綾町奈々子はいかにして毒島奇麗を落としたか?

奥野とびら

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奈々子と綺麗  

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 綺麗と奈々子は帰りの飛行機の中にいた。
「事件が解決してよかったですね」
 奈々子がビールを飲みながら言う。
「うん」
「料亭の取材から殺人事件の取材に変わってしまいましたけど」
「ハレの場を提供していた智子さんにとってハレの場が日常……すなわちケになっていたのかもしれないわね」
「ハレがケに?」
「そう。そしてそのケが最後はケガレになってしまった」
「なんだかかわいそう」
 奈々子が呟く。
「ハレがケになってしまった智子さんにとって本当の意味でのハレの場が必要だったのかもしれませんね」
 綺麗は頷いた。
「毒島先生の勘は当たりましたね。池田洋一が巌門にいるって」
「道下むつみさんが事件のことを知りたがっていた。そのことを池田洋一はうるさく思っていたはずよ」
「道下さん、意外と首を突っこんで実際に情報通ですもんね」
「そうなのよね。だから池田洋一は場合によっては道下さんまで手にかけるかもしれないって心配したのよ」
「でもどうして巌門に?」
「道下むつみさんに初めて会った日に〝巌門を小説に書いてください。思い出の場所なんです〟って言ってたわよね」
「そうでした」
「池田洋一が道下さんを誘いだすにしても誘いだしやすいんじゃないかって思って。それに、もし殺害する場合にも都合のいい場所よ」
 奈々子は頷いた。
「結局、事件に巻きこまれた人は長谷川吾郎っていう稀代の悪党に翻弄されたようにも思えます」
「それは言えるかもしれないわね」
 綺麗も奈々子の言葉に肯った。
「まず美人局の片棒を担がされた谷内結衣さんが巻きこまれ……」
「谷内結衣さんの実家は長谷川吾郎が板前として働いていた禄剛崎の近くだから店に顔を出すうちに深い仲になったのかもしれませんね」
「そうね」
「谷内さん、前に言ってましたよね。〝実家が貧乏で親の援助も受けられない〟とか〝女が一人で生きてゆくのは大変〟だとか」
「そうだったわね」
「お金に困っていたのかもしれませんね」
「うん。それで長谷川吾郎が持ちかけた美人局の話に乗ってしまった」
「智子さんだって……」
「長谷川吾郎は谷内さんよりも金になりそうな智子さんに目をつけて鞍替えをしたのかもしれないわ」
「好きになったわけじゃないんですね」
「たぶんね。お金目当てよ。長谷川吾郎に独立の噂があったのは〝自分の店を持てそうだ〟なんて酒の席にでも口走ったのかもしれないわ」
「乗っ取るつもりだったのかしら」
「判らないけど、いずれにしろお金目当てで智子さんに近づいたのよ」
「長谷川吾郎を取られた形になった谷内さんは智子さんを恨んだんでしょうね」
「姉さんが言っていたけど仲居頭の……」
「野崎初子さん」
「うん。野崎さんは智子さんがたびたび長谷川吾郎と会っていたことを知っていたらしいわ」
「そうなんですか」
「うん。だけど自分は店の金をちょろまかしていたから、何も言えなかったって」
 奈々子は溜息をついた。
「〈いけ田〉は大丈夫なんでしょうか」
「さあ」
 綺麗は窓の外にたなびく雲に目を移した。
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