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192話 浄化魔法、謙譲

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 ロマンの時空魔法により、周囲の建物や兵士は敵味方関係なく黒い球体に吸収されていきます。

 ロマンの衣服も吸収していく重力に引っ張られ始めます。私たちは何とか周囲の重力を無くして対抗しますが、それも近場に重力のある球体を作られてしまえばほぼ無意味。

 現在は私とロマン。どちらの魔力が先に尽きるかが勝負になっています。こんな時、【緑】のワンダーオーブがあれば、こんな時空魔法に競り勝てるのに。

 しかし、願ってもこの場にワンダーオーブは存在しない。私の手元に残っているワンダーオーブは【青】と【白】のみ。おそらく今もロマンに競り勝てているのは【青】のワンダーオーブの効力による威力上昇で、私の魔法の効果が強まっているおかげ。ワンダーオーブの力を利用している私よりも若干強力な魔法を行使し続けているロマンは本当に化け物といっても過言ではないでしょう。

「姫様よぉ! ここでチリになりたくなかったらとっとといなくなっちまいなよ」

「残念ね。ここでチリになるつもりなんてないわ」

「まぁだ勝利を信じられるのか! 面白れぇ! お前は久しぶりに面白い相手だぞ!」

 ロマンは嬉しそうに声をあげると、手元の球体の威力をさらに上げてきた。こちらはすでに全力だというのに、ロマンはまだまだ威力を上げても余裕そうな声でしゃべりかけてくる。やはり実力差がありすぎる。せめてここにミゲルがいればと思いましたが、ジャンヌの話によればミゲルは現在王宮で待機中のはず。それも重傷の体のまま治療も後回し。

「アンタなんかに時間を使っていられないのよ! 私は…………私たちはこの先も進むんだから!!」

「テメェが俺との戦いに興味ねぇくらいになぁ! 俺はテメェの都合に興味ねぇんだよ!! 進みてぇなら全力を出しやがれってんだ!!」

 確かにロマンからすれば私の都合なんてどうでもいいでしょう。そして私も彼との戦いなんてどうでもいい。彼に何を言ってもどうでもいいの一言で終わってしまうわね。

「そろそろ互いの魔力の限界なんじゃねえのか?」

「そうね、悔しいけどこのまま状況が変わらなければ私の負けよ」

「ふへへへ。だったら状況が変わることを願うんだな。どうせなら俺もその先のお前と戦いてぇ」

「それはそれで嫌ね」

 私は余裕そうなロマンと違い、喋ることも、平常心を保った顔を作ることも限界まで来ていました。呼吸の乱れを悟られないように整える。互いの魔力のぶつかり合いで勝つコツは精神力。少しでもロマンにもうすぐ勝てそうだなんて余裕を与えてはいけない。一ミリでもいい。もしかしたら負けると思わせなければ私に勝ち目はない。この自信家がそう思うなんて想像できないけどね。

 とにかく今はあの厄介な時空魔法を打ち消す。スザンヌやジャンヌは私に捕まるので精一杯。おそらくスザンヌからも何らかの重力を打ち消す付与魔法が付与されているのでしょう。

 私たちの後ろにいる巨体のウィルフリードもふわふわと浮いています。ウィルフリードのブレスもあの球体の前では無力。……もしかしていけるのではないか?

「スザンヌ、なんとか私を踏ん張らせてもらっていいかしら?」

「やりますよ。死なせたくありませんので」

 従者であることを捨てて友として来てくれたスザンヌ。やっと言葉遣いが砕けて来たわね。セシルみたいに切り替わりがよかったらびっくりしちゃうけど。

 私は無重力の時空魔法にリソースを割いていた魔力と集中力を別のものに向ける。私はウィルフリードに預けた【黄】のワンダーオーブを回収し、それを握りしめた。さてと……これはジャンヌとビル時にが神に選ばれて手に入れたワンダーオーブ。私の場合打をパートナーにして発動すればいいかわかりませんが、そんな余裕はありませんね。

 ここで使わねばいつ使うのか。ワンダーオーブを握った手に全魔力を集中させて浄化魔法を発動させる。

「剣の英雄が体現せし、人々を尊重する光。神ジャコブの名の元に傲慢で汚れた魂を、浄化の光で撃ち滅ぼす。浄化魔法、謙譲モデスト

 【黄】のワンダーオーブはロマンの方にまばゆい光を放つ。その光はジャンヌの波動魔法と違い球体に吸い込まれているにも関わらず。ロマンから謎のオーラが飛び出し始めます。

 どうやら視覚的な光は球体に吸い込まれているみたいですが、魔力そのものはロマンにぶつけることができたみたいです。

「ぐぁあ……こいつは………………ああああ、どういう……ことだぁ」

 浄化魔法の光を浴びた彼は、その場に倒れこんでしまいます。彼の行動原理がその傲慢さだったかわかりませんが、浄化できない心を持つ人間なんてそういない。ロマンは魂の浄化を行われその場で眠りにつく。もう枯渇寸前の魔力、スザンヌが私に【藍】のワンダーオーブを返却する。

「これで少しでも回復しておきなさい」

「悪いわね」

「助け合ってこそよ」

「ごめんなさい。光じゃロマンには勝てなくて」

「気にしないでジャンヌ。あれは誰も想像できないわ」

 三人でその場に座り込む。完全に息切れ。しばらく生き延びた兵士の皆様に護衛してもらいながら、ロマンの拘束まで果たしました。しかし、私の体内にはロマンから吸収した分の汚染された魂が循環し始めていました。

 このデメリットはまだ誰にも説明していなかったわね。でも、心配かけられないし、黙っておこうかしら。
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