ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

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第3章 ポンコツしかできないこと

20話 最大級のモンスター

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 さてさて、皆さまのことは信頼していますが、やはり心配していないと言えばうそになりますね。
  
「嬢ちゃん。不安そうじゃねーか」

「気にしすぎよマルッティ」

 さてさて、ここら辺が丁度宜しいでしょうか? 敵から見えやすく、尚且つ逃げだしてもしばらく追いつかれそうにない場所ですね。

「御者さん! そろそろ一度停めてくださる?」

「……」

 御者さんは黙って指示に従ってくださりましたわ。
  
「じゃあ行くわよマルッティ。絶対に護ってくださいね」

「あいよ嬢ちゃん」

 私は丘の下にいるデークルーガ兵たちから良く見える位置に立ち、マルッティに大きな盾を叩いてもらい、音を響かせましたわ。
  
「なんだ?」「鐘か?」「おい丘の上から聞こえるぞ」「誰かいる!」「あれは間違いない! ルクレシア様だ!」「本物か?」「頂いた資料にあるベッケンシュタイン家の紋章っぽい旗掲げているぞ」「桜色の瞳だったら間違いなく本人だ! この距離じゃわからん! 行くぞ!」「うおー!!」

 うわー。想像より群がっているわね。いいのここ主戦場よね? そんなにこちらに要員を割いて大丈夫? ああ、そうか。私が最終目標だものね。
  
 でも、罠かどうか判断が鈍って念のため一部の人間を送ってくるものでしょう? それともこれが一部なのかしら?
  
 だったら多すぎよ。マルッティ一人で捕縛? ばかげているわ。
  
「やはりプランBね」

「まあ、仕方ないのう」

 馬車で逃げ出し始めてしばらくたちますと、さすがにいくら丘の上と言えど、騎兵たちは追いついてきましたわ。
  
「そろそろですかね? この辺で応戦しましょう」

「本気か嬢ちゃん? ここは少し開けすぎていて敵に囲まれちまうぞ?」

「それでいいのです」

 マルッティは心底理解できないような表情をされていますが、構いませんわ。
  
「御者さん。ありがとうございます。怖かったら貴方だけでも逃げてください。いえ、私は馬車に乗りっぱなしですけど」

 この開けた草原。こんな場所に留まっていては捕まってしまいます。御者さんはこちらに振り向かず、無言でうなずきましたわ。
  
 まあ、勿論捕まるつもりはありませんけどね。
  
 敵兵達が私達の周りを取り囲もうとしたその時でした。草原が突然めくりあがったのです。そこから突然現れる兵士たち右側左側すべてを埋め尽くしましたわ。
  
 デークルーガ兵を取り囲んだのは他でもない第七騎士団の方々でした。
  
「なるほどのう。クーパで買いあさった織物である必要があったかはわからんが、草を敷き詰めて兵士たちを待機させておったのか」

「いえ、織物は草原に混じっても見えにくいものを予め選んでおきました。遠目から見たら草原に見える必要がありますので」

「なるほどのう……嬢ちゃん戦争は初めてだよなぁ? 訓練か何かか?」

 マルッティが私を不思議そうに見つめていますが、今はそのような時間は御座いません。
  
「あなたもお行き」

 私が手でマルッティを追い払う様にジェスチャーを行うと、マルッティはしぶしぶ戦闘に向かいましたわ。
  
 大きな盾をぶん回しながら戦うマルッティの様子を見ながら、私は馬車の中に戻らせて頂きましたわ。
  
「ねえ御者さん聞こえる?」

「……」

 御者さんはまた無言で頷く。

「そう……まあ、いいですけど」

 御者さんは一向にこちらに振り向かず、喋ろうともしない。寡黙な人なのか。私に正体を知られない様にしているのか。
  
「今の戦況で私が無事だと判断しているから逃げ出さないってことでいいのかしら?」

 やはり無言で頷く。いいですわ。そちらがその気でしたら、私も気付かないフリをして差し上げます。
  
 マルッティは頑張っているかしら? 大丈夫そうね。あの豪傑に限って窮地など縁がないのでしょう。

 マルッティや騎士団の方々は相手が騎兵であろうと関わらず淡々と処理されていますわ。
  
 さらに言えば第七騎士団は順調に応援を呼び、騎兵たちがデークルーガ兵の後方まで囲いましたわ。

 一方的に囲い悠々と敵兵を処理。いまいち味気ない終わり方をしてしまいましたね。
  
 ひと段落つき、マルッティがこちらに戻ってきましたわ。
  
「しかしまさか第七騎士団を隠していたとはのう。いつの間にこちらの作戦に協力するように促したんじゃ?」

「それがね。昨晩突然協力しますって騎士団長のペッテル様が声をかけてきましたのよ。作戦のことすらお話していないはずなのになぜか知っていましたし」

 つまり、何者かがペッテル様に作戦を教えたということよね。
  
 しかも、ペッテル様が作戦に反対しているにも関わらず、協力させることができる人がここにきている。
  
 こんな戦争の為に、このような場所までわざわざ。もう絶対あの人しかいないじゃないですか。

 まあ、いいですわ。あとでお礼に何かして差し上げましょう。何なら喜んで下さりますでしょうか? ふふ、なんだか楽しみね。
  
「うわああ!!」

「逃げろぉ!」

 あら? 何かあったのかしら? 馬車から顔をだしますと、何やら大きめのモノがこちらに接近していますわ。
  
「何よアレ」

「ふむ、使用人殿逃げるんじゃい!」

 マルッティが飛び出して、それの前に立ちはだかりましたわ。
  
「あれってまさかゾウ?」

 見たことない動物。灰色のそれは長い鼻にでかい耳。四足歩行のそれはゾウと呼ばれる動物の特徴をされていましたわ。
  
「なによそれ! あり得ないじゃない。なんでそんなものまで引き連れているのよ」

 ゾウは一目散にこちらに向かってきてますわ。ゾウの上には人。騎馬のようなものなのでしょうか。
  
「ええ、あの巨体でそんなスピードでます? 私より速い」

「早う逃げんかい!」

「それ以前にあなたもお逃げなさいな! 盾でなんとかなる相手ではありませんわ!」

 しかし、マルッティは引く様子がございませんでした。え? ねえ、待って。そこ構えるタイミングではございませんよ?
  
 そして私の意思に反し、馬車はマルッティを乗せようとせずに、ゾウと反対方向に走り始めます。
  
「御者さん? 御者さん! 停めて! マルッティがまだ乗っていませんのよ! 公爵令嬢ルクレシア・ボレアリス・ベッケンシュタインが命じます! 今すぐ馬車を停めなさい!」

 しかし、彼は頷いてはくださりませんでした。馬車から顔を出しますと、ゾウが既にマルッティの目と鼻の先まで来ていました。
  
 マルッティはその大きな盾で、ゾウの頭部を叩き付けました。
  
 ゾウの牙らしきものが豪快にマルッティを襲いますが、盾で防ぎ、剣を抜いたマルッティはゾウの耳を切りつけます!
  
  ゾウが一瞬足を停めますと、大きな鳴き声をあげ、長い鼻をマルッティに伸ばします。
  
 マルッティはその長い鼻に持ち上げられてしまい、大きな叫び声と共に、体をぐにゃりと曲げてしまいました。
  
「いやぁあああああああああああああ!!」

 そこから先の記憶が曖昧になりそうでした。
  
 今、目の前で起きた事実を上手に認識できません。
  
 視界が大きく震えているのは、きっと馬車がグワングワンと揺れているせい。
  
 視界が徐々に霞んでいくのは、きっと遠くのものがはっきり見えないせい。
  
 では、胸のあたりが何度もはち切れそうになるのは何のせいだと言うのでしょうか?
  
 ドサッとゾウの鼻から落ちたそれの上を、ゾウはなんの躊躇いもなく進む。こちらに向かって走ってくる。
  
 ゾウの足音で一瞬で冷静になりました。私のやるべきこと。私にしかできないこと。命を代償にした人間の果たすべきこと。
  
「このままでは追いつかれてしまいます。御者さん。私を降ろしてお逃げください」

 しかし、御者さんは無言を貫きます。
  
「ねえ、ではこうしましょう。あのゾウを倒しましょう? 私達二人で」

 それを聞いた御者さんは、無言のまま頷いてくださりましたわ。
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