あのときと同じだ。黒が刺された時と同じだ。
記憶が思い起こされた瞬間に、俺の身体は背後からの剣を防いでいた。



 全身の力を込めて、剣を押す。
さすがに後ろからの攻撃への防御というのはなかなか力がいるものだ。
指の隙間に百円玉を挟んで両手で剣を持つ。
金剛は片手で剣を押しているのに、俺は両手で剣を押している。

「しぶとさだけは誉めてやる。だが、お前にはまだ俺を倒すまでには到っていない!!!」

「なッ…………。うるせぇ!!!」

俺の腕が震えている。このまま押し込まれないようにと必死に力を込めている。
脳が俺に対策を考えろと、命令を送る。
だが、思い付かない。こうして剣を防いでいるだけでもやっとだというのに……。考えがまとまるわけがない。
焦る。焦る。焦る。焦る。
脳が頭の回転を素早く回し続けてこの状況への対策を考える。
そんな思考に集中していた俺の腹に向かって、金剛は勢いよく拳をくらわせてきた。

「グッ…………!?」

その瞬間、腹に衝撃が走る。
考えるどころか、全身の力が抜ける。
しかし、痛みを感じる暇なんてない。
この片手に握った百円玉で少しでも攻撃をしなければならないからだ。
脳を強制的に起こし、腕に再び力を入れる。

「『百円パ…………!!!』」

その時だ。ガシッと俺の放とうとした拳は金剛の手に握られる。

「くッ…………!!」

悔しさのあまりに声が漏れてしまう。
五円ソードを持つ腕が疲れて痙攣するのも時間の問題だ。
先程まで両手でやっと支えていた剣を片手だけで防いでいるのだ。
腕が限界で千切れそうになる。
呼吸も荒く、怒りで顔が赤くなりながら俺は金剛を睨み付ける。

「…………これがお前と俺との力の差だ」

「冗談じゃない。俺はまだ………」

「必死の形相で戯言をいう気力がまだあるのか。くッ……不愉快だ。これだからお前という存在は不愉快だ!!!」

金剛は俺の拳を握っていた手を離す。
何を考えたのかは知らないが、これはチャンスだ。
これでこのまま100円パンチを金剛の顔面に打ち込んでやればいい。
効くか効かないかはあとで考えればいいことだ。今は一撃でも金剛に一発でも攻撃をいれなければならない。

「ウオオオオオオオオ!!!!」

このまま殴り抜ける。俺の100円パンチでこいつの顔面を一発でも殴っておかなきゃ気がすまない。

「…………『100円パンチ!!!!!』」

100円パンチが頬に放たれる。強烈な一撃が放たれる。

「グハッ!?!?!?」

感覚は圧と痛みを頬に走らせる。
浮かび上がるのは苦痛の表情。そして、放たれたという驚き。
俺は殴られた。金剛に殴られた。
俺の100円パンチが金剛に当たるよりも速く。金剛の100円パンチが俺の頬に放たれたのだ。
俺の技が……………。
俺の技が俺に向かって放たれたのだ。
その勢いのまま、肉体ごと殴り飛ばされて地面に激突。




ザザザザザザザザザザザザザザザ………………。
あっ、…………
その一瞬、俺の視界には砂嵐のように何も映らなくなった。
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