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すべての謎が解ける
しおりを挟む「そうね」
むつみが同意した。
「池田智子が死んだのは〈錦秋楼〉を出てすぐの路上だ。死因は青酸カリによる窒息死。青酸カリはガムに染みこませてあったものだが、このガムは〈錦秋楼〉のレジ横に置かれていたものと思われる。その場にいなかった洋一が、そのガムをどうやって池田智子に噛ませたのか」
「おそらく予め智子さんにガムを渡していたんでしょう」「予め?」
綺麗は頷いた。
「夫である洋一さんなら智子さんが外食の後に必ずガムを噛むことを知っていた。そのガムをバッグに常備していることも」
「バッグの中のガムに青酸カリを注入したのか」
「ええ」
「青酸カリはどうやって入手したんだ?」
「絵付け職人としての洋一さんの師匠である陶芸家のかたは金メッキを使った焼き物も手がけていました。金メッキには青酸カリが必要ですから、その辺りから入手したものでしょう」
長田は頷いた。
「おそらく洋一さんはバッグの中からいったんガムを抜き取ります。そして智子さんの出がけに一枚、そうやって入手した青酸カリを染みこませたガムを渡したんだと思います」
「一枚だけなら池田智子はそのガムを噛まざるをえない……」
「そうです。そんな細工ができるのは夫である洋一さんだけでしょう」
長田が頷く。
「智子さんは洋一さんの周到な計画の果てに青酸カリ入りのガムを噛まされてしまったんです」
誰もが押し黙った。
「もしかしたら洋一さんは〈錦秋楼〉の評判を落とすことまで考えていたかもしれません。〈錦秋楼〉のガムを噛んで死んだという噂が流れたら、それだけで店の評判は落ちてしまうでしょうから」
「そうか。〈いけ田〉を引き継ぐ気だった洋一にとって〈錦秋楼〉の評判が落ちれば有利になる」
「そうやって池田洋一は二人の人間を殺したんです」
「谷内結衣さんは?」
「秘密を嗅ぎつけられたのだと思います」
「秘密を?」
「谷内さんは長谷川吾郎さんと非常に近しい関係にありました」
「美人局のコンビだったのよ」
奈々子が補足する。
「だから長谷川吾郎の悪巧みを敏感に察知した可能性があるし、そこから長谷川吾郎殺しの犯人も類推できた……」
「だから殺した?」
「長谷川吾郎さんと池田智子さんを殺した犯人も必要でした」
「秘密を嗅ぎつけられた相手を排除して、なおかつ長谷川吾郎殺しと池田智子殺しの犯人に仕立てあげる……。完璧な作戦だったわけか」
表が吐き捨てるように言った。
「洋一さんは九月二十三日の夜、谷内結衣さんを呼びだします。もしかしたら呼びだしたのは谷内結衣さんの方かもしれません」
「それは二つの殺人事件の犯人を池田洋一だと察知して強請るため?」
「そうでしょう」
綺麗は頷いた。
「洋一さんは自分の車に谷内さんを乗せて巌門まで運びます。あるいは谷内さんが指示した目的地はそこではなかったかもしれませんが谷内さんを殺すにはそこがいちばん都合がよかった」
「谷内結衣の体内からは睡眠導入剤の成分が検出されている」
「麦茶などに混ぜて洋一さんが飲ませたのでしょう。池田智子さんに飲ませたものと同じものだと思われます」「谷内結衣さんが睡眠導入剤を入手した痕跡はないから、それが妥当な見解だ」
長田が言うと綺麗は頷いた。
「洋一さんは眠りに落ちた谷内さんを巌門まで運び身投げを装って崖下の海に落としたんです」
「その際、谷内結衣のスマホを使って遺書をでっちあげたのか」
「予め脅してパスコードを聞きだしていたのかもしれないわね」
洋一はずっと項垂れている。
「自宅の屋根つきガレージに駐車している池田洋一所有の車を調べたところ雨に濡れた跡がありました」
「最近、雨が降ったのは谷内結衣さんが亡くなった夜だけです。これで洋一さんがその夜、車を使って外出したことが判ります」
「車の内部を調べさせてもらうぞ。谷内結衣さんの髪の毛などが検出されるかもしれない」
「その前に署まで同行してもらおうか。確認したいことが山ほどある」
洋一は逆らわなかった。
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