20 / 228
20話 お忍び建国祭
しおりを挟む
街の中を歩いていると、私の格好は違和感なく溶け込んでいますが、ブランクの格好は明らかに場違いです。ですが、誰もブランクを見たりしている人はいません。
周囲にこんな黒ずくめの人なんていませんが、案外普通の格好なのでしょうか。しかし、街を歩く男性の格好は比較的簡素なものが多く、そのほとんどが白いシャツを着ているだけで、上下のカラーバリエーションは白、茶、黒くらいしかありませんでした。黒ずくめにローブで更に顔まで隠しているのは彼くらいだろう。
けど、誰も気にしていないのなら、私も気にする必要なんてありませんよね。
「ねえ? 露店のものはどうやってもらえばいいの?」
よく考えれば私はこの国のお金を見たことがない。しかし、そして今までお金について教育を受けたことがない。だから、お金という定義を知らないフリをしながら質問しないと。
「利用方法も知らないのに露店なんてどこで覚えたんだ?」
「…………気にしないで。それより教えて」
うかつだった。そもそもお金のことを知らないなら、お店を見てあれは何? ってとこから始めないとおかしいじゃない。それとも手に取れる位置にある食べ物はひょいと取ればよかったのかしら。
とにかくお金のことをブランクから教えてもらい、単位はファリン。相場でいえば目の前にある串焼きが三百ファリンくらい。日本円とあまり変わらないのかしら。よくわからないわ。私が串焼きを見つめていると、食べたいと勘違いしたのか、ブランクが二本購入してきた。
「ありがと」
「よく考えればお前無一文だしな」
「悪かったわね!」
お金の単位すら知らなかったんだから、お金を持ってなくても仕方ないじゃない! 私は熱々の串焼きを手に取って頬張ると、またブランクが驚いた。
「あんた抵抗ないんだな。串焼きにかぶりつくなんて」
「周りを見て作法を真似しただけです!!」
幸い、ここには串焼き屋の近くだけあって食べ歩きをしている方々もいらっしゃいます。あとは中身が五歳児ということになっている私が、大人の真似をしましたと言えば、まあそうだろうなで終わるはず。
普段歩いている整備された廊下と違い、城下町の道路は少し歪で歩きにくさを感じました。前世でも足場の悪いとこくらい歩いたことはあるけど、舗装されたアスファルトの上の方が多かったな。足元を見れば石畳。それも不ぞろいだったり、かけていたりと歩きにくい。貴族の女性は基本ヒールを履いていましたが、街を歩く女性は平べったい靴を履いていて当然ね。こんな道じゃヒールが引っかかって簡単に折れてしまうわ。
私の靴も例外なく平べったいものでした。実際に歩かなければ、私がこの世界で見てきた常識で靴を選んでいたでしょうね。一人で抜け出そうとしなくて正解でした。
飲食系の露店ばかり並んでいる道をしばらく歩いていると、他の店と系統の違う露店を見つけました。集まる女性たちはなにやら手に取って匂いを嗅いでいるように見えます。
「あれは何かしら?」
「あれは香料だな。行ってみるか?」
「ええ!」
しばらく色々な匂いを試してみたけど、これだと思えるものに出会うことはできませんでした。しかし、一つだけ気に入ったものを手に取って、私はブランクの方を見つめました。
「買うのはいいが、どこに置くつもりだ?」
「あっ! 考えていませんでした」
よく考えれば、持ち帰ったものが私の私室にあったらおかしいですよね。セシルに抜け出して建国祭に来てしまったことがバレてしまうかもしれません。そもそも行ってみるかと声をかける前に、そういってくれればよかったじゃないですか!!
私が頬を膨らませながら、ブランクを睨むと、彼の方から一瞬だけ鼻で笑う音が聞こえました。私が声を出す前に、彼は店主にお金を払い、香料を購入しました。
「特別に魔法をかけてやろう。これは俺とお前しか認識できない魔法だ」
「あり…………がと」
ブランクから受け取った小瓶を、私はしっかりと握りしめる。その後は路上パフォーマンスなどを見て部屋に戻りました。部屋に戻ったあと、何故かセシルは私がいなくなったことに気付いていなかったようですが、それもブランクの魔法の力なのでしょうね。
周囲にこんな黒ずくめの人なんていませんが、案外普通の格好なのでしょうか。しかし、街を歩く男性の格好は比較的簡素なものが多く、そのほとんどが白いシャツを着ているだけで、上下のカラーバリエーションは白、茶、黒くらいしかありませんでした。黒ずくめにローブで更に顔まで隠しているのは彼くらいだろう。
けど、誰も気にしていないのなら、私も気にする必要なんてありませんよね。
「ねえ? 露店のものはどうやってもらえばいいの?」
よく考えれば私はこの国のお金を見たことがない。しかし、そして今までお金について教育を受けたことがない。だから、お金という定義を知らないフリをしながら質問しないと。
「利用方法も知らないのに露店なんてどこで覚えたんだ?」
「…………気にしないで。それより教えて」
うかつだった。そもそもお金のことを知らないなら、お店を見てあれは何? ってとこから始めないとおかしいじゃない。それとも手に取れる位置にある食べ物はひょいと取ればよかったのかしら。
とにかくお金のことをブランクから教えてもらい、単位はファリン。相場でいえば目の前にある串焼きが三百ファリンくらい。日本円とあまり変わらないのかしら。よくわからないわ。私が串焼きを見つめていると、食べたいと勘違いしたのか、ブランクが二本購入してきた。
「ありがと」
「よく考えればお前無一文だしな」
「悪かったわね!」
お金の単位すら知らなかったんだから、お金を持ってなくても仕方ないじゃない! 私は熱々の串焼きを手に取って頬張ると、またブランクが驚いた。
「あんた抵抗ないんだな。串焼きにかぶりつくなんて」
「周りを見て作法を真似しただけです!!」
幸い、ここには串焼き屋の近くだけあって食べ歩きをしている方々もいらっしゃいます。あとは中身が五歳児ということになっている私が、大人の真似をしましたと言えば、まあそうだろうなで終わるはず。
普段歩いている整備された廊下と違い、城下町の道路は少し歪で歩きにくさを感じました。前世でも足場の悪いとこくらい歩いたことはあるけど、舗装されたアスファルトの上の方が多かったな。足元を見れば石畳。それも不ぞろいだったり、かけていたりと歩きにくい。貴族の女性は基本ヒールを履いていましたが、街を歩く女性は平べったい靴を履いていて当然ね。こんな道じゃヒールが引っかかって簡単に折れてしまうわ。
私の靴も例外なく平べったいものでした。実際に歩かなければ、私がこの世界で見てきた常識で靴を選んでいたでしょうね。一人で抜け出そうとしなくて正解でした。
飲食系の露店ばかり並んでいる道をしばらく歩いていると、他の店と系統の違う露店を見つけました。集まる女性たちはなにやら手に取って匂いを嗅いでいるように見えます。
「あれは何かしら?」
「あれは香料だな。行ってみるか?」
「ええ!」
しばらく色々な匂いを試してみたけど、これだと思えるものに出会うことはできませんでした。しかし、一つだけ気に入ったものを手に取って、私はブランクの方を見つめました。
「買うのはいいが、どこに置くつもりだ?」
「あっ! 考えていませんでした」
よく考えれば、持ち帰ったものが私の私室にあったらおかしいですよね。セシルに抜け出して建国祭に来てしまったことがバレてしまうかもしれません。そもそも行ってみるかと声をかける前に、そういってくれればよかったじゃないですか!!
私が頬を膨らませながら、ブランクを睨むと、彼の方から一瞬だけ鼻で笑う音が聞こえました。私が声を出す前に、彼は店主にお金を払い、香料を購入しました。
「特別に魔法をかけてやろう。これは俺とお前しか認識できない魔法だ」
「あり…………がと」
ブランクから受け取った小瓶を、私はしっかりと握りしめる。その後は路上パフォーマンスなどを見て部屋に戻りました。部屋に戻ったあと、何故かセシルは私がいなくなったことに気付いていなかったようですが、それもブランクの魔法の力なのでしょうね。
0
お気に入りに追加
231
あなたにおすすめの小説
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる