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真相
しおりを挟む「智子さんとつきあっていたからです」
「どういうこと?」
むつみが訊き返す。
「そもそも二人は共謀して殺人を計画していたのよ」
「ええ?」
「池田智子と長谷川吾郎は共謀して保険金殺人を起こそうとしていたの。これは予め用意周到に計画された殺人だったんです」
「つまり女将さんは最初から殺すつもりで洋一さんと結婚したっていうんですか?」
「いい加減なことを言うな」
洋一が反論したが、その声は弱々しい。
むつみは〝腑に落ちた〟という顔をしている。三十歳の智子が六十二歳の洋一と結婚したわけ。お似合いという感じもなかった。遣り手の女将に対して洋一は〝冴えない男〟と思われていた。
「洋一さんは、その計画に気づいてしまった」
「智子さんのスマホでも見たのかしら?」
「そうかもしれません。ただ智子さんと長谷川吾郎は周りに露見することを恐れて極力、スマホでの連絡は避けていたでしょうから二人が話しているところを盗み聞きした可能性もあります」
「同じ職場ですものね」
「知る機会はあったはずです」
「それで計画を知って……自分を殺す計画を立てていた長谷川さんを逆に殺した?」
「ええ。長谷川吾郎は危機を感じた洋一さんに返り討ちにあったのよ」
「でも殺人計画って……。長谷川さんが女将さんのためにそこまでしたっていうんですか?」
「むしろ計画を立てたのは長谷川吾郎でしょう」
綺麗は断言した。
「彼は悪の世界に足を踏み入れていました」
「美人局のことですね」
「ええ。反省するどころか金を巻きあげるだけ巻きあげて逃げ去っています」
「悪の体質は消えてはいなかった……」
「そう思います」
「そんな人に女将は魅かれてしまったんですね」
「長谷川吾郎は元々、女性にはもてるタイプでした。谷内結衣さんも長谷川吾郎と組んで悪事を働いています」
美人局の共犯者……。
「もしかしたら長谷川吾郎は洋一さんを殺害して得るはずの保険金を持ち逃げすることを考えていたかもしれませんね」
奈々子が頷いた。
「ご主人は、どうやって長谷川さんを呼びだしたんですか?」
「犯罪計画のことを匂わせたんでしょうね。あるいは智子さんを拘束したなどの虚偽のメールを打ったのかもしれません」
「なるほど」
「ただ、呼びだした場所は犀川ではなく〈いけ田〉でしょう」
「え?」
「犯行は〈いけ田〉で行われたんです。その方が通行人などに見られる危険は低くなりますから」
「夜中に長谷川吾郎が犀川に出向くというのも不自然だ。犯行現場は犀川以外の場所と考えていいだろう」
長田が綺麗の見解に同意した。
「そうか。〈いけ田〉で殺人事件が起きたとあっては客足が壊滅的に遠のいてしまう。だから遺体を犀川まで運んだのか」
「では〈いけ田〉を調べれば、痕跡が残っているかもしれませんね?」
「それはどうでしょう。犯行現場はおそらく丁場です。常に床に水を流して洗っていますから痕跡も洗い流されている可能性があります」
「調べてみよう」
長田刑事が言った。
「でも友禅は?」
むつみが訊く。
「どうして長谷川さんは友禅を着て死んでいたの?」
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