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第12章 どうやら魔王を討伐するようです。

角砂糖の戦士と仮面の勇者

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 久々の直に浴びる日差し。
駒ヶは自身の仮面を着けているという実感を嬉しく感じていた。
検査の時や、寝る時などに周りからの素顔が知りたいという視線が凄まじくストレスを感じる日々だった。
だが、もうそんな日々を過ごすのも今日が最後であろう。
彼は遂に病院から退院できたのだ。



 さまざまな敵との死闘や八虐との戦いによって、駒ヶの体は疲れきっていたようだ。
明山ほどではないだろうが、それでも疲れきっていたのだ。
みんなよりも一番遅い退院。
退院の連絡は先ほど明山にメールで送ったばかりである。
きっと、みんな大急ぎで駒ヶのお迎えをしてくれるのだろうな。
なんて、期待をしながら病院を出ると……。

「退院おめでとう少年。退院祝いだ。角砂糖を3粒ほどくれてやろう」

突然、渋いダンディな声が入り口の隣から聞こえてきた。
そう、あの角砂糖野郎である。
駒ヶはそのまま帰りたいと考えていたが、一応返事くらいは返しておこうと考えた。

「いらねぇよ。それよりなんであんたがいるんだ?
まさか、前から言っていた殺害の話じゃないよな?
俺は今、病み上がりなんだからな」

「質問が多いぞ。まぁ、今日訪れたのは君の言う通りだ。
病み上がりで恩を返そうと通常以上の努力をする。
見ていてそれほど面白い事はないだろう?」

「やっぱりか」と駒ヶは残念がった。
この男は性格からヤバイ奴なのだ。
角砂糖を平然と何粒も食べる辺り、恐怖そのものである。
絶対、健康じゃない。
駒ヶは確かに彼に恩はあるが、恩返しをしたらとっとと関係を無くしたいと思っているのだ。

「はぁ、俺はこれ以上はあんたとの関係を無くしたいんだがな」

「奇遇だな。私も君と同意見だが」

そう言い返して彼は笑みを浮かべている。



 「なぁ、そういえば気になっていたんだけど……。なんであの時、〔英彦の中にエルタがいる〕なんて俺に教えてくれたんだ?」

それは駒ヶと彼が二度目に出会った日。
英彦が異常な暴走を起こした時、彼が睡眠弾を撃って暴走を止めてくれたあの日。
他人にしゃべらないという条件で話してくれた情報である。

「理由など一つしかないではないか」

男はそう言ってニヤリとほくそ笑むと、

「お前独りだけその秘密を知って、彼と今まで通り接していくか。エルタとは何か。それに悩む少年の姿を見たかっただけだ」

なんという野郎であろうか。
シャーデンフロイデを常人よりも激しく求めるなど……。
「やはり、この男の事を慣れる気にならない」と思う駒ヶであった。



 「それでは行くとしようか。我々の伝説を生み出す戦いをしに」

そう言って、男は一人先に歩いていく。
伝説を生み出す戦い…とはいったいどういう事だろうか。

「何を言っているか分からないんだけど」

「いいか、我々が今から勇者としてこの物語を終演へと導くのだ。」

勇者としてこの物語を終演へと導く?
さっぱり何をするのか分からない。
我々は今から魔王退治でもするのだろうか。



 「私はこの世界の為に悪を討つ」

そんな事を言われても、彼の性格のせいでまったく信用できないが。
今まで会った時は、毎回助けてくれたので優しい奴と思っていた時期もあった。

「そう畏まるな。私だって今の君を取って喰うような鬼ではない。
私は兵士を踏み台にして栄光を勝ち取る英雄だからな」

なんて、慰めてくるので余計に信用できない。
とにかく暗殺を済ませればこいつと会うこともないので、そんな心配はいらなくなるだろう。

「はぁ、じゃあもう行こうぜ。さっさと済ませて早くお前との縁を切りたい」

「そうだな。では、行こうか。…………平行世界へ!!!」

平行世界。あの男は今、平行世界と言ったのだろうか。

「へー、平行世界…………はぁっ……!?」

まったく予想外の目的地に駒ヶの頭の中はパニックになっていた。



 駒ヶは先に歩いていく男を追いかけながら話を始めた。

「いいかね。魔王軍は既に行動を起こしている頃だろう。
早めに元を叩かなければ…(私の計画が)」

小さな声で最後の方は聞こえなかったが、彼は殺害に相当焦っているらしい。
魔王軍関係といったら、たしか後二人程いるらしいが、そのどちらかだろうか。
八虐の残りで言うと、謀反と不道?だろうか。

「なぁ、魔王軍関係の奴を暗殺するなら、なんで平行世界へ行くんだ?」

駒ヶの質問に男は、笑いかけながら返答してくれた。

「そうだな…。今のうちに言っておくべきか」

そう言って男が話だした内容は……。

魔王は昔、戦いで傷をおってしまった。
トドメまでは刺されなかったが、このままでは次こそ討伐されてしまう。
だから、八虐達はミハラの内の一人が使う鏡の移動能力によって、魔王を平行世界へ隠し復活を待つことになったようだ。
平行世界ならわざわざ、討伐にくることもないから安心なのだ。
そして、魔王を復活させるには人間の魂が必要となる。
人間の魂は集まれば集まるほど、強大なエネルギーになるようで……。
八虐達はその為に人間の魂を集めていたらしい。

…と言うものだった。



 「そうか。つまり魔王の復活がもうすぐだから焦っているんだな」

「まぁ、その通りだ」

駒ヶの質問に男は静かに頷く。
どうやら本当に魔王の討伐に行くようだ。
本来なら神に選ばれたり、血統が凄いような勇者的な人が魔王を討ち取るはずなのだ。
今までの魔王達もそんな風に倒されてきたと、何かの本で読んだことがある。
だが、駒ヶにはそんな血統も神に選ばれてもいない一般人。
そんな奴に魔王を討ち取る事が出来るのだろうか。
そんな事を考えていると駒ヶの中での決心が揺らいでしまう。
もしも、この男が神に選ばれたり、血統が凄かったりするような特性を持っていたら良いのだが……。
なんて、考えたりもするが、こいつの性格上そんなモノはないだろう。
駒ヶの勝手な偏見だが、そうとしか見えないのだ。

「なぁ、流石にお前に凄い血統やら、神に選ばれた逸材なんて肩書きはないよな?」

駒ヶは分かってはいても聞かざるおえなかった。
すると突然、男は振り返り駒ヶの顔を見る。
まるで勝手な偏見を見透かしているような顔だ。

「神に選ばれた…などはないな。私は私の神を信じるだけだ。それに血統などは本人とは違うもの。だから、役にはたたない」

「なるほどな」

確かにこの男の言い分も分かると聞かれれば分かる。
しかし、「そんなの夢がないな」と駒ヶは考えてしまう。
まぁ、殺し屋にそんな感情が不要だから持ってて欲しいとは思わないが。

「────だが、確かに血統か。それは今の私にも関係しているかもしれないな」

まさか、この男にもそれなりの血統があるのだろうか。



 「私はもともと白帝家の血統だからな。運が良いという所は良いかもな」

男が口に出した衝撃の真実。
こいつは英彦君と同じ血をひいているという事か。
こいつと英彦君が……?
「まさか、将来英彦君もこいつみたいな性格に……」なんて考えてしまう。

「そうか。お前の側にいた少年も、白帝家の血をひいている者か。面白いな。いずれ顔を出してみるのも良いかもしれない」

なんて、言い出したこの男に、彼は恐怖を感じてしまう。
こんなゲス野郎を英彦君に会わせるなんて…駒ヶにはできない。
そんな考えで彼が男を睨みつけると、男はまったく気にしていない様子で微笑している。

「そんな表情をしてくれるとはな。これは会うのが楽しみだぞ。この『白帝蔵王(はくていざおう)』にとってはどんな者の不幸も至福だからな」

やはり、相変わらずのゲス野郎だ。
神を信仰する者としてはいけない奴なのではないだろうか。
この蔵王と言う男、明らかにいずれ敵対するだろう。そんなポジションにしか見えない。
駒ヶは彼の背中の2丁のショットガンを警戒しながら、男の隣に並んで歩く。



 「さて、そうだな。この辺りで良いかもしれない」

すると、男はとある場所で立ち止まったまま何かを考え始めた。

「何か始めるのか?」

「ん? ああ、今から平行世界へ行く準備を始めるつもりなのだ」

男はそう言うと、バックから何かを取り出して地面に置いた。
何を置いたのだろうかと、チラッと覗いてみると……。
そこに置いてあったのは手鏡だった。
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