綾町奈々子はいかにして毒島奇麗を落としたか?

奥野とびら

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谷内結衣と長谷川吾郎の過去

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 綺麗はレンタカーを走らせていた。
 助手席には奈々子が坐っている。
「奈々子、悪いわね。あたしの気まぐれにつきあわせてしまって」
「気まぐれだなんて思ってません」
 奈々子はキッパリと言った。
「三人の人間が殺されているんです。その犯人を野放しにはできませんよ」
 綺麗はステアリングを握りながら頷いた。
「先生には真犯人を暴く力があるんですから」
「それは判らないけど」
「判ります」
 奈々子は前を向いたまま言った。
 綺麗は車を停めた。
「どうしたんですか?」
「見て」
 綺麗の視線の先には厳門が見える。
「すごい」
 絶景だ。
「降りてみましょう」
 二人は車を降りて、しばし厳門の絶景を眺めた。
「谷内さんは、こんな景色を見ながら育ったんですね」 綺麗と奈々子はキスを交わした。
「谷内さんの実家はここからすぐよ。後は歩いて探しましょう」
「はい」
 一〇分ほどで〝谷内〟という表札がかかった家が見つかった。
「ここですね」
 家には結衣の母親、美代子が一人でいた。背は比較的高く顔も体も痩せていた。この人を若くして体がグラマーになったら結衣さんになると奈々子は思った。 
 二人は事情を話し家に上げてもらった。
「長谷川吾郎さんをご存じですか?」
「はい」
 綺麗の問いに美代子はあっさりと頷いた。綺麗と奈々子は顔を見合わせた。
「どうしてご存じなんでしょうか?」
「長谷川さんの勤め先に結衣も出入りしていたんです」
「そうだったんですか」
 美代子は寂しげな顔で頷いた。
「お二人の関係は、どのような関係だったんでしょうか?」
「よくは知りません」
 美代子は言葉を切る。
「ただ……結衣は長谷川さんのことが好きだったようです」
「どうしてそう思われたんですか?」
「自宅でも、よく長谷川さんの話をしていましたから」
 綺麗は頷いた。
「結衣さんは、どんなお子さんでしたか?」
「優しい子です」
 美代子はすぐに答えた。
「警察からは長谷川さんの犯罪に手を貸していたなんて言われましたが信じられないんです。きっと長谷川さんに唆されて止むに止まれず手を貸したに違いないんです」
「わかります」
 奈々子が言った。
「わたしも好きな人のために上からの命令を無視してしまうことがありますから」
「やっぱり」
 美代子が大きく頷いた。
「はい。そんな気持ち、相手には気づいてもらえないことが多いんです」
「わかります」
 美代子が共感して頷くと綺麗が咳払いをした。
「でも結衣さんは、それほど長谷川さんを好きだったんですねえ」
「騙されてたんですよ」
 美代子の口調が変わった。
「あの子が法を犯したなんて信じたくありませんが、もしそのような事をしたとしたら長谷川という男に操られていたに違いありません」
「長谷川さんの評判を知ってるんですか?」
「勤め先を辞めたのも店の金に手をつけたと聞きました」
「そんなことも……」
「娘に関わることは何でも調べました」
 美代子は茶を一口飲んだ。
「長谷川は、きっと酷い女たらしなんでしょう」
 しばらく話をして綺麗と奈々子は谷内家を辞した。
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