57 / 69
57
さかさまだった
しおりを挟む犀川の畔に綺麗と奈々子が立っている。
「本末転倒……さかさまだったのよ」
「さかさま?」
綺麗は頷く。
「あたしたちが見ていた光景は〝さかさま〟だった。だから真実の姿が見えなかったの」
「毒島先生……」
「確かめる必要があるわ。その確認さえ取れれば……」
「まだいたんですか」
声をかけられた。振りむくと長田刑事と表刑事だ。
「事件は解決したんですよ。もう金沢に用はないでしょう」
「事件は解決していないわ」
「何を言ってるんだ。二つの殺人事件の犯人は谷内結衣。遺書を遺して自殺した」
「裏づけは取れたの?」
「現在、確認中だ。谷内結衣が犯人で矛盾ないことが判れば捜査本部は解散する」
「死亡場所が気になるのよ」
「死亡場所?」
「そうよ。おそらく車でなければ行けない場所から谷内さんは飛びこんでる。でも谷内さんは自分では車を運転できない」
「タクシーを使ったんだろう」
「それを調べて」
「言われなくても調べている」
「それにタクシー以外にも最寄りの駅まで電車で、あるいはバスで行ってあとは徒歩ということも考えられる」
「死亡推定時刻は午後十一時三十分よね」
「そうだ」
「谷内さんが最後に目撃された時刻を知りたいわ」
「それも調査中だ」
「判ったら教えてちょうだい」
「どうしてお前に」
「谷内さんは犯人じゃないからよ」
「なに」
「ふざけたことを言うな」
長田警部補が気色ばんだ。
「ふざけちゃいないわ。本気よ」
「どう本気だというんだ」
「遺書はスマホのメモ欄に遺されていたって聞いたけど」
「その通りだ」
「谷内さんは普段からスマホのメモ欄にメモを残す習慣があったの?」
長田と表が顔を見合わせた。
「普段はスマホのカレンダー欄にメモを残していた。メモ欄を使ったのは初めてです」
表刑事が認めた。
「それは不自然よね?」
「別に不自然ではない」
長田警部補が反論する。
「今から死のうとしているんだ。気が動転もしているだろう。いつもと違う行動を取ってしまっても不思議じゃない」
「でもスマホの操作は無意識のうちに普段通りの方法でやってしまうものだと思うわ。何か書くのなら普段通りにカレンダー欄を使うんじゃない?」
奈々子が頷く。
「つまりあの遺書は谷内さんの普段の習慣を知らない第三者が書いた可能性があるわ」
長田を表は言葉が出ない。
「犯人は別にいるのよ」
「谷内結衣が犯人じゃなかったら、いったい誰が犯人だというんだ」
「それを確認するためにも、いま言ったことを調べてもらいたいの。手遅れにならないうちに」
「手遅れ?」
「そうよ。犯人は、もう一人殺そうとしているから」
奈々子がゴクリと唾を飲みこんだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。


檸檬色に染まる泉
鈴懸 嶺
青春
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性”
女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。
雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が……
手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が……
いま……私の目の前ににいる。
奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる