綾町奈々子はいかにして毒島奇麗を落としたか?

奥野とびら

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意外な犯人

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 綺麗の視線の先には洋一がいた。洋一は口を開けたまま閉じることを忘れている。
「ちょっと待ってください」
 曖昧な笑みを浮かべる。
「言っている意味が判らない。何かの冗談ですか?」
「いいえ。あなたが奥さん……池田智子さんを殺害したと言っているんです」
「何を馬鹿げたことを」
 むつみも顔を真っ青にさせている。
「道下さん」
「はい」
 むつみは体をビクッとさせながら返事をした。
「あなたどうしてここにやってきたんですか?」
「それは……」
 むつみは洋一を見た。
「ご主人に誘われたんです」
「おそらく探りを入れるためでしょう」
「探り?」
「ええ。あなたが事件のことをどれほど知っているのか。場合によっては、あなたのことも手に掛けようと思っていたかもしれない」
 むつみは唾を飲みこんだ。
「毒島さん。無礼ですよ」
 洋一の声は震えている。
「無礼はあなたです」
 綺麗の声はしっかりとしている。
「あなたは道下さんをも今、事件に巻きこもうとしていた」
「そんな……」
「道下さん。あなたは事件の真相に、どれだけ近づいているんですか?」
「真相って谷内さんが犯人だったんですよね?」
「やはり何も気がついていませんでしたね」
「でも」
 むつみは綺麗の言葉に納得できない様子だ。
「谷内さんは女将さんから酷い仕打ちを受けていたんです」
 むつみが小さな声で言う。
「こんなこと本当は言っちゃいけないんでしょうけど、もう女将さんも亡くなってしまったし」
「言ってください」
「女将さんはきつい人でした。谷内さんも、ずいぶん、辛い仕打ちを受けていたんです」
「殺したいほど?」
 綺麗の問いかけに、むつみはゆっくりと頷いた。
「だから谷内さんは女将さんを殺したんでしょう?」
「なるほど。谷内さんには智子さんを殺害する動機があったと」
「ええ」
「では長谷川さんの事はどうして殺したんでしょう?」
「それは……女将さんを困らせようとして。長谷川さんが殺されれば〈いけ田〉に悪い評判が立つでしょうから……」
「そんなことで罪のない長谷川さんを殺すでしょうか。智子さんを殺したいほど憎んでいたのなら、まず智子さんにその矛先が向かうはずです」
 むつみは反論できない。
「じゃあやっぱりご主人が……」
「勝手なことを言わないでくれ」
 洋一は語気を強めた。それは今までの気弱な洋一には似合わない強さだった。
「僕が犯人だとか、そっちこそ無礼だろう。第一、どうして僕が智子を殺さなければいけないんだ」
「それが最後まで判らなかったわ」

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