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210話 終戦
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アリゼの炎はついて完全に凍てついてしまい、ブランクの氷がアリゼを完全に包み込んだ。
錆びた金属の大地の世界で、私たちは魔女の最後を見送った。凍り付いた彼女がそのまま動かなくなったことを確認するも、内側からひしひしと感じる壮大な魔力に、彼女がまだ生きていることを確認する。
「ブランク」
「ああ、こいつは死んでいない。どうする?」
「どうするって言われても」
ブランクの目的は【赤】のワンダーオーブによって浄化されて奪われたものをアリゼから取り戻すこと。それはすなわち、真の意味で魔王に戻る。もしかしたら今まで通り仲良くできないかもしれない。
でも、私たちはそもそもそれを条件に協力していた。今更反故になんてできない。彼が魔王に戻るなら、きっといじれ……乙女ゲームの最後のシナリオを辿ることになる。
それはすなわち、魔王ノワールの封印。
「とにかく……必要なんでしょ。【赤】のワンダーオーブ」
「ああ」
氷が砕け、中から気絶した状態のアリゼが倒れ込む。私たちが彼女が持っている【赤】のワンダーオーブを奪おうとしたその時。ブランクが私の身体を突き飛ばした。
「なによ!!」
もしかしてブランクは、最後の最後。この瞬間で私を裏切るつもりだったの!?
相手は魔王。それをしないなんて言いきれない。信じた私がばかだった。そう思ってブランクの方に顔を向けると、私の顔に赤くて生暖かい液体がかかる。
最初はそれに視界を覆われたから、何がどうなったかわからなかったけど、もう一度目を開くと、そこには巨大な木の槍に貫かれていたブランクの姿。そこは先ほどまで私が立っていた場所。
「ブラン……ク? ブランク!!!」
私が急いで立ち上がり、彼を引き抜いて回復魔法をかける。すぐ近くにいてアリゼの魔法が止まったことから、金属片を押し返していたジョアサンも手が空き、こちらに走って回復魔法を手伝いに来てくれた。
アリゼはまだ倒れている。一体、だれがこんなことをしたというのか。
私は周囲を見渡すと、誰かがこちらに歩いてきていた。青に近い色をした魔導士が着るローブを身にまとう女性。
その女性は白人と呼ぶには濃い肌をしていて、黒人と呼ぶには白い肌をしている。白でも褐色でもないその肌を、あえていうなら、黄色というべきなのだろう。
黒い髪に黒い瞳。凹凸の少ない顔。まるであれは日本人のような女性だった。
「初めまして。私は青鉛のミユキ・ナカガキです」
青鉛? 名乗りからして白金のフレデリックの仲間ということかしら。でも、指名手配犯は三人だったはず。それに……ミユキってどういうことよ。
「聞きたいことが山ほどあるわ。でもその前に、それは本当に貴女の名前で間違いないのね?」
私の問い。彼女に意味が通じるのかわからない。でも、これは私にとって最も重大な意味がある。彼女が私の前世の名前、中垣深雪を名乗る理由。私はそれを知らなければいけない。
それにもう一つ。もしミユキ・ナカガキだというのであれば、彼女がジャンヌを唆して私と戦わせた張本人のはず。その理由も確かめる必要がある。
「私は今のところ話すことはありませんね。それよりも、落胆しています。クリスティーン姫。弱すぎるわ、ひとまず彼女は回収しますね」
倒れていたアリゼが一瞬で消え去り、私たちの目の前に現れた私の名前を名乗る日本人も消え去った。
なぜ、彼女は私の名前を名乗るのだろうか。それよりも……彼女は本当に中垣深雪なのか。わからない。
だって私。前世の自分の顔が思い出せないから。前世の自分のことをもいだすと、何かフィルターがかかったかのように情報をうまく取り出せないから。私が本当に中垣深雪なのか。私にもわからない。
確かめたい。確かめなきゃ。いつの間にかブランクの傷はふさがっていましたが、彼はまだ目覚めない。
乙女ゲームのエピローグ。アリゼの襲撃による大戦争は、ロマンとフレデリック他、多くの傭兵の捕縛に成功したものの、こちら側の被害はあまりにも大きかった。
何より、主犯のアリゼを捕縛できていないことから、今回の事件で終わるとは到底思えませんでした。
錆びた金属の大地の世界で、私たちは魔女の最後を見送った。凍り付いた彼女がそのまま動かなくなったことを確認するも、内側からひしひしと感じる壮大な魔力に、彼女がまだ生きていることを確認する。
「ブランク」
「ああ、こいつは死んでいない。どうする?」
「どうするって言われても」
ブランクの目的は【赤】のワンダーオーブによって浄化されて奪われたものをアリゼから取り戻すこと。それはすなわち、真の意味で魔王に戻る。もしかしたら今まで通り仲良くできないかもしれない。
でも、私たちはそもそもそれを条件に協力していた。今更反故になんてできない。彼が魔王に戻るなら、きっといじれ……乙女ゲームの最後のシナリオを辿ることになる。
それはすなわち、魔王ノワールの封印。
「とにかく……必要なんでしょ。【赤】のワンダーオーブ」
「ああ」
氷が砕け、中から気絶した状態のアリゼが倒れ込む。私たちが彼女が持っている【赤】のワンダーオーブを奪おうとしたその時。ブランクが私の身体を突き飛ばした。
「なによ!!」
もしかしてブランクは、最後の最後。この瞬間で私を裏切るつもりだったの!?
相手は魔王。それをしないなんて言いきれない。信じた私がばかだった。そう思ってブランクの方に顔を向けると、私の顔に赤くて生暖かい液体がかかる。
最初はそれに視界を覆われたから、何がどうなったかわからなかったけど、もう一度目を開くと、そこには巨大な木の槍に貫かれていたブランクの姿。そこは先ほどまで私が立っていた場所。
「ブラン……ク? ブランク!!!」
私が急いで立ち上がり、彼を引き抜いて回復魔法をかける。すぐ近くにいてアリゼの魔法が止まったことから、金属片を押し返していたジョアサンも手が空き、こちらに走って回復魔法を手伝いに来てくれた。
アリゼはまだ倒れている。一体、だれがこんなことをしたというのか。
私は周囲を見渡すと、誰かがこちらに歩いてきていた。青に近い色をした魔導士が着るローブを身にまとう女性。
その女性は白人と呼ぶには濃い肌をしていて、黒人と呼ぶには白い肌をしている。白でも褐色でもないその肌を、あえていうなら、黄色というべきなのだろう。
黒い髪に黒い瞳。凹凸の少ない顔。まるであれは日本人のような女性だった。
「初めまして。私は青鉛のミユキ・ナカガキです」
青鉛? 名乗りからして白金のフレデリックの仲間ということかしら。でも、指名手配犯は三人だったはず。それに……ミユキってどういうことよ。
「聞きたいことが山ほどあるわ。でもその前に、それは本当に貴女の名前で間違いないのね?」
私の問い。彼女に意味が通じるのかわからない。でも、これは私にとって最も重大な意味がある。彼女が私の前世の名前、中垣深雪を名乗る理由。私はそれを知らなければいけない。
それにもう一つ。もしミユキ・ナカガキだというのであれば、彼女がジャンヌを唆して私と戦わせた張本人のはず。その理由も確かめる必要がある。
「私は今のところ話すことはありませんね。それよりも、落胆しています。クリスティーン姫。弱すぎるわ、ひとまず彼女は回収しますね」
倒れていたアリゼが一瞬で消え去り、私たちの目の前に現れた私の名前を名乗る日本人も消え去った。
なぜ、彼女は私の名前を名乗るのだろうか。それよりも……彼女は本当に中垣深雪なのか。わからない。
だって私。前世の自分の顔が思い出せないから。前世の自分のことをもいだすと、何かフィルターがかかったかのように情報をうまく取り出せないから。私が本当に中垣深雪なのか。私にもわからない。
確かめたい。確かめなきゃ。いつの間にかブランクの傷はふさがっていましたが、彼はまだ目覚めない。
乙女ゲームのエピローグ。アリゼの襲撃による大戦争は、ロマンとフレデリック他、多くの傭兵の捕縛に成功したものの、こちら側の被害はあまりにも大きかった。
何より、主犯のアリゼを捕縛できていないことから、今回の事件で終わるとは到底思えませんでした。
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