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15話 元悪役令嬢は母親らしさを知らない
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こないだのお茶会以降、ビルジニは頻繁に私の元へ訪れるようになりました。他にもミゲルやアレクシスとエンカウントするようになっては、互いが顔を合わせるたびに空気が悪くなります。
みんな負けず嫌いの子供ね。一体、何を取り合っているのかしら。まあ、元アラサーの私には子供の考えることなんて全然わかりませんけどね。
普段なら偶然居合わせても二人なのですが、今日は珍しく三人ともいらっしゃいます。
ちょうど子供二人が並んで座れるくらいの長椅子が二つにその間に細長いテーブルが一つ。
男女ということで私の隣にはビルジニが座り、正面には従兄のアレクシスが座り、対角線上にミゲルが座りました。
「やはりクリスティーン姫の隣は私が相応しい。そう思わないか?」
「思いませんね」「そこはアレクシス様に同意します」
ま、子供なんて喧嘩するぐらいがちょうどいいわよね。本来なら公爵家のアレクシスに逆らえないにも関わらずにミゲルもビルジニも互いに言いたいことを言い合えているのだもの。美しきかな友情。
今日はビルジニから頂いた茶葉を使った紅茶を頂いていますが、一口口に含んだだけで、紅茶本来の味と香りがずーっと残り続けます。こういうのがいいんでしたっけ? わからないけど、侯爵家のお土産だから誉めておけば通っぽいわよね。
「この紅茶すごく美味しい。これはビルジニの領地のものなの?」
「いえ、こちらは父の一番の親友から頂いたものです。私も頂いて本当に美味しいと思いましたので、ぜひクリスティーン姫にと思いまして」
ビルジニのお父さんの一番の親友? となると、確か乙女ゲーム内でもビルジニのお父さんシャルル・エル・タグマウイに親友がいて、その親友も攻略対象大司祭ミカエル・ド・セイリグだ。確かミカエルルートは【藍】のワンダーオーブ。
ミカエルの子供がいるなら、会っておきたいわね。ちょうどいいし、今度教会にでも行ってみようかしら。問題はどのような口実で王宮を出るか。仮にも私は姫なのですし、行ってくるね! ではすまないだろう。そうだ、今度ジェラールにお願いしてみよう。教会に行ってみたいと。あとは教会に行きたい理由だ。
私が紅茶を口に含みながら考え事をする。アレクシスやミゲル、ビルジニは自由に出入りできるのが羨ましい。転生したのはいいとして、どうして姫になってしまったのだろうか。
とにかく三人がいなくなったらジェラールの所に行こう。本当は気軽に会える訳ではないが、ジェラールの生活エリアは把握しているし、運が良ければ、今日にでも話ができるだろう。
そして日が暮れる前に三人は親が迎えに来て帰宅していく。一番最後にミゲルを見送ってから、私は父と母の住む宮殿にふらっと散歩をしに向かった。
ジェラールも公務を終えて庭を散歩していることが多い。もしかしたら宮殿近くにいるかもしれない。そう思って宮殿の近くにあるバラ園を散策していると、豪華な赤いドレスを着た綺麗な金髪の女性がそこに立っていた。
そこにいたのは母エリザベートであった。そうか、あの宮殿にはエリザベートも住んでいるから、彼女が宮殿の近くにいてもおかしくないのか。そして深紅の瞳が真っすぐこちらを捉えた。
「クリスティーン、こんなところで何をしているの?」
「お母様、えっと私はその……お母様に逢いたくて」
嘘である。本当はジェラールに逢いたかったけど、エリザベートに逢えれば、もしかしたらそのままジェラールにも逢えるかもしれない。
「こちらに来なさいクリスティーン」
エリザベートに招かれたので、素直に彼女のすぐそばまでやってきた。するとエリザベートはしゃがみ込み、私に目線を合わせる。今、彼女は何を考えているのだろうか。
「ずいぶん甘えん坊に育ってしまったのね。もう少し大人になるまでは多めに見てあげるけど、貴女はこの国の姫だということをもう少しだけ自覚しなさい」
この教えはきっとエリザベートの実家であるクレメンティエフ公爵家の教えだろう。そしてエリザベートもきっと公爵令嬢らしくしなさい。そういう風に育てられた。その結果が悪役令嬢なんですけどね。きっとエリザベートの両親はエリザベートが一番でなければ認めなかった。だから、エリザベートは主人公に突っかかるようになった。
「お母様、私は姫である前に、お母様の娘ですよね? ちゃんと姫らしくなりますから、お母様の娘であることを忘れさせないでください」
私がそういうと、エリザベートは、目を丸くして驚いた。想定外の言葉だったのでしょう。もしかしたら、エリザベートも遠い昔、両親に思っていたことなのかもしれない。エリザベートから返事はありませんでしたが、彼女は私の頭を軽く撫でると、一言だけ呟きました。
「貴女がその気なら、簡単に忘れるものではないわ。でも私に母親らしさなんて求めないで頂戴。……私もそんなこと知りもしないんだから」
そういってエリザベートは宮殿に向かって歩いていった。結局、この日はジェラールと会うことはできませんでした。
みんな負けず嫌いの子供ね。一体、何を取り合っているのかしら。まあ、元アラサーの私には子供の考えることなんて全然わかりませんけどね。
普段なら偶然居合わせても二人なのですが、今日は珍しく三人ともいらっしゃいます。
ちょうど子供二人が並んで座れるくらいの長椅子が二つにその間に細長いテーブルが一つ。
男女ということで私の隣にはビルジニが座り、正面には従兄のアレクシスが座り、対角線上にミゲルが座りました。
「やはりクリスティーン姫の隣は私が相応しい。そう思わないか?」
「思いませんね」「そこはアレクシス様に同意します」
ま、子供なんて喧嘩するぐらいがちょうどいいわよね。本来なら公爵家のアレクシスに逆らえないにも関わらずにミゲルもビルジニも互いに言いたいことを言い合えているのだもの。美しきかな友情。
今日はビルジニから頂いた茶葉を使った紅茶を頂いていますが、一口口に含んだだけで、紅茶本来の味と香りがずーっと残り続けます。こういうのがいいんでしたっけ? わからないけど、侯爵家のお土産だから誉めておけば通っぽいわよね。
「この紅茶すごく美味しい。これはビルジニの領地のものなの?」
「いえ、こちらは父の一番の親友から頂いたものです。私も頂いて本当に美味しいと思いましたので、ぜひクリスティーン姫にと思いまして」
ビルジニのお父さんの一番の親友? となると、確か乙女ゲーム内でもビルジニのお父さんシャルル・エル・タグマウイに親友がいて、その親友も攻略対象大司祭ミカエル・ド・セイリグだ。確かミカエルルートは【藍】のワンダーオーブ。
ミカエルの子供がいるなら、会っておきたいわね。ちょうどいいし、今度教会にでも行ってみようかしら。問題はどのような口実で王宮を出るか。仮にも私は姫なのですし、行ってくるね! ではすまないだろう。そうだ、今度ジェラールにお願いしてみよう。教会に行ってみたいと。あとは教会に行きたい理由だ。
私が紅茶を口に含みながら考え事をする。アレクシスやミゲル、ビルジニは自由に出入りできるのが羨ましい。転生したのはいいとして、どうして姫になってしまったのだろうか。
とにかく三人がいなくなったらジェラールの所に行こう。本当は気軽に会える訳ではないが、ジェラールの生活エリアは把握しているし、運が良ければ、今日にでも話ができるだろう。
そして日が暮れる前に三人は親が迎えに来て帰宅していく。一番最後にミゲルを見送ってから、私は父と母の住む宮殿にふらっと散歩をしに向かった。
ジェラールも公務を終えて庭を散歩していることが多い。もしかしたら宮殿近くにいるかもしれない。そう思って宮殿の近くにあるバラ園を散策していると、豪華な赤いドレスを着た綺麗な金髪の女性がそこに立っていた。
そこにいたのは母エリザベートであった。そうか、あの宮殿にはエリザベートも住んでいるから、彼女が宮殿の近くにいてもおかしくないのか。そして深紅の瞳が真っすぐこちらを捉えた。
「クリスティーン、こんなところで何をしているの?」
「お母様、えっと私はその……お母様に逢いたくて」
嘘である。本当はジェラールに逢いたかったけど、エリザベートに逢えれば、もしかしたらそのままジェラールにも逢えるかもしれない。
「こちらに来なさいクリスティーン」
エリザベートに招かれたので、素直に彼女のすぐそばまでやってきた。するとエリザベートはしゃがみ込み、私に目線を合わせる。今、彼女は何を考えているのだろうか。
「ずいぶん甘えん坊に育ってしまったのね。もう少し大人になるまでは多めに見てあげるけど、貴女はこの国の姫だということをもう少しだけ自覚しなさい」
この教えはきっとエリザベートの実家であるクレメンティエフ公爵家の教えだろう。そしてエリザベートもきっと公爵令嬢らしくしなさい。そういう風に育てられた。その結果が悪役令嬢なんですけどね。きっとエリザベートの両親はエリザベートが一番でなければ認めなかった。だから、エリザベートは主人公に突っかかるようになった。
「お母様、私は姫である前に、お母様の娘ですよね? ちゃんと姫らしくなりますから、お母様の娘であることを忘れさせないでください」
私がそういうと、エリザベートは、目を丸くして驚いた。想定外の言葉だったのでしょう。もしかしたら、エリザベートも遠い昔、両親に思っていたことなのかもしれない。エリザベートから返事はありませんでしたが、彼女は私の頭を軽く撫でると、一言だけ呟きました。
「貴女がその気なら、簡単に忘れるものではないわ。でも私に母親らしさなんて求めないで頂戴。……私もそんなこと知りもしないんだから」
そういってエリザベートは宮殿に向かって歩いていった。結局、この日はジェラールと会うことはできませんでした。
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