綾町奈々子はいかにして毒島奇麗を落としたか?

奥野とびら

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犯人指摘

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「ええ。信じた智子さんに裏切られたことは洋一さんの心に智子さんに対する激しい衝撃と憎悪を芽生えさせたんじゃないかしら」
「そのときに妻である池田智子に復讐を決意したというのかね?」
「そうよ。そしてもう一つ〝店を潰したくなかった〟という気持ちも芽生えたのかもしれない」
「〈いけ田〉を?」
「そう。洋一さんは〈いけ田〉を自分のものにしたくなった。それも復讐心の発露かもしれないわね」
「なるほど。どうせなら智子が大事にしていた店を乗っ取ってやろうとしたのか」
「ええ。その方が自分の生活も安定するし。でも店が殺人事件の現場になったのではその店自体が潰れかねない」
「だから死体を店から移動したのか」
 誰もが綺麗の言葉を頭の中で咀嚼していた。
「結局、動機は怨恨か」
 千場が言った。
「そういう側面もあった、という事ね」
「長谷川吾郎の殺人では笹木さんにも容疑がかかっていたはずだ」
「彼は左利きよ」
 洋一の反論に綺麗が答える。〈笹木〉の主人、笹木晃司は、書類には必ず左手で記入していた。
「犯人は右利きよ」
 長谷川吾郎の左脇腹に刺し傷があったことからの警察の見解だ。
「毒島先生。いちばん疑われたのは谷内さんでは?」
 むつみが尋ねる。
「谷内さんは免許を持っていないわ」
 遺体は犯行現場である〈いけ田〉から車で犀川まで運ばれた。
「笹木さんも谷内さんも容疑者から除外ね」
「北本さんは?」
「一連の三件の殺人事件は同一犯のものでしょ」
「その通りだ」
 長田が綺麗の言葉を請けおう。
「谷内結衣さんの死が自殺ではなく他殺であったという見解に達した今、谷内結衣さんを殺した動機は偽の遺書を書いたことから見て先に行われた二つの殺人事件の犯人として罪を着せようとしたことが考えられます」
「つまり先の二つの殺人事件……長谷川吾郎と池田智子を殺した犯人が谷内結衣をも殺したんだ」
 表刑事が説明を加える。
「谷内結衣さんが殺された時刻、北本さんは警察で取り調べを受けていたのよ」
「つまり北本さんにはアリバイがある」
「助かったよ」
 北本が神妙な顔で思わず本音を吐露した。
「洋一さん。あなたしかいないんです」
「でも」
 むつみはまだ納得いかない様子だ。
「ご主人が犯人だとして復讐心から長谷川さんを殺したのは判りますけど女将さんまで復讐のために?」
「そうです。それと自分が殺される計画を知った以上、自分の命を守るために池田智子を殺すしかなかった」
 洋一が膝をついた。
「九月九日の深夜二時、洋一さんは長谷川吾郎さんを呼びだします。呼びだす口実は犯罪計画のことを匂わせたか、あるいは智子さんを拘束したなどの虚偽のメールを打ったのか……。その際に睡眠導入剤で智子さんを眠らせます。夫婦ですから飲ませる機会はいくらでもあったでしょう」
「麦茶に溶かして飲ませるとかね」
 奈々子が補足する。
「呼びだしたのは〈いけ田〉の丁場です。そこで洋一さんは長谷川さんが避ける隙も与えずに包丁で刺した。そのときに洋一さんは絵付けをするときの作業着を着ていたのではないでしょうか。返り血を浴びても袋に入れて捨ててしまえば露見しません」
「その後は長谷川吾郎の遺体を車に積んで犀川に捨てたのか」
「その一週間後、洋一さんは今度は妻となった池田智子さんを殺害します」
「その方法が判らない」

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