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池田智子の犯罪
しおりを挟む「長谷川吾郎だとしたら?」
「え?」
「智子さんは三十歳。長谷川吾郎は二十八歳。年齢的には釣りあいます。少なくとも、洋一さんよりは」
洋一の顔から汗が滲み出る。
「似合う気がする」
むつみが呟いた。
「その二人なら、お似合いのカップルという気がする。今まで漠然と思っていた〝女将さんにはつきあっている人がいるんじゃないか〟って感じは相手が長谷川さんだったらピッタリ来る」
「それが真実だから、かもね」
奈々子が呟いた。
「長谷川さんが殺されたことで、そのことが証明されたともいえます」
「ちょっと待って。もし本当に女将さんが長谷川さんとつきあっていたのなら、どうして女将さんは洋一さんと結婚したんですか?」
「店を建て直すためです」
「店を建て直す?」
千場が怪訝そうな顔をする。
「失礼だが洋一さんは経営に関しては素人だ。もちろん料亭勤務の経験もない。そんな彼と結婚したところで店を建て直すことにはならないだろう」
「智子さんが欲したのはお金です」
「金? 洋一さんは貧乏ではないかもしれないが一軒の料亭を建て直すほどの資金は持っていないでしょう」
「洋一さんには価値があったんです」
「どんな?」
「一億円の価値です」
「一億……」
むつみが呟く。
「この人のどこにそんな価値が……」
そう言って千場は言葉を切った。
「まさか……」
綺麗は頷く。
「洋一さんには結婚と同時に一億円の保険金が掛けられています」
洋一には一億、智子には一千万円の生命保険がかけられていた。
「でもそれが?」
むつみが訊いた。
「老舗料亭の主人として高額の保険金を掛けるのは当然の事じゃないんですか?」
「はい。でも智子さんはその金で〈いけ田〉の経営危機を乗り越えようとしたんです」
「どういうこと?」
「保険金か」
千場が少し震える声で言った。
「池田智子は浅井洋一と結婚して、その後、保険金目当てに浅井洋一を殺害するつもりだった」
むつみが息を呑んだ。
「馬鹿なことを言うな」
洋一が言った。
「人殺しなんて」
「でも智子さんは経済的に切羽詰まっていました」
「だからといって」
「世間に保険金殺人事件は何件もありますよ」
むつみは過去のニュースを思いだして頷いた。
「智子さんがそれらの事件の犯人と同じことを思いついたとしても不思議じゃありません」
「だったら長谷川さんはどうして殺されたんですか?」
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