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第14章 どうやら終末は近づいてきているようです。

合せ鏡

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 だが、黒い存在の計画はここで終わる。

「─────おい、傾奇者達。お前らは吾の得物を横取りするつもりなのか?」

「「「「………!?」」」」

その聞き覚えのある声に全員が声のする方向に目を向けた。
彼女らの目の前に仁王立ちして動かないはずの男からの一声。
彼は腕を組んで黒い存在を蔑んだ目で見ながら、嘲笑っていた。

「な………!?」

魂を奪ったはずの男からの発言を黒い存在は不思議に思う。

「──貴様の心情を当ててやろう。
何故生きているかって話であろう?」

その通りだ。
何故、魂を奪った男が生きてしゃべっているのだろう。
理解など出来ない。理由など分からない。
そんな答えが分からない黒い存在を苔にするような視線で睨み付けながら三原は答える。

「この程度の小細工に騙されるとは、堕ちたモノだな。
貴様の握っているその魂は本当に吾のなのか?
自分のストックが減っている事に気がついていないようだな」

黒い存在は自身の体内に蓄えておいた魂の数を調べてみる。
確かに最初より1つ足りない。

「嗚呼…………」

三原がどのように奴の秘密を知ったのかは分からない。
目撃者は1人残らず殺してきたはずなのだ。
攻撃方法が魂を奪う事だと誰かにバレるはずがないのだ。
なのにこの三原は初めて会ったのに攻撃方法を知っている。
何者なのだろう。三原というこの男は…と黒い存在は少し焦りを見せる。

「三原の能力は確か鏡。
黒い存在には鏡に手を入れさせて、黒い存在の背後の鏡に手をワープさせ、自分の魂を奪わせたのか?」

大楠の解説くさい台詞でこの場の全員が理解することは出来たが、黒い存在にピンチが訪れたのに代わりはない。

「その通りだ傾奇者。吾が反射により貴様の技を貴様が受ける。貴様ごときが吾に接触できると思うなど3000年早いのだァァ!!!」

ドヤ顔で黒い存在に宣戦布告を行う三原。
黒い存在には初めから有利な立場ではなかった。
まだ奴は有利な立場に到ってすらいない。
彼女らの絶望は一瞬にして希望へと変わり。
奴の希望は一瞬にして絶望へと変わり果てる。
すべてを反射する鉄壁の守りの能力。
もうこの場に三原がいる時点で奴の計画は失敗なのだ。
どうしようが彼の魂を奪うことはできない。



 望みを叶えるのは困難。
彼を倒さない限り、おそらくこの場の魂を回収することは出来ないであろう。
かといって彼を仲間に加えることもまた不可能に近い。

「この場には汝ばかりが異質。迷ひこではいかぬ異物。汝が…汝だにいずは我が望みは手に入りしに……。邪魔物が邪魔物が邪魔物が邪魔物がァァァァ!!!! 」

せっかくの長年賭けてきた計画も破綻。
怒りに怒り、激怒。
黒い存在は何がなんでも例え無理でも三原から魂を奪わなければいけない。
飛びかかる黒い存在。
もうそれは余裕の戦いではなくなっていた。
今までは喜んで受け取っていた負の感情を今度は自分が出す羽目になっている。
計画完成への焦り、計画完成への不安。
それでも彼の片手を三原の魂を奪うために伸ばす。
だが、届かない。
手を伸ばしても掴むのは自らのストックの魂。
手を伸ばしても掴むのは自らのストックの魂。
手を伸ばしても掴むのは自らのストックの魂。
何度も何度も何事も何事も三原の魂を奪うために伸ばすけど、奴の腕は届かない。
どれ程手を伸ばしても、彼の鏡が邪魔をして攻撃先は自らへとワープする。
そんな黒い存在を嘲笑うかのように一歩も動かずただ観賞する三原。
それが黒い存在には許せない憤りを感じさせる。

「ありえず。人なんぞに……。ありえず。人に……。
魂を奪ふべからず。
そんなことありてよしまじきなり」

これまでとは違う人間。
今までとは違う戦闘。
三原は黒い存在が今までに出会ってきた誰とも違っていた。



 今までに奴が出会ってきた人間は仲間を頼るために少し自分の力に偏りが生じる。
自分では気が付いていないかもしれないが、何かあれば仲間を信じる…という信頼があった。
しかし、目の前にいる三原にはそれがない。
信頼なんて言葉を知らないのか…と言いたいほど彼は個人であった。
何事も個人で解決できるほどの実力。
仲間を信じる信頼ではなく自分の力を信じている。
他人に頼らず全て自分で出来るという一人勝ち状態。
自分より下はただの足手まとい。
孤独な頂点。ゆえに尊大。
たった1人の頂点の資格を得ることが出来るかもしれない覇王が黒い存在の前にはいるのだ。



 彼には勝てぬと絶望した時、その瞬間に黒い存在には考えが浮かぶ。
このまま、時間を無駄に食い散らかすよりは、先に残りの3人から魂を奪うだけでよい。
護衛の失敗にはさすがの彼も動揺を見せるはずだ。
その隙に彼から魂を奪うだけでよい。
黒い存在は急に深淵へと姿を眩ませる。
逃げるのではない。
最初に王女から魂を奪うための移動手段に使うのだ。

「「───消えた!?」」

急に視界から黒い存在が消えた事に大楠と側近は驚く。
大楠は刀を構えて、側近は王女様を攻撃から庇うために王女様の前に立つ。
だが、大楠の刀も能力も黒い存在には効かない。
能力もない側近には黒い存在と戦う手段がない。
そう、何も三原に勝たなくてもよいのだ。
三原が守るべき護衛対象を潰せば、彼のプライドも崩れ落ちる。
そこを狙って魂を奪い、その後は終末の瓶内にいるあの御方を甦らせるだけでいい。

「初めよりねたき王族を殺さばすむ話なりけり。
深淵に潜む我を捕らふるよしやあるか?」

一瞬、ほんの一瞬。
奴が深淵を移動しながら、ちょっと顔を出してみた瞬間。
奴は既に三原の目の前に潜んでいた。



 何が起こったのだろう。
奴はただ一瞬だけ深淵から顔を出してみただけ。
向かっていた方向は三原とは逆の王女様の方向。
それなのに奴はいつの間にか三原の目の前に立っていた。

「なるほど、そうやって今までは警備に気づかれる事もなく深き闇の深淵を進んで魂や負の感情を与えていたのだな」

三原からの質問など耳に入らず、黒い存在が自分がなぜここにいるのか訳の分からないままでいると、三原は小さな鏡から剣を取り出す。

「───ヴォーパールの剣よ」

その剣はまさに伝説。
三原(ミハラ)が使用する剣の1つ。
確率で致命傷を与える剣であり魔法の剣。
魔法を弾く支援や加護でもなければ至高の品物。
特に闇に生きる者には効果的な、無敵を斬る剣。

「もうよい。お前には飽き飽きだ」
「くっ………くそ人がァァァァァァ!!!!」

スザッ…………。
縦に真っ二つにされた黒い存在。
体を深淵と同化させてもその剣は肉体を切り裂いた。



 だが、奴の不死身はそう簡単には殺させてはくれない。
黒い存在には死にたいと思っても死ねない呪いがあるのだ。
それは無敵を斬る剣ではあったが、黒い存在の概念そのものを斬る事はできなかったようだ。

「ふははははは、我は死ぬるよしにはいかず。
今は亡きもう1人の使徒の為にも……。
“アレ”…………あの御方なる『“殲(せん)魔王様”』に捧げねばならぬなり。あの御方が再び地位を得るためにィィィ!!!!」

真っ二つにされても黒い存在は止まらない。
それは自らを救ってくれる恩人のために、ただ自分の命が欲しいという願望のために……。
その為に奴はアレを甦らせなければならないのだ。
そう約束した。
復活させてくれれば生命を与えてくれるという契約。
その時にかけられた不死身の呪い。
それを解くために、奴は行動してきたのだ。
既に死んだ1人の使徒とは違い、数千年も前からあの御方の為に……。

「───『合せ鏡』」

ドンッ……………………。
三原の発言と共に黒い存在は上下に現れた鏡によって挟まれ、この世から消え去る。
存在、概念その物がこの世から失くなってしまったのだ。
この場に残ったのは静かな閑静だけであった……………。



──────────────────

   落ちる落ちる落ちる。
三原の鏡に上下から挟まれた黒い存在は、謎の空間を落ち続けていた。

「嗚呼、憎き憎き憎き憎し!!!」

黒い存在はこの謎の空間に攻撃を与えてみるが、びくともしない。
ただ永遠という時を落ち続ける。
これが今までに何十万という魂を奪い、何万という負の感情をお届けしてきた者の最後。
今宵はその最後の贈り物となるはずだった。
殲魔王の使徒である2人からの支援はもう来ない。
殲魔王は甦る機会をまた失ってしまったのだ。

「あ゛ギ゛ャ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!!!!!!!!!」

もう黒い存在が甦るには鏡の付喪神の能力が消え去るしかない。
だが、それはいつになるだろう。
付喪神………神が死ぬにはどのくらいかかるだろう。
人類という種がいなくなっても付喪神はこの世に居続けるはずだ。
あと何年、何百年、何万年、何億年と待てばいいのか分からない。
必ず終わりは来るがその終わりが見えないのだ。
生き地獄。終わりを待たなければならない苦痛。
だが、そもそも黒い存在は呪いによって、不死身なので死ぬことが出来ない。自害すら出来ない。



   外の時は過ぎていく。
ジワジワとだんだんと……。
落ちる。落ちる。落ちる。
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