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203話 最悪の魔女

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 出発の準備の際、オリバーから【緑】のワンダーオーブが返還されました。

「主力もいなくなりましたことですし、もう大司教が持っていなくても大丈夫でしょう。それよりも今は君が持つべきだ」

「……いいえ、それはわからないわ」

 これまでの戦いで学んだこととして、【白】のワンダーオーブは私が必要な力を引き出す万能のワンダーオーブ……だと推測できる。だったら残る六つのワンダーオーブは、その力を最大限に発揮できる人物が持てばいいのではないだろうか。

「ジャンヌ、スザンヌ。一度ワンダーオーブを返してもらっていいかしら」

「はい」「ええ」

 二人からそれぞれ貸していたワンダーオーブを受取り、私の手元には【藍】【緑】【黄】【橙】【青】【紫】そして【白】のワンダーオーブが集まった。

 アリゼと戦うために集める予定だったワンダーオーブ六個プラスアルファ。これだけ揃えれば、負ける相手ではないはず。あとは状況に合わせて……

「作戦があるわ。聞いてくれるわよね?」

 私がそう言って、皆が頷いてくれた。全員にワンダーオーブの効力まで説明した上で、戦法が決定する。

「それでは向かいましょうか」

 王宮の端、城壁に寄り添うようにある馬小屋にて一人一頭ずつ乗り、私たちは街中を走り出す。

 私のそばを走っているカトリーヌさんが私に声をかける。

「それで、魔女の居場所は見当がついているのかしら?」

「少し王宮から外れたところよ。王宮付近なら魔力同士のぶつかり合いで肌で感じられるからわかるわ。それに、どうやら探知なら【紫】のワンダーオーブが役立ってくれるみたいですし」

 【紫】のワンダーオーブ。禁書では幸運と書かれていたそれの本来の効力は、魔力感知強化。幸運と呼ばれる所以は、魔力は波動魔法でなくても効力の強まるタイミングと弱まるタイミングの波が存在します。それをより強く感じとることができ、感じ取り方だけで上級魔法を下級魔法で打ち消すことが可能。その力を振るった者はまさに『運が良かった』と言われた。それが所以らしいです。

 こう書かれていたということは、禁書に記された時代にはワンダーオーブが使用されていたってことなのよね。

 まあ、何が言いたいかといえば、今の私は魔力の衝突を肌で感知できる。そしてそれがものすごく遠くだったとしても、ブランクの魔力ははっきり感じ取ることができている。あいつの魔力だけはすぐにわかった。

 魔王だからなのか、それ以上の理由があるかわからないけど、今はこれに助けられているわ。

「感知完了! 目的地は定まったわ! 全員速度を上げるわよ! アレクシス、手伝って頂戴!」

「承知」

「「時空魔法、加速アクセル」」

 十頭の馬に時空魔法がかけられると、私たちは振り落とされない限界の速度で駆け出し始めます。一秒ごとに感じる魔力量は、人間の常識を超えている。片方は間違いなくブランクのものですが、もう片方のアリゼは人間であるはずにも関わらず強大な魔力を手にしていた。これだけの魔力量、真正面からぶつかってしまえば、波動魔法でなくても灼けてしまいそうだ。

 【紫】のワンダーオーブを持っていないみんなでも、ある程度の近さで衝突しあう魔力を肌で感じ始めます。もうすぐそこにアリゼとブランクがいる。瓦礫の山を突破し、大きな建物だったものの奥にある広場に到着して、ようやくブランクの姿が視界に入りました。

「ブランク!!」

 私が声をかけると、ブランクは振り返る。そして私と視線がぶつかり、目を見開いて驚いた。彼の顔からはっきりと焦りを感じたのは、初めてかもしれない。

「くそ! なんで来たんだ!!!」

 ブランクがそう言った瞬間、私は言い返してやろうと思ったのに、さっきまでいた場所にブランクの姿はない。そして大きな金属音が私の頭のすぐ後ろで鳴り響く。

 振り返ると、そこには成人男性よりも大きい死神の鎌のような金属が私の後頭部に向かって振り下ろされていた。

 それを黒い靄でできた刀身すらあいまいな剣のような物で受け止めるブランク。

「紺碧の瞳……その瞳、その瞳は……ジェラールの瞳かしら?」

 振り返った私が再び正面を向こうとする前に、その先から心臓まで貫くような冷たい声のする女性に声をかけられる。

 ゆっくりと首を動かすと、そこにいたのはブロックノイズが走ったように身体の所々が消えている一人の女性。髪の色はブラウン。瞳の色は琥珀色。あくまで日本人だったら色白といわれる程度の肌色。背は私より少し高いくらいの魔術師がいた。

 何を思ったのか、服装は黒いウェディングドレス。不気味な女とし視線が交差する。ああ、間違いない。こいつがアリゼだ。
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