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82話 フライト

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 ジョアサンとともに行動して、平民生徒たちにまじっても貴族側の人間と思われない人物。そんな奴は一人だけ心当たりがあります。

 でもあいつに会うのは後回し。今はジャンヌさんのところに戻りましょうか。図書館に戻りますと、スザンヌとジャンヌさんがレポートの書き方の参考になる過去資料をまとめていました。

「遅れてごめんなさいね。まだまだ日暮れまで時間がありますし早速探しに行きましょうか?」

「はい!」「がう!」

 ジャンヌさんとウィルフリードが元気よく返事をし、スザンヌは黙って私についてきます。今更ですけど、図書館に魔狼って連れ込んで良いのかしら。誰も注意しない。なんで? 常識の範疇だから? 姫だから?

「それで今度はどちらを探されるのですか?」

「そうね」

 無邪気な笑顔でジャンヌさんが私に質問し、私は今まで行ったエリアを頭に浮かべます。北東にある聖水の噴水に、北部にある大樹。あとは北西にある旧校舎のある森。見事に北尽くし。真南は正門ですからおいといて、東か西ね。

「東よ! だって西日が眩しいでしょ?」

「姫様、夕暮れ時は帰りですし、帰りに正門に向かうなら西に戻ることになります」

「西よ! 眩しくなったら帰りましょう?」

 スザンヌが何か言った気がするけど、気にしない。ジャンヌさんも気付いていませんし、ウィルフリードも人語を理解していません。完璧!

 西側って何があるのかしら。校舎は中央ですし、北西の森の近くにあることはわかりますが、学園の地図ってなぜか存在しないんですよね。いえ、校舎の中はあるんですけど。

「ジャンヌさんはこちらに来るのは初めてかしら?」

「はい! でも何があるかは聞いたことがあります」

「あら? 何か有名なものでもあるの?」

「崖です」

「…………? …………!? 崖!?」

 学園の敷地内に崖!? そういえば乙女ゲームでも崖がでてきたけど、さすがに課外授業か何かかと思っていましたが、あれって学園敷地内なの? 確かに前後の居場所から考えると学園の外に出た描写なんてありませんでしたけど。崖?

 崖は確か【青】のワンダーオーブを手に入れる直前にアンドレと行く場所よね。シナリオにも関係ありますし見に行きますか。

「まあ、崖以外にも何かあるでしょ? 多分」

 とりあえず崖の目の前にやってきました。私が産まれてくる前の乙女ゲームの世界ではつり橋がかかっていて向こう側に行くことができましたが、どうやらそのつり橋はいつの間にか崩れて、今はその残りが無様にぶら下がっていることしか視認できません。

「崖の下ってどうなっているのかしら?」

 覗き込むとそこはもう暗く、視認することはできませんでした。崖というよりは大地の亀裂よね。案外そこに魔力スポットがありそうな気がしますけど。

「お嬢様、宜しければ」

「どうにかできるの?」

「付与魔法。飛翔フライト

「え?」

 スザンヌの適正は付与魔法。あらゆる対象に何かしらの効果を付与することができる魔法です。使えるものはひとそれぞれで万能とは言い難いことと、自分自身に付与することができないのはネックですが、優れた魔法であることに違いありません。

 てゆうか、貴女って人を飛ばせる魔法が使えるならもっと早く教えてよ。私とジャンヌさんとウィルフリードは、飛翔能力を身につけ、崖の奥深くまで潜っていくのでした。

「ここは…………?」

「なんだか暗かったはずですのに明るいですね」

 崖の奥底。真っ暗闇を抜けてしばらくしてから周囲の崖から生えた鉱石がかすかに光っています。

 間違いない。魔力スポットだわ。ここならカトリーヌさんに勝てるかも!
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