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208話 魔王の剣

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 創造魔法。私がたった今。この瞬間に思いついた七つの魔法を組み合わせた魔法。
 この魔法がでおうして成立したのかわからない。でも、根本的にはこれが原因なのでしょう。私は手元にある【白】のワンダーオーブを見つめる。

 その輝きはいつの間にか【紫】から【赤】に代わっていた。【赤】のワンダーオーブ……最初は人を暴走させられるような力かと思いましたが、違うみたいですね。これの正確な力を口に出すのは難しいけど、存在しない魔法が使える。

 そしてそれこそがアリゼの不可解な魔法の正体。私の創造魔法のように、アリゼの力も何らかの魔法が組み合わさったものと考えるのが普通でしょう。

 なにせ、アリゼは私と同様に七種の魔法が使える魔法使いなのですから。レイモン先生のもとで魔法適正の調べた時、私を見て二人目と答えた。

 口には出さなかったけど、乙女ゲームの設定を知っている私にはわかる。一人目は間違いなく目の前にいる魔女、アリゼ・ド・アナンだ。

「バカげた魔法を使う女ね」

「貴女と互角に渡り合うために必要な力だったのよ」

 アリゼは周囲を見渡す。彼女が利用していた金属や鉱石を探しているのでしょう。でもダメ。私がここを生成するときに、その手の類は徹底的に排除したから。今、ここに貴女が使役してきた物はない。

「仕方ないわね」

「アンタ何をする気?」

 アリゼが自らの左手首をかみちぎる。衝撃的な行動に私は目を見開くと、動脈が切れたのか、噴水のように血が飛び出した。

「回復魔法、輸血ブラッドトランスフュージョン。回復魔法、鎮痛アナルジージック

 アリゼは大量出血をしているにも関わらず、それを苦としないまま輸血と鎮痛だけを行い、一向に止血をしようとしない。一体、何をしようとしているのでしょうか。

 しかし、その答えはすぐにわかる。噴き出した血が、先ほど宙に浮いていた鎌の形を象ったからだ。あの女、血を鉄として操っているんだ。

 彼女の魔力が尽きない限り、血は無限に湧き出る。彼女の武器は無限に生成されるということ。

「おい、クリスティーン」

 私の横にブランクがやってくる。

「なによ?」

「森以外も造れたりするのか?」

「…………私に造れない大地はないわ」

 私がそう答えると、ブランクはニッと口角を上げる。何か思いついたのかしら。

「造ってほしい地形がある。俺が合図をしたら頼む」

「どんな地形よ」

「それは…………」

 ブランクは私の耳元でその地形の性質をそっと答えてその場から消えて飛んでくる血の鎌を弾き飛ばし始めました。

 ブランクに言われた地形を何度も考え直す。なぜブランクがそれを希望したのかわからない。けど、やれと言われたらやるしかない。それが正しい選択かなんてどうでもいい。成功か失敗かわからない道なんて今まで何度でも潜り抜けてきた。

「貴方を信じるわブランク」

 ブランクは先ほどからほんとど魔法を使わない。黒い靄のような剣でずっと鎌をはじいてばかり。使えないのか。それとも私が理解できていないだけで使っているのか。よく見ればショートワープのようなものや、視認外の攻撃への対処など、常人ではできないことをしていることがわかる。

 そもそも、あの剣のようなものは何なのか。あれ自体が魔法だと考えるべきなのか。だったら魔力のリソースを使いすぎのような気がしなくもない。

 そうまでしてあの剣を使う理由があるのかしら。とにかく私はブランクの考えを邪魔しないようにしなければ。こちらに来る攻撃は守護魔法や時空魔法で対処しつつ、私は創造魔法に使う魔力を蓄えている。

 ブランクが鎌に刺されたと同時に青白い炎に包みこまれ、貫いた鎌を蒸発させる。そして青白い炎は人の形を保ったまま沈下し、傷口はふさがった。不死鳥みたいな力ね。

 一瞬、やられたかと思ってヒヤッとしたじゃない。それにしても魔王。本来はジェラールとアリゼの二人が倒すだけはあるわね。でも、今の魔王は確か浄化魔法で浄化済みの弱体化している状態。そしてその魔王の魔力はアリゼが持っている。

「クリスティーン!!!!!」

「ええ!!!」

 合図だ。打合せなんてしていないからかなりシンプルな合図。当然、アリゼにも私が何かをすると伝わってしまう。アリゼは噴出したままの血しぶきを私の方に飛ばし、液体だったそれをそのまま鋼鉄造り変える。防ぎきれない!?

「波動魔法、光の雨ライトニングレイン

 無数の血の矢は光の雨によってすべて叩き落される。

「!? 創造魔法、鋼鉄の大地メタリックフィールド

 ジャンヌ、ありがとう。

 すべての土や草木が鋼鉄に移り変わる。それらはすべてがアリゼの武器。一体、ブランクは何を考えてこんな空間を頼み込んだのかしら。

 アリゼは周囲の大地の変化に困惑する。それと同時にアリゼがコントロールしていた血の鎌の動きが突然鈍り始める。

「わかったわ。コントロールできるものが多すぎるのよ。おそらく何らかの力を応用して金属を操っていた彼女は、周囲の環境に合わせて絶妙なコントロールをしていた。だけどここは、すべてが鉄の世界。彼女にとってこの世界は未体験なんだわ」

 一度戦ったことがある分、ブランクはこれを理解していたということでしょうか。でもすごいわ。

「今度こそ斬る」

 ブランクがそう言ったタイミングで黒い靄から白銀の剣先が引き抜かれる。その剣は魔剣と呼ぶには相応しくなく、聖剣と言われれば疑わないような輝きを見せていた。
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