75 / 294
第7章 どうやら四阿は八虐の謀大逆のようです。
八剣の過去
しおりを挟む
『八剣(やけん) 野月花(やつきな)』は三姉妹のうちの次女であった。
彼女の姉は当時の彼女にとってはとても頭の良い存在で、自分より何でもできていた完璧姉さん。
料理、片付け、掃除、運動、勉強……全てが完璧だったのだ。
そんな彼女を八剣は本気で越えようとしていたが、越えるべき壁は高く、八剣にはたくさんの時間が必要だった。
その事を当時の八剣はとても悔しく目標としていた。
そんな生活を過ごしていたある日、八剣と姉の二人は自分が付喪人だと知らされる。
彼女らは生まれながらに付喪人としての素質を持っていたのだ。
しかし、八剣の姉の方は支配力の低い付喪人であった。
支配力の低い付喪人はいつ暴走するか分からない。
なので八剣も疑われ、姉妹は監禁施設に入れらてしまう。
末っ子だけを家族の元に残して……。
ここで八剣は初めて姉をひとつ越えた。
姉よりも安全な存在として監禁レベルを下げられたのだ。
しかし、周りは誰もそこから彼女らを助けようとはしなかった。
いや、それどころか意味嫌うようになっていた。
彼女らがいつ暴走するか分からないという恐怖から周りの人々から嫌われていたからだ。
突然日常が異常になったのである。
親も来てくれない、幼稚園の友達も来てくれない。
その後、そんな二人はとある事件に巻き込まれる事となった。
それは監禁施設で隔離されてから3年後の出来事である。
「従業員は直ちに避難してください。繰り返します。従業員は直ちに避難してください」
暗い廊下にアナウンスが流れ続ける。
「何があった?」
「459号室の彼が突然暴走を始めたんです」
「とにかく奴を外に出すんじゃないぞ。ここで仕留めるんだ」
ドアの外では従業員達の慌てる声が聞こえた。
廊下を走る者のたくさんの足音。
たまに遠くから悲鳴も聞こえた。
その時はまだ幼かった八剣。
彼女は姉の袖にしがみついて恐怖で震えている。
そんな幼かった八剣を姉は優しく撫でてあげている。
彼女も震えるほど怖かったはずなのだが、姉としての意識を持って、八剣の側に居てあげているのだ。
すると突如、部屋の電気消える。
停電である。
度重なる恐怖の積み重ねにより、八剣は更に力強く姉にしがみついた。
そんな八剣を姉は優しく宥めている。
そんな中、電子ロックされていたドアの鍵が開いていた。
停電によってドアロックが外れたのだろう。
その事に気づいた姉は決意を固めると八剣に言った。
「八剣逃げるよ」
暗闇に閉ざされた廊下を二人の女の子が道もわからず走っている。
走るなんて久しぶりのことだったので八剣は体力を消耗していく。
「まっ、待って」
「早くしないとバレちゃう」
疲れきった八剣の手を引いて姉は再び走り出した。
ここで見つかればもう逃げ出すチャンスはない。
姉はこのチャンスを無駄にはしたくなかったのだ。
何度か建物は揺れている。
おそらくどこかで暴れている者の起こしている振動であろう。
足音しかない暗い廊下。
もし、これが昼間だったら気づいたかもしれないが、幼い二人はどっちみち気づかなかったかもしれない。
天井の一部が崩れて、二人に迫って落ちてきたのだ。
大量の瓦礫が降ってくる中、姉はいち早くその事に気づいた。
「あぶない!!」
姉はおもいっきり八剣を突き飛ばす。
いきなり突き飛ばされて何が起こったか理解できない八剣。
運良く二人は落ちてくる瓦礫から逃れることは出来た。
しかし、二人の間は瓦礫が塞いでおり、子供では退かすことが出来ない。
「八剣外に逃げて。お姉ちゃんは大丈夫よ。後から追い付くから。先に行って」
瓦礫の向こうで姉が八剣に声をかける。
こういう場合、最初は戸惑ったりするものだと思うのだが、その時の八剣は冷静に物事を考えていた。
「うん」
そう言うと八剣は瓦礫から離れて走っていった。
八剣は再会を信じることにしたのだ。
姉はいつも何でも出来ていたから、自分より頭が良かったから何か対策を見つけ出す。そう思ったのだ。
そんな八剣への運命が決まっていたかのように再び頭上に落ちてくる瓦礫たち。
今度は先程よりも早く気づいたのだが、八剣は恐怖に駆られてその場にしゃがみこんでしまった。
思わず目を瞑ると真っ暗で何も見えなくなる。
「おい、もう大丈夫だ。そのまま早く外に逃げるんだ」
目を開けて上を見るとそこには落ちてきそうな瓦礫を必死に支えてくれている大人がいた。
どうやら八剣を庇ってくれていたようだ。
しかし、顔は見えない。それに服も従業員とは違っていた。おそらく外部の人間なのだろうか。
「あの……?」
「早く行くんだ。ここから逃げればもう君を縛る者はない。もう君を意味嫌う者もいない。
君は普通に生きれるんだ。さぁ、早く急いで」
そう言われると八剣は迷った。
この人は早くここから逃げろと言っているが、八剣は伝えなければならないことがあった。
たった一言でよかった。この先に姉がいると……。
しかし、瓦礫を必死に支えている大人の姿を見ているとこれ以上ここにいては迷惑になるという気持ちにもなるのだ。
幼いながらにも必死に選択しようとする。
このまま逃げるか。姉の助けを求めるか。
だが幼い八剣には選ぶなんて難しい。
八剣は結局、その場から必死に立ち去った。
太陽が昇り鳥たちが鳴き出して飛び初めても、姉とは再会することはなかった。
その真実を理解した幼い八剣。
だが、家族もあの大人も結局見つからない。
そんな状況の八剣の心の中はある思いでいっぱいになっていた。
「やっと姉を越える為の時間ができた」
その喜びと悲しみを胸に少女は一人、朝日を見つめていた。
その後、八剣は幸運なことに二人の老夫婦に拾われ、しばらくの間一緒に暮らすこととなった。
八剣はそれから今まで以上に勉強も料理もスポーツも作法も付喪神の能力も頑張って極めていった。
全ては一番になるために、姉が出来たであろう事を自分が代わりに一番になるために……。
中学生の時には何事も一番になれた。
賞も点数も沢山手に入れた。
妬まれる事は度々あったが、そいつらは自分より下だと実感できる証明と思って彼女は日々を過ごしていたのだ。
しかし、高校に入ったとき老夫婦は彼らの息子と一緒に暮らす事となった。
突然の別れ。悲しみの別れ。
八剣は二人と別れた後、独り暮らしを始めた。
これからは誰にも頼らずに自分の力だけで生きていくためである。
高校に行き始めても八剣は変わらない。一番になるために頑張って日々を過ごしていた。
だが、遂に幸運は続くことが無くなった。
今まで姉にしか負けたことのなかった八剣は遂に敗北を知ったのである。
それは生徒会選挙。
八剣はそこで生徒会長落選という結果を出されてしまった。
自分よりも下と思っていた男に負けたのだ。
そして今、八剣は書記長としてその生徒会長にスカウトされている。
しかし、八剣はまだ生徒会長の座を諦めてはいないのだ。
……というのが、八剣の人生をざっと振り返ったものである。
そして現在。
「さっさと溶けきっちゃいなさい」
「アホか。俺だけで死ぬわけにはいかん。ちょっと待て。話してる…途中で…水攻めを…するなァァァァ」
校庭で戦っていたのは八剣とF-206である。
話している途中で水をかけられ続ける哀れなF-206。
自慢の握力も流水が邪魔をして近づいて発揮することもできないようだ。
なんだか、かわいそうになってくる。
「このままあなたが何も出来ないまま溶け続けても、私は憐れだとは思わねぇ。むしろ、どうなっていくのかっていう興味しか湧かないわ」
そう言いながら八剣は流水をF-206の口やら鼻の穴に流し込んだ。
それはまるでプールの水が鼻に入ったような感覚である。
「ゴホォ…グッ…ゴホォ。お前…最低だぜ。ただでさえ死にかけなのに…。偽物でも生きてんのによ」
同情を求めようとするF-206に、八剣は更に追い討ちをかけるように体内の流水を勢い良く動かした。
「!?」
体内で激しく動き回る液体。
F-206の口から少し血が吹き出す。
「でも、あなたどうせ付喪神なんでしょ。罪もない騎士団達を殺したあんたに同情なんてねぇよ」
冷たいゴミを見るのような目でF-206を見つめる八剣。
F-206の体は既に水に濡れたティッシュのようにベチョっとしている。
「──冷たいな。この流水のように…。冷えきってる。なぁ、取引しよう。俺が今から俺たちの契約者の居場所を教えるから。見逃してくれよ。乾けば俺は元通りだから…。俺たちだって生きてるんだ。死にたくないよ」
必死に命乞いをするF-206。
そこまでして生きて何の得があるのだろう。
だが、八剣はさすがに話だけは聞くことにした。
「いいか。場所は理市の廃工場だ。市の中に一つしかないから分かるだろ。なぁ、これで助けて……」
頭を上げて八剣を見ようとしたF-206だったが、頭を上げると既に八剣は校舎へと歩いていた。F-206の体内に入っていた水も元の水に戻っている。
「──馬鹿め。お前が解除するときを待っていたのだ。今度こそお前の可愛い背中を紙風船を潰すようにぶっ潰してやるぜェェェ。死ぬのはお前一人だぜお嬢ちゃんnnnnnnn!!!」
F-206は背を向けた八剣に向かって飛びかかる。
しかし、八剣は振り向くことはしなかった。
おそらく、気づいていないのだろう。
F-206の強力な握力が背中を潰そうと迫ってくる。
その時、再び体内の水が暴れだし、そして体外へと身体中から噴き出していった。
「ぞんな…ばがなぁぁぁ!?!?!?」
「ふっ、バー――――――――カ!!!」
まるで内部爆発のようにF-206の体はバラバラに吹き飛ばされ、もう動くことはなかった。
「─あんたは溺死じゃすまねぇよ。本物はもっといい人だけど、あんたはしゃべり方も中身も別人だ。名誉毀損の罪を償いな。
じゃあ、そろそろ副会長を助けに行こうかなー。手柄をたてたら副会長くらいにはなれるかも~」
八剣は敵の死亡を確認すると、スキップをしながら校舎へと入っていった。
彼女の姉は当時の彼女にとってはとても頭の良い存在で、自分より何でもできていた完璧姉さん。
料理、片付け、掃除、運動、勉強……全てが完璧だったのだ。
そんな彼女を八剣は本気で越えようとしていたが、越えるべき壁は高く、八剣にはたくさんの時間が必要だった。
その事を当時の八剣はとても悔しく目標としていた。
そんな生活を過ごしていたある日、八剣と姉の二人は自分が付喪人だと知らされる。
彼女らは生まれながらに付喪人としての素質を持っていたのだ。
しかし、八剣の姉の方は支配力の低い付喪人であった。
支配力の低い付喪人はいつ暴走するか分からない。
なので八剣も疑われ、姉妹は監禁施設に入れらてしまう。
末っ子だけを家族の元に残して……。
ここで八剣は初めて姉をひとつ越えた。
姉よりも安全な存在として監禁レベルを下げられたのだ。
しかし、周りは誰もそこから彼女らを助けようとはしなかった。
いや、それどころか意味嫌うようになっていた。
彼女らがいつ暴走するか分からないという恐怖から周りの人々から嫌われていたからだ。
突然日常が異常になったのである。
親も来てくれない、幼稚園の友達も来てくれない。
その後、そんな二人はとある事件に巻き込まれる事となった。
それは監禁施設で隔離されてから3年後の出来事である。
「従業員は直ちに避難してください。繰り返します。従業員は直ちに避難してください」
暗い廊下にアナウンスが流れ続ける。
「何があった?」
「459号室の彼が突然暴走を始めたんです」
「とにかく奴を外に出すんじゃないぞ。ここで仕留めるんだ」
ドアの外では従業員達の慌てる声が聞こえた。
廊下を走る者のたくさんの足音。
たまに遠くから悲鳴も聞こえた。
その時はまだ幼かった八剣。
彼女は姉の袖にしがみついて恐怖で震えている。
そんな幼かった八剣を姉は優しく撫でてあげている。
彼女も震えるほど怖かったはずなのだが、姉としての意識を持って、八剣の側に居てあげているのだ。
すると突如、部屋の電気消える。
停電である。
度重なる恐怖の積み重ねにより、八剣は更に力強く姉にしがみついた。
そんな八剣を姉は優しく宥めている。
そんな中、電子ロックされていたドアの鍵が開いていた。
停電によってドアロックが外れたのだろう。
その事に気づいた姉は決意を固めると八剣に言った。
「八剣逃げるよ」
暗闇に閉ざされた廊下を二人の女の子が道もわからず走っている。
走るなんて久しぶりのことだったので八剣は体力を消耗していく。
「まっ、待って」
「早くしないとバレちゃう」
疲れきった八剣の手を引いて姉は再び走り出した。
ここで見つかればもう逃げ出すチャンスはない。
姉はこのチャンスを無駄にはしたくなかったのだ。
何度か建物は揺れている。
おそらくどこかで暴れている者の起こしている振動であろう。
足音しかない暗い廊下。
もし、これが昼間だったら気づいたかもしれないが、幼い二人はどっちみち気づかなかったかもしれない。
天井の一部が崩れて、二人に迫って落ちてきたのだ。
大量の瓦礫が降ってくる中、姉はいち早くその事に気づいた。
「あぶない!!」
姉はおもいっきり八剣を突き飛ばす。
いきなり突き飛ばされて何が起こったか理解できない八剣。
運良く二人は落ちてくる瓦礫から逃れることは出来た。
しかし、二人の間は瓦礫が塞いでおり、子供では退かすことが出来ない。
「八剣外に逃げて。お姉ちゃんは大丈夫よ。後から追い付くから。先に行って」
瓦礫の向こうで姉が八剣に声をかける。
こういう場合、最初は戸惑ったりするものだと思うのだが、その時の八剣は冷静に物事を考えていた。
「うん」
そう言うと八剣は瓦礫から離れて走っていった。
八剣は再会を信じることにしたのだ。
姉はいつも何でも出来ていたから、自分より頭が良かったから何か対策を見つけ出す。そう思ったのだ。
そんな八剣への運命が決まっていたかのように再び頭上に落ちてくる瓦礫たち。
今度は先程よりも早く気づいたのだが、八剣は恐怖に駆られてその場にしゃがみこんでしまった。
思わず目を瞑ると真っ暗で何も見えなくなる。
「おい、もう大丈夫だ。そのまま早く外に逃げるんだ」
目を開けて上を見るとそこには落ちてきそうな瓦礫を必死に支えてくれている大人がいた。
どうやら八剣を庇ってくれていたようだ。
しかし、顔は見えない。それに服も従業員とは違っていた。おそらく外部の人間なのだろうか。
「あの……?」
「早く行くんだ。ここから逃げればもう君を縛る者はない。もう君を意味嫌う者もいない。
君は普通に生きれるんだ。さぁ、早く急いで」
そう言われると八剣は迷った。
この人は早くここから逃げろと言っているが、八剣は伝えなければならないことがあった。
たった一言でよかった。この先に姉がいると……。
しかし、瓦礫を必死に支えている大人の姿を見ているとこれ以上ここにいては迷惑になるという気持ちにもなるのだ。
幼いながらにも必死に選択しようとする。
このまま逃げるか。姉の助けを求めるか。
だが幼い八剣には選ぶなんて難しい。
八剣は結局、その場から必死に立ち去った。
太陽が昇り鳥たちが鳴き出して飛び初めても、姉とは再会することはなかった。
その真実を理解した幼い八剣。
だが、家族もあの大人も結局見つからない。
そんな状況の八剣の心の中はある思いでいっぱいになっていた。
「やっと姉を越える為の時間ができた」
その喜びと悲しみを胸に少女は一人、朝日を見つめていた。
その後、八剣は幸運なことに二人の老夫婦に拾われ、しばらくの間一緒に暮らすこととなった。
八剣はそれから今まで以上に勉強も料理もスポーツも作法も付喪神の能力も頑張って極めていった。
全ては一番になるために、姉が出来たであろう事を自分が代わりに一番になるために……。
中学生の時には何事も一番になれた。
賞も点数も沢山手に入れた。
妬まれる事は度々あったが、そいつらは自分より下だと実感できる証明と思って彼女は日々を過ごしていたのだ。
しかし、高校に入ったとき老夫婦は彼らの息子と一緒に暮らす事となった。
突然の別れ。悲しみの別れ。
八剣は二人と別れた後、独り暮らしを始めた。
これからは誰にも頼らずに自分の力だけで生きていくためである。
高校に行き始めても八剣は変わらない。一番になるために頑張って日々を過ごしていた。
だが、遂に幸運は続くことが無くなった。
今まで姉にしか負けたことのなかった八剣は遂に敗北を知ったのである。
それは生徒会選挙。
八剣はそこで生徒会長落選という結果を出されてしまった。
自分よりも下と思っていた男に負けたのだ。
そして今、八剣は書記長としてその生徒会長にスカウトされている。
しかし、八剣はまだ生徒会長の座を諦めてはいないのだ。
……というのが、八剣の人生をざっと振り返ったものである。
そして現在。
「さっさと溶けきっちゃいなさい」
「アホか。俺だけで死ぬわけにはいかん。ちょっと待て。話してる…途中で…水攻めを…するなァァァァ」
校庭で戦っていたのは八剣とF-206である。
話している途中で水をかけられ続ける哀れなF-206。
自慢の握力も流水が邪魔をして近づいて発揮することもできないようだ。
なんだか、かわいそうになってくる。
「このままあなたが何も出来ないまま溶け続けても、私は憐れだとは思わねぇ。むしろ、どうなっていくのかっていう興味しか湧かないわ」
そう言いながら八剣は流水をF-206の口やら鼻の穴に流し込んだ。
それはまるでプールの水が鼻に入ったような感覚である。
「ゴホォ…グッ…ゴホォ。お前…最低だぜ。ただでさえ死にかけなのに…。偽物でも生きてんのによ」
同情を求めようとするF-206に、八剣は更に追い討ちをかけるように体内の流水を勢い良く動かした。
「!?」
体内で激しく動き回る液体。
F-206の口から少し血が吹き出す。
「でも、あなたどうせ付喪神なんでしょ。罪もない騎士団達を殺したあんたに同情なんてねぇよ」
冷たいゴミを見るのような目でF-206を見つめる八剣。
F-206の体は既に水に濡れたティッシュのようにベチョっとしている。
「──冷たいな。この流水のように…。冷えきってる。なぁ、取引しよう。俺が今から俺たちの契約者の居場所を教えるから。見逃してくれよ。乾けば俺は元通りだから…。俺たちだって生きてるんだ。死にたくないよ」
必死に命乞いをするF-206。
そこまでして生きて何の得があるのだろう。
だが、八剣はさすがに話だけは聞くことにした。
「いいか。場所は理市の廃工場だ。市の中に一つしかないから分かるだろ。なぁ、これで助けて……」
頭を上げて八剣を見ようとしたF-206だったが、頭を上げると既に八剣は校舎へと歩いていた。F-206の体内に入っていた水も元の水に戻っている。
「──馬鹿め。お前が解除するときを待っていたのだ。今度こそお前の可愛い背中を紙風船を潰すようにぶっ潰してやるぜェェェ。死ぬのはお前一人だぜお嬢ちゃんnnnnnnn!!!」
F-206は背を向けた八剣に向かって飛びかかる。
しかし、八剣は振り向くことはしなかった。
おそらく、気づいていないのだろう。
F-206の強力な握力が背中を潰そうと迫ってくる。
その時、再び体内の水が暴れだし、そして体外へと身体中から噴き出していった。
「ぞんな…ばがなぁぁぁ!?!?!?」
「ふっ、バー――――――――カ!!!」
まるで内部爆発のようにF-206の体はバラバラに吹き飛ばされ、もう動くことはなかった。
「─あんたは溺死じゃすまねぇよ。本物はもっといい人だけど、あんたはしゃべり方も中身も別人だ。名誉毀損の罪を償いな。
じゃあ、そろそろ副会長を助けに行こうかなー。手柄をたてたら副会長くらいにはなれるかも~」
八剣は敵の死亡を確認すると、スキップをしながら校舎へと入っていった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
薄幸華族令嬢は、銀色の猫と穢れを祓う
石河 翠
恋愛
文乃は大和の国の華族令嬢だが、家族に虐げられている。
ある日文乃は、「曰くつき」と呼ばれる品から溢れ出た瘴気に襲われそうになる。絶体絶命の危機に文乃の前に現れたのは、美しい銀色の猫だった。
彼は古びた筆を差し出すと、瘴気を墨代わりにして、「曰くつき」の穢れを祓うために、彼らの足跡を辿る書を書くように告げる。なんと「曰くつき」というのは、さまざまな理由で付喪神になりそこねたものたちだというのだ。
猫と清められた古道具と一緒に穏やかに暮らしていたある日、母屋が火事になってしまう。そこへ文乃の姉が、火を消すように訴えてきて……。
穏やかで平凡な暮らしに憧れるヒロインと、付喪神なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:22924341)をお借りしております。
転生幼児は夢いっぱい
meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、
ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい??
らしいというのも……前世を思い出したのは
転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。
これは秘匿された出自を知らないまま、
チートしつつ異世界を楽しむ男の話である!
☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。
誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。
☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*)
今後ともよろしくお願い致します🍀
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
精霊王女になった僕はチートクラスに強い仲間と世界を旅します
カオリグサ
ファンタジー
病で幼いころから病室から出たことがなかった少年
生きるため懸命にあがいてきたものの、進行が恐ろしく速い癌によって体が蝕まれ
手術の甲斐もむなしく死んでしまった
そんな生を全うできなかった少年に女神が手を差し伸べた
女神は少年に幸せになってほしいと願う
そして目覚めると、少年は少女になっていた
今生は精霊王女として生きることとなった少女の
チートクラスに強い仲間と共に歩む旅物語
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜
月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。
蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。
呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。
泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。
ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。
おっさん若返り異世界ファンタジーです。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する
鈴木竜一
ファンタジー
旧題:工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する~ブラック商会をクビになったので独立したら、なぜか超一流の常連さんたちが集まってきました~
【お知らせ】
このたび、本作の書籍化が正式に決定いたしました。
発売は今月(6月)下旬!
詳細は近況ボードにて!
超絶ブラックな労働環境のバーネット商会に所属する工芸職人《クラフトマン》のウィルムは、過労死寸前のところで日本の社畜リーマンだった前世の記憶がよみがえる。その直後、ウィルムは商会の代表からクビを宣告され、石や木片という簡単な素材から付与効果付きの武器やアイテムを生みだせる彼のクラフトスキルを頼りにしてくれる常連の顧客(各分野における超一流たち)のすべてをバカ息子であるラストンに引き継がせると言いだした。どうせ逆らったところで無駄だと悟ったウィルムは、退職金代わりに隠し持っていた激レアアイテムを持ちだし、常連客たちへ退職報告と引き継ぎの挨拶を済ませてから、自由気ままに生きようと隣国であるメルキス王国へと旅立つ。
ウィルムはこれまでのコネクションを駆使し、田舎にある森の中で工房を開くと、そこで畑を耕したり、家畜を飼育したり、川で釣りをしたり、時には町へ行ってクラフトスキルを使って作ったアイテムを売ったりして静かに暮らそうと計画していたのだ。
一方、ウィルムの常連客たちは突然の退職が代表の私情で行われたことと、その後の不誠実な対応、さらには後任であるラストンの無能さに激怒。大貴族、Sランク冒険者パーティーのリーダー、秘境に暮らす希少獣人族集落の長、世界的に有名な鍛冶職人――などなど、有力な顧客はすべて商会との契約を打ち切り、ウィルムをサポートするため次々と森にある彼の工房へと集結する。やがて、そこには多くの人々が移住し、最強クラスの有名人たちが集う村が完成していったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる