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62話 それやめたら?

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 パートナー制度は座学の時間にも影響しました。調べ物の為にジャンヌさんと図書館に二人で入ります。二人と言っても、後ろに歩いてくるスザンヌを含めれば三人なのですけど。

 今は放課後、なぜ私とジャンヌさんが図書館に来たか。それは魔法学の授業の一環としてパートナーと協力して一つのテーマについて発表を行うこと。ただし、テーマは必ず魔法に関することと定められています。

「姫様! 私が資料を集めてきます!」

「いいわよ。その程度ならうちのスザンヌがやるわ。それより貴女には一緒にテーマを考えて貰います」

 私の言葉を聞いてすぐに、必要な資料のリストを受け取ったスザンヌが資料が置かれている本棚を探しに行く。ジャンヌさんはスザンヌの背中をぽーっと眺めていた。

「何しているの?」

「いえ、スザンヌさんって同じ平民なのに凛としていてかっこいいですよね」

「一応、彼女も王宮育ちですから。無駄話は終わり。テーマを考えましょう?」

「はい!」

 しばらくして大量の資料を持ち込んだスザンヌにドン引きする私と、すごいすごいと喜ぶジャンヌさん。これすべて読む必要はないわよね。絶対にわざとだ。

 図書館内には数名の生徒がいました。その中には同学年の生徒やクラスメイトも当然います。私とジャンヌさんの方を見てひそひそ話をしている生徒たちも普通にいる。それでも関係ない。悪い噂をされるのは私の方。

 一度ミゲルにクラス内でのジャンヌさんの印象を聞いてもらったけど、目論見通り羨ましくもなんともない可哀そうな一生徒として、私のいないところでクラスメイト達から励まされているみたい。

 ただ、ミゲルに聞いたところ、カトリーヌさんが率先してジャンヌさんを擁護するようにクラスメイトに話していたらしい。彼女、それほど私と敵対したいのかしら。それとも、私の目論見に気付いてわざと乗ってくれているのかしら。どちらにせよ、私から見れば好転していることに変わりないわ。

 ジャンヌさんと打ち合わせスペースに移動している最中、私の前に一人の男子生徒が現れた。灰色の髪に漫画描写でしか見たことがない糸目の少年。ジョアサンだ。彼もずいぶんミカエルに似て育ったわね。

 それよりも、ジョアサンが自ら私に接触してきたことが意外。この場合、ジャンヌさんに用事かしら。

 私がジャンヌさんの背中を押して彼の前に突き出す。

「へ?」

「ジャンヌさん、私は先に打ち合わせスペースに行っているわ」

 そして私はスザンヌを引き連れて、ジョアサンの横をすれ違おうとした。しかし、ジョアサンの視線は真っすぐこちらに向けられている。瞳見えないけど。

「クリスティーン姫、僕は貴女に話があります」

「…………ジャンヌさん、今日は帰って頂戴。続きは明日にしましょう?」

「え? 承知しました姫様」

 状況を飲み込めないジャンヌさんはそのまま昇降口のある方に向かって歩いていき、私とジョアサンの二人は、ジャンヌさんと使う予定だった打ち合わせスペースに入ります。

 打ち合わせスペース内部は防音となっており、外部に会話は聞こえない。だから会話内容が外部に漏れることはありません。念のため、ドアの前でスザンヌが待機。

 お互いに向かい合わせに座り、事前に用意して貰った紅茶を口に含んで一息ついてから互いの視線がぶつかった。多分ね。もう少しでいいから目を開いて欲しい。

「それで私の時間を使って何の用事かしら」

「それやめたら?」

 それとは、悪ぶることかしら。ジョアサンは幼馴染の中でも距離を置かれていたため、普段の自分で行くべきか悪役令嬢になり切った自分で行くべきか迷いましたが…………それよりも、彼ってこういう口のきき方をする生徒ではありませんよね。

「……貴方ってもう少し立場を弁えて発言しなかったかしら?」

「君に関しては不敬で怒るということはあり得ないと判断してね。むしろこういう風に話しかけられる方が好きなんじゃないかな?」

 違いない。ジョアサンの言っていることは正しい。私はみんなと対等の友達になりたい。姫様なんて貧乏くじもいいところだ。

「ミカエル大司教に似たのかしら」

「それは誉め言葉。もういいかな? 本題に入るよ」

 彼が真っすぐこちらを見つめる。もう糸目はいじらないわよ。私はもう一度紅茶を口に含んだ。

「どうして姫である君が平民を助けようって思ったのかな?」

「私、ジャンヌさんを助けようとしてこうなっているのかしら。隷属させていたつもりでしたのに」

「君は嘘が下手だ。隷属した彼女が君に笑顔で抱き着くと思うかい?」

 抱き着かれたといえば、グランドでの魔法実習の授業。そうね、Bクラスの教室から私達の様子って丸見えよね。

「はぁぁぁ…………もういいわ。疲れました。いつもの私でいさせて」

 私は急に肩の荷が下りたような脱力感が、目の前にいるジョアサンに露骨に伝わるように大きなため息を吐きだしました。

「理由? そんなの簡単よ。教室でちょっとトラブルがあってね、大丈夫って心配した私に、彼女が”叩かれ慣れている”って私に微笑んだの。ジョアサンも知っている通り、一部の貴族の横暴さは目に余るものがあるわ。その上、彼女ってクラスじゃ馬鹿にされていたのよ。平民で魔法の才能もないって。だからね、あの時護らなきゃって思ってついこんなキャラに」

「まって経緯が全然わからない。もっと丁寧に」

 仕方なく、私はその時の教室の状況から説明すると、彼はクスクスと笑い始めた。

「あら? 私の前なのに楽しそうね」

「いいや、全然楽しくないよ。だって君は、悪い者が憑いているみたいで不気味だから」

「それじゃあ聖職者様に悪魔祓いでもして貰おうかしら」

 悪い者ね。まあ、私がこの世界で異端なのは間違いないでしょう。その日は解散することになりましたが、ジョアサンは悪魔祓いの用事があればいつでも大聖堂にと言われました。
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