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第15章 どうやら全面戦争が始まるようです。(開戦)

2人の好敵手

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 さて、俺の病室から出ていった山上と紅葉。
彼らは廊下に立ったまま凭れかけ、今後の事について話し合い始める。

「──なんでもっと話ばしたかったとにィィィ!!!」

紅葉は先程山上に話の途中で外へと連れ出された事を恨んでいるようだ。

「落ち着けよ。あいつは急に仲間と会えなくなるんだぞ?  大切な仲間と離れて国に見捨てられるんだ。今はソッとしてあげようじゃないか」

山上にだって大切な仲間がいる。
彼にだって俺の気持ちが分かるのだろう。
山上にとって大切なのは生徒会の仲間たち。
そんな仲間たちと急に会えなくなり、さらに国に見捨てられるんだ。
余計なことなどせずに今はソッとしておいたほうがいいだろうという山上の優しさである。
だが、紅葉には伝わってくれなかったようだ。

「そうだけど……。もっとあん人とお話したかったばい。だって、もう会えんくなるかもしれんのや。最後ん話し相手として覚えてもろうてもよかやんか!!」

紅葉は山上に涙目で想いを告げる。
すると、さすがの山上もちょっと言い過ぎたと思ってしまったようだ。

「ウッ………。いや、その……」

だが、その隙をついて紅葉の慈愛が炸裂する。

「うち、彼に寂しかままこん国ば去ってほしくなか。決定事項でも最後ん最後まで話し相手になっちゃりたかんばい!!」

心のこもった暖かい思いやりの言葉。
それでも山上の意見は変わらない。
いや、変わるギリギリで耐え忍んでしまった。

「いや、あの……なんて言えばいいか。確かにお前の気持ちも分かるが、一旦時間を置いて話そう?  お互いに気持ちの整理をするんだよ」

感情的になる紅葉を必死に説得する山上。
しかし、紅葉は冷静になるどころか逆に情熱的になってしまった。

「いや、うちゃまだお礼も言うとらんの。
命ん恩人にお礼ん1つくらい言わせんしゃい!!
そしたら、一旦時間ば置くけん」

山上にそう言い残すと、紅葉は山上の元から走り去る。
もう情熱的になってしまった彼女を山上は止めることができない。
彼女はそのまま彼の手を振りきると、俺の病室のドアを勢いよく開いた。

「確かに悲しかとは分かる。
やけん、あんたん武勇伝ば……言うときたか言葉ば教えて!!   絶対、お仲間に伝えるけん。命に変えたっちゃ伝えるけん」

紅葉はハッキリと自分の言葉を伝える。

「「「あ………」」」

ドアを開けた瞬間に彼女の体を伝わってくる窓の外からの風 。
彼女の視界に写るのは窓の外の美しい景色。
そして、窓の縁に足をかけて今にも飛び降りようとしている俺の姿であった。



 紅葉は目の前の光景に理解が追い付いていない様子である。

「……????」

なぜなら、目の前で男が1人窓の辺りに座っているのだ。

「風ば感じるなら、屋上に~!!!」

とにかく彼女は目の前の男が風を感じるために足かけていると思ったようだ。
もちろん、そんな事をするほどクールな俺ではない。
誤解している紅葉の肩に手をおいて、山上は彼女に何が起こっているかを説明してあげる。

「はぁ、いや、違うだろ紅葉。あいつは決定事項を守らずに脱走しようとしてんだよ」

どうやら俺の作戦も山上にはバレていたようだ。
さすが一度俺を殺した者のだけはある。

「──お前、もっと速く脱走しろよな。
せっかく時間稼ぎしてやってたのに」

「いや~俺も一応怪我人なもんで……。ここから飛び降りたら死んじまうから」

「「ワハハハハハハッ!!!」」

お互いに笑い合う2人。
それはまるで友人同士のようにも紅葉には見えた。



 今まで紅葉だけがすっかり騙されていた。
彼らは素直に国外追放という決定事項を聞かない。
国の命令など彼らには通じないのだ。
たくさんの仲間がいて、たくさんの修羅場をくぐって、たまに黒や八剣のような仲間にムカついて……。
彼らは立場は違えども似た者同士であった。
だからこそ彼らは協力し合い、戦い合うのだ。
だが、それでも国の命令に逆らうことはいけないこと。
彼女には彼らを止める責務がある。
それは紅葉にも分かっていた。

「山上しゃん。こいつに協力しようとしとったんと?」

紅葉の質問に山上は答える。

「当たり前だろ?
こいつは俺の好敵手だからな。勝手に国外追放させられる訳にはいかないんだよ」

俺とこいつが好敵手??

「好敵手?  お前好敵手にも及んでないぞ。今の俺の方が強い」

おや、なにやら怪しい雰囲気が病室内を漂っている。
紅葉は2人の様子を見ていたのだが、少し嫌な予感を感じているようだ。

「おいおい、俺はてめぇを一度殺したんだぜ。お前俺に勝ったことあんの?」

「おいおい、俺は魔王軍幹部と渡り歩いた強者だぜ?  お前、魔王軍幹部に勝ったことあんの?」

「「────てめぇ!!」」

病室内で殺気立たせる2人の男。
この2人犬猿の仲というよりはハブとマングースレベルの仲の悪さ。
会話しただけで戦いを始めようとするこの関係はもはや紅葉にとっては異常。
それもまた決着がついていないせいであろう。
それならばと紅葉は喧嘩が始まろうとした瞬間、大声で叫ぶ。

「2人とも決闘なら外でやって、決着はうちが見届けちゃるけん」

その言葉に山上と俺の拳は動きを止める。

「確かに俺も喧嘩しっぱなしは面倒だ。決着をつけよう」
「確かに俺も出会う度に喧嘩は面倒だ。決着をつけよう」

こうして俺たちは素直に紅葉の言う通り外で決着をつけることにした。




 久々の外の空気。
俺たちは病院に外出許可を貰い外へ出る。
ずっと病室だったのでこうして外へ出るのは久々だ。
鳥が鳴き、風がサワサワと草木を揺らす。
穏やかな日差しを浴びながら、チクチク痛む俺の腹。
移動先の決闘場所は病院の駐車場の隣にある小さな広場である。
そこで俺と山上は2mの距離を離して立っていた。
その中間当たりに紅葉は立ち、2人の視線を注目させる。
そして、彼女は2人の顔を確認するとこの決闘の審判としてルール説明を始めた。

「じゃあ、決闘ルールば決める。審判は紅葉が務めるわ。
まず、ここから出たり、地面に背中ばつけたら敗け。
次に死んだり気絶したら敗け。
さらにここん物ば壊したら敗け。
最後に部外者に怪我ばさしぇたら敗け。
決闘時間は30分。
以上ばい」

決闘としては上出来なルールだ。
殺害まではさすがに入っていないが、山上との決着を着けるには素晴らしいルールである。
それにしても、よく紅葉が審判を引き受けてくれたもんだ。
さっきだって彼女が止めてくれなければ病室で喧嘩していたところだった。
それを仲裁して決着の場所を考えてくれた彼女には俺も感謝しなければならない。

「分かった紅葉さん。ありがとうな審判してくれて」

「いやいや、大丈夫ばい。
王レベルに喧嘩早か人がおるけん揉め事ん決着は決闘ってのがようあっとーと」

揉め事の決着は決闘。やはり王レベルは野蛮なやつらばかりなのだろうか。
しかし、俺の目の前にいる王レベルは戦いを前にして落ち着いている。

「なぁ、明山。俺は今までで一番落ち着いているかもしれない。だが、これは精神統一ってやつだ。合図を出した瞬間俺は豹変するぞ」

山上は笑顔で俺に語りかける。

「ああ奇遇だな。俺もだよ」

俺も山上に笑顔で返事を返した。
すると、山上は自分の握りこぶしを見ながら呟く。

「八剣と手合わせした時や他の王レベルと手合わせした時とは違う。
なんだろうなこのワクワクは……」

「さぁ、俺には王レベルの強さはよく分からないな。ただしワクワクはしてる。お前との決着をつけられるんだからな」

好敵手(ライバル)同士の対決。
ついに決着をつける時が来たのだ。
山上は彼に死を与えた。
明山は彼に借を与えた。
だが、それはお互い過去の事。
今では過去よりお互い強くなった。
これから魔王軍と戦いどうなるか分からない未来のために…。
彼らはこの世界に悔いを残さないために戦う。
耳に聞こえるは紅葉の声。
紅葉の片手が空に上がる。

「それでは…………」

片手は振り下ろされる。

「「決着つけようぜ。好敵手(ライバル)ゥ!!!」」

地面を蹴り、拳を向けるは好敵手の方向。

「……始め!!」

開始のゴングは掛け声ではなく互いの拳で始まった。
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