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180話 最後の色

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 私の意向はオリバーから両親に伝わったらしい。その日、私は久しぶりにジェラールとエリザベートに挟まれながら、ジルと一緒に眠った。

 悪く考えてはいけない。都合がいいんだ。魔女との戦いで、オリバーが……帝国が協力してくれるなら願ったりかなったりではないか。

 それに皆とも今生の別れという訳でもなければ、学園に籍を置いているなら、明日も明後日も会えるんだ。

 婚約のことはまだ身内間のお話で口外できないけど、私は明日も今までと同じように笑えるのだろうか。

 寝ている弟を抱きしめると、なんだか暖かい。気付けば私もエリザベートに抱きしめられていた。

 彼女が私を最後に抱きしめたのはいつだろうか。乙女ゲームをしていたら、彼女がここまで娘を大事にする母親だなんて知らなかった。

 私は母に少しだけ身体を寄せると、母の抱きしめる力はより強くなり、そのまま眠りについてしまいました。




 鐘の音。大きな音は時計台の上から鳴るような音で何かの時間を告げるようなそんな雰囲気。

『マイ希望ホープ

『貴女はマルグリートであっているのかしら』

『マルグリート?』

 私が振り返ると、そこにいたのは銀髪に深紅の瞳の女性マルグリート。七英雄のリーダーにして【赤】のワンダーオーブを授ける女神だ。

 例のごとく、服装はギリシャ神話の神々が着ているような白い簡素なワンピースである。

『マルグリート…………ああ、私の個体識別名称でしたね。いかにも』

 個体識別名称ってどういう意味なのよ。

『貴女は最もワンダーオーブを目覚めさせた人物です。故にこの先を知り、戦う義務があります』

『私、魔女と戦って終わらせるつもりなのだけど?』

『貴女が倒すべきなのは魔女ウィッチだけではありません』

『嫌よ。私は戦いたいんじゃないわ。護りたいの』

『では戦ってくれるのでしょう。貴女が真に倒すべき敵は【黒】のワンダーオーブです』

 そういうと、マルグリートは徐々に赤い靄となって消えてしまいました。

『ちょっと!? 重要なとこが聞けていないのだけど?』




 私はそこで目を覚まします。今の夢は女神からの干渉だというのなら、倒すべき敵は【黒】のワンダーオーブ。

 …………ワンダーオーブって魔道具じゃないの?
 
 それとも、あれらは何者かの意思だというのかしら。

 ワンダーオーブについて知っていることは乙女ゲームのキーアイテムだと言うこと。

 生物の心を浄化する浄化魔法を扱えること。

 そして所有者に絶大な力を与えること。

 あとは七英雄がこの世界のルールを書き換えた時に、副産物として生まれたこと。

 おかしい。だったら、【白】のワンダーオーブはいつ生まれたというのでしょうか。【黒】のワンダーオーブは?

 もしかしたら、この世界のルールは…………二度書き換えられている?

 どこかにいるんだ。ルールを書き換えた二人組の神々。

 私は頭の中がごちゃごちゃになってポスンとベッドにもう一度倒れ込みます。

「クリスティーン?」

 隣で寝ていたお母様を起こしてしまったようです。時間は明け方。お母さまの瞳は女神マルグリートと同じ深紅の瞳。

 深紅の瞳は魔力を視るのに最も長けた瞳。

「お母様…………二人の神様と言って思いあたる人物はいらっしゃいますか?」

「…………それは太陽の女神と月の女神のことかしら」

 …………!?

 そうでした。ワンダーオーブを記した禁書は国教とかみ合わなかった。そして国境には二人の神様がいました。

 もしその二人組がルールを書きかけてワンダーオーブを作ったというのなら、あとワンダーオーブが二つあっても辻褄が合います。

 まだ仮説にすぎませんが、【白】のほかにワンダーオーブがあると考えてもよさそうです。

「それよりも起きているなら着替えますよクリスティーン」

「え?」

 私はエリザベートに腕を引っ張られながら、衣裳部屋に連れ去られます。ジェラールとエリザベートの部屋には常に何着か私やジル用の服も用意されていますのでそこは問題ありません。

 ただお母様、少しだけ寝ぼけていますね。昔と違って最近だったらこんな風にしてくれなかったと思う。

 それとも、私が学園を卒業したらこおkに帰ってくることが減ってしまうからでしょうか。

 あるいは、私が帝国から逃げ出さないためにもう二度と帰ってこれないのかもしれない。どこかで両親とはあえても、軽々しく母国に帰ることは、逃亡を懸念されるかもしれない。

 あー、やっぱり政略結婚って嫌だな。誰かの利益の為に人生を浪費してしまうなんてばかばかしい。

 母と一緒にメイド達に着替えさせて貰っている中、私はぼーっと先のことを考える。

 魔女との戦いは目前。そんな中、女神から戦うべき相手として提示されたのは【黒】のワンダーオーブ。

「クリスティーン、しばらく貴女は休校です。王宮で別の教育を受けます」

「え? それはどういう?」

「帝国に嫁がせるのですから…………仕方ないでしょう。私も休みを取ってこっちにいるわ。元々、私は貴女の傍にいるために教員をやっていたのだから」

 それは知っています。教員になるには難しい身分だったはずなのに、それでも私の為に傍にいてくれたお母様。

「あの? でもすぐに行くわけではないのですよね?」

「すぐよ。一週間後には帝国に出発してしまうわ。でも学園の籍は残ります休校期間は半年。その間に課題を出しますのでそれで単位は取って頂戴。貴女は帝国についたら約半年間、向こうで次期皇太子妃として生活して貰うわ」

 嘘でしょ。いくらなんでも早すぎるし、そんなことってあり得るのかしら。それともすべて帝国の圧力?

「それを昨晩教えてくれなかったのは何故でしょうか?」

「現実を受け止めきれないのは…………貴女だけじゃないと言うことよ。むしろ大人になって王妃になってそれができない私の方が恥ずかしい」

 エリザベートはこちらに顔を向けずにそういい、着替えおえると衣裳部屋からさっさと出ていってしまいました。

 半年間の休校に…………帝国での生活。それも次期皇太子妃として迎えられる。

 お願いだから誰か私を連れ去って欲しい。私は具体的な誰かを思い浮かべながら、その日は王宮内で帝国に嫁ぐための教育を受けました。
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