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20話 お忍び建国祭

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 街の中を歩いていると、私の格好は違和感なく溶け込んでいますが、ブランクの格好は明らかに場違いです。ですが、誰もブランクを見たりしている人はいません。

 周囲にこんな黒ずくめの人なんていませんが、案外普通の格好なのでしょうか。しかし、街を歩く男性の格好は比較的簡素なものが多く、そのほとんどが白いシャツを着ているだけで、上下のカラーバリエーションは白、茶、黒くらいしかありませんでした。黒ずくめにローブで更に顔まで隠しているのは彼くらいだろう。

 けど、誰も気にしていないのなら、私も気にする必要なんてありませんよね。

「ねえ? 露店のものはどうやってもらえばいいの?」

 よく考えれば私はこの国のお金を見たことがない。しかし、そして今までお金について教育を受けたことがない。だから、お金という定義を知らないフリをしながら質問しないと。

「利用方法も知らないのに露店なんてどこで覚えたんだ?」

「…………気にしないで。それより教えて」

 うかつだった。そもそもお金のことを知らないなら、お店を見てあれは何? ってとこから始めないとおかしいじゃない。それとも手に取れる位置にある食べ物はひょいと取ればよかったのかしら。

 とにかくお金のことをブランクから教えてもらい、単位はファリン。相場でいえば目の前にある串焼きが三百ファリンくらい。日本円とあまり変わらないのかしら。よくわからないわ。私が串焼きを見つめていると、食べたいと勘違いしたのか、ブランクが二本購入してきた。

「ありがと」

「よく考えればお前無一文だしな」

「悪かったわね!」

 お金の単位すら知らなかったんだから、お金を持ってなくても仕方ないじゃない! 私は熱々の串焼きを手に取って頬張ると、またブランクが驚いた。

「あんた抵抗ないんだな。串焼きにかぶりつくなんて」

「周りを見て作法を真似しただけです!!」

 幸い、ここには串焼き屋の近くだけあって食べ歩きをしている方々もいらっしゃいます。あとは中身が五歳児ということになっている私が、大人の真似をしましたと言えば、まあそうだろうなで終わるはず。

 普段歩いている整備された廊下と違い、城下町の道路は少し歪で歩きにくさを感じました。前世でも足場の悪いとこくらい歩いたことはあるけど、舗装されたアスファルトの上の方が多かったな。足元を見れば石畳。それも不ぞろいだったり、かけていたりと歩きにくい。貴族の女性は基本ヒールを履いていましたが、街を歩く女性は平べったい靴を履いていて当然ね。こんな道じゃヒールが引っかかって簡単に折れてしまうわ。

 私の靴も例外なく平べったいものでした。実際に歩かなければ、私がこの世界で見てきた常識で靴を選んでいたでしょうね。一人で抜け出そうとしなくて正解でした。

 飲食系の露店ばかり並んでいる道をしばらく歩いていると、他の店と系統の違う露店を見つけました。集まる女性たちはなにやら手に取って匂いを嗅いでいるように見えます。

「あれは何かしら?」

「あれは香料だな。行ってみるか?」

「ええ!」

 しばらく色々な匂いを試してみたけど、これだと思えるものに出会うことはできませんでした。しかし、一つだけ気に入ったものを手に取って、私はブランクの方を見つめました。

「買うのはいいが、どこに置くつもりだ?」

「あっ! 考えていませんでした」

 よく考えれば、持ち帰ったものが私の私室にあったらおかしいですよね。セシルに抜け出して建国祭に来てしまったことがバレてしまうかもしれません。そもそも行ってみるかと声をかける前に、そういってくれればよかったじゃないですか!!

 私が頬を膨らませながら、ブランクを睨むと、彼の方から一瞬だけ鼻で笑う音が聞こえました。私が声を出す前に、彼は店主にお金を払い、香料を購入しました。

「特別に魔法をかけてやろう。これは俺とお前しか認識できない魔法だ」

「あり…………がと」

 ブランクから受け取った小瓶を、私はしっかりと握りしめる。その後は路上パフォーマンスなどを見て部屋に戻りました。部屋に戻ったあと、何故かセシルは私がいなくなったことに気付いていなかったようですが、それもブランクの魔法の力なのでしょうね。
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