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15.5章 魔崩叡者霊興大戦ラスバルム(西)

柱の森のサムライ

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 サムライ!!   彼は今、確かにそう言った。
じつはこの国にはサムライの数が少ない。おそらく大楠や駒ヶ、塩見はサムライとして活動しているのだが………。
敵としてサムライが現れた事例は付喪連盟内では聞いたことがない。つまり、これが付喪連盟初めてのサムライ討伐ということになる。
もちろん、塩見も生徒会も連盟同盟も本当のサムライと殺し合いをした経験はない。
大江御笠(おおえみかさ)というこの男は、きっと厄介な敵になるだろう。
だが、こんなに仲間を殺されておめおめと逃げ帰るわけにはいかない。
山上は生徒会長の仇を討つために大江に向かって自己紹介を始めた。

「俺の名は『山上俊(さんじょう しゅん)』。生徒会副会長で王レベルだ。我らの生徒会会長の腕の敵討ちとさせていただこう!!」

シュッとかっこいいポーズをとってかっこよくキメる。
敵将からの宣戦布告に乗ってやる。
そんな覚悟を表現したのだが、

「はぁ?     ちょっと………副会長。なんですか?  ポーズしてるんですか?   ハァ…………死んでください。空気読んでください。玉砕してください」

八剣からさんざん中傷されてしまった。



 生徒会2人がそんな風に言い合っていた中、塩見は大江に向かって不満そうに言った。

「おいおい、大江って奴よ。てめぇいきなり宣戦布告してきやがってどういうつもりだ?」

彼にメンチを切りながら質問する塩見。
戦場に宣戦布告もないはずなのだが、塩見も一応仲間を殺されて怒ってはいるのだ。
すると、大江は塩見からの質問にはきちんと答えた。

「私も本来ならば、1人ずつ相手をしてやるのだが………。此度は事情が違う。
しかし、代わりといってはなんだが私の能力は教えよう」

大江が自分の能力を伝えると言うことは、敵に弱点を教えることにも繋がる。
それなのに彼は敵に弱点を教えようと言うのだろうか?

「私はスライムの付喪人。スライム、ポイズンスライム、ビックスライム………その他諸々。
あらゆるスライムを操る者だ」

スライム……。
スライムと言えばあのドロドロの液体みたいなもの。つまり、彼はスライムを斬撃の衝撃波のように飛ばしてきたということだ。



 すると、その発言を聞いた治療を行っている治療者は大台ケ原の治療をしながら納得している。

「なるほどな。これはスライムだったってわけか」

大台ケ原は今、腕を切り飛ばされたことで回復魔法を受けて傷口を塞いでいる最中であった。
さすがの回復魔法でも傷口を塞ぐくらいしかできないようだ。腕を接着するには、そういう魔法を使うか、古代の回復魔法を使うしかないらしい。
それにこの傷口を塞ぐ魔法だってまだまだ時間がかかる。
血の出血量も大量に出ているので、治療者である彼達は現場を離れることはできない。

そんな彼らを守らなければならないので、塩見は敵将と戦う部隊と治療者を守る部隊に分けることにした。

「いいか?  今生き残っている者達を2つに分ける。1つは治療者を守り通す部隊。死んでも盾になれ。もう1つはあの敵将を討つ部隊。これは無事に帰ってこれる確率は低い。死んでも首をとれ」

どっちを選んでも死ぬかもしれないじゃないか……と同盟連盟達は心の中で思ったが、指摘してしまえば殺されるかもしれないので黙っている。
すると、1人の同盟連盟の戦士が塩見に問う。

「あの………あんたはどっちなんだ?」

「拙者か?  拙者はもちろん敵将と戦う」

「冷静になれよ。あんなに仲間が殺されたんだぞ。それに敵の能力が真実かも分からない。嘘をついているかもしれないじゃないか!!
そんな不確かな情報を信じてまた戦力を減らすつもりか?」

そう言って、その戦士は塩見の胸ぐらを掴む。
その戦士は恐怖と不安で焦っていた。戦場に動揺していた。慣れるものでもないのだが、目の前で仲間が死んだことに慣れていないのだ。
死にたくない。死にたくない。
彼の心は自分の命のことでいっぱい。
確かにこのまま敵将のもとへ行くのは罠に誘い込まれているようなものである。
そんな場所に生き残った戦士たちの半分を送り込んでしまえば、更に不利な状況になるかもしれないのだ。

「お前もな。それに罠だとしても………拙者はやらねぇといけないんだ。死にたくない奴は勝手に逃げな。
戦場に慣れていない一攫千金を狙っただけの雛っ子戦士はこの世界には必要ねぇ」

彼からの訴えに塩見はそうやって返答すると、彼の胸ぐらを掴んできた腕を自分の服から離させる。

「そんな奴は背中を守る価値すらねぇ」

「くっ………あんたは俺達を全滅させる気か!!  なんの作戦や戦術も無しに向かっていくのは玉砕じゃないか!!」

「なら、拙者を信用しなければよい。自分のやり方で人に合わせずやればいい。
もともとこの西軍のリーダーになるつもりなんてねぇんだ。拙者は1人で行くぜ。信頼なんてくだらねぇ」

塩見はそう言い放つと、1人で柱の森へと向かっていった。



 そのまま、残されてしまったの連盟同盟達。
彼らはこの戦いに参加するか……それとも命を優先するか。悩んでいるようだ。
すると、柱の森へと足を踏み入れる者が1人。

「悪いけど、今回は塩見に賛成~。私も好きに戦わせてもらうわ」

それは生徒会書記である八剣であった。
彼女はまだ目を覚まさない大台ケ原の顔をチラッと見たあと、そのまま振り返らずに先に進んでいく。
そんな彼女を追いかけるかのように柱の森へと入っていく者がまた1人。
それは生徒会副会長である山上であった。

「……ったく、まぁ元々何があってもそういうつもりだったしな。名乗っちゃったもんな。
───おいお前ら。どうする?来るか?」

山上は柱の森へと入り数歩歩いた後、振り返り連盟同盟達を見る。
すると、連盟同盟達は覚悟を決めたようで。

「ああ、やってやる」
「俺もあんたたちについていくぜ」
「いや、俺は残る」
「私は行くわ」
………
それぞれ自分がどちらに行くかを決め始めた。
ある者は柱の森へと足を踏み入れ、またある者は治療者の前に立ち、柱の森を警戒している。

「お前ら、正気かよ? あんな作戦に乗っかるのか?」

そう言ってみんなの行動に焦っている塩見の胸ぐらを掴んできた男の背中を同僚がポンッと叩く。

「ほら、お前はどっちだよ?」

「アアー、ああ分かったよ。俺は残る。ここに残って怪我してきた塩見に、あいつの作戦の間違いを指摘してやるんだ!!」

考えが吹っ切れてしまった反論した男は、治療者の護衛として彼らの盾になる道を選んだようだ。
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