綾町奈々子はいかにして毒島奇麗を落としたか?

奥野とびら

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谷内結衣の死

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 巌門を通りかかった漁師が異様な光景に気がついた。
(何だあれ)
 荒磯に何かが漂っている。
 背中がゾッとした。瞬間的に厭な考えが浮かんだのだ。人が浮かんでいるように見える。目を背けたかったが、そういうわけにはいかない。
 漁師は気を奮い起こしてその物体を目を凝らして見た。
(人だ)
 間違いなかった。人が俯せになって海に漂っている。漁師は唾を飲みこんだ。
 死んでいることは確かなことに思えた。だが万が一、息があるかもしれないと思って漁師は浜辺に降りて漂う人間を引きよせようとした。岩場に立ったままでは届かないから漁師はズボンを穿いたまま海に入っていった。

    *

 捜査会議は、どこか拍子抜けしたような雰囲気に包まれていた。
「巌門で女性の遺体が上がった」
 山本潔本部長が報告している。
「身元は谷内結衣」
 溜息が洩れる。
「〈いけ田〉に出入りしていた友禅師ですね?」
「そうだ」
 表の問いかけに本部長は頷いた。
「谷内結衣はスマホのメモ欄に遺書を遺していた」
「自殺という事ですか」
「そうだ」
「自殺の動機は?」
「遺書に書かれている。プリントを見てくれ」
 捜査員たちは、あらためて机の上に置かれたプリント用紙に目を落とした。そこには谷内結衣が自分のスマートフォンに遺した遺書の前文が記されていた。

――長谷川吾郎さんと池田智子さんを殺害したのは私です。私は〈いけ田〉を憎んでいました。長谷川吾郎さんと池田智子さんに虐げられてきたからです。恨みを晴らすためにその二人を殺害しましたが罪滅ぼしのために自分も命を絶ちます。さようなら。
                    谷内結衣

 読み終わった者から顔をあげてゆく。
「事件解決ですか」
 表が呟くように言った。
「そのようだ」
 答える山本の声には、あまり張りが感じられない。
「死亡推定時刻は昨夜の午後十時頃と思われる」
「ちょうど我々が北本龍太朗に事情聴取をしていた時間だな」
 長田が隣に坐る表に話しかけると表は「そうですね」と小声で返した。
「長谷川吾郎の殺人も池田智子の殺人も、どちらも谷内結衣の犯行だった」
「終わってみれば呆気ない解決ですね」
 表の言葉に山本は頷いた。
「後は事実関係を詰めてゆく作業だ。各自、粛々と割り当てられた任務を遂行するように」
 捜査員たちは立ちあがった。
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