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謎の写真
しおりを挟む綺麗の疑いが晴れた。
奈々子は自分と綺麗が宿泊しているホテルの敷石に噴霧されていたニスに着目した。そのニスが綺麗の靴底にも付着しているのではないかと思ったのだ。
そのことを警察に告げ調べてもらうと案の定、綺麗の靴裏からニスの成分が検出された。
さらに殺人現場付近の舗道を調べた結果、綺麗の靴跡とともにニスの成分が検出された。
ただし、その靴跡は綺麗が早朝、長谷川吾郎の遺体を発見した際についた一組のものだけだった。つまり綺麗はその現場に、一度しか足を運んでいないことになる。 死亡推定時刻は夜中の二時だから、もし綺麗が長谷川
吾郎を殺害したのなら綺麗はその現場に夜中の二時から早朝六時近くまで、ほぼ四時間居続けたことになる。これはあまりにも不自然だし実際に早朝五時近くに現場付近を通った新聞配達員が女性の姿など見ていないと証言したのだ。
刑事から疑いが晴れたことを告げられ奈々子は喜んだ。
「よかったですね。警察も先生の主張を認めてくれて」
「奈々子のお陰よ」
綺麗と奈々子は〈いけ田〉の個室で食事をしていた。
「でも警察はまた悩んじゃいますね。〝じゃあ本当の犯人はいったい誰だろう?〟って」
「それはあたしも知りたいわ」
「そうでした」
襖が開いて仲居の若林珠里が追加のビールを運んできた。
「千場さんを知ってる?」
綺麗が珠里に声をかける。
「千場さんって〈錦秋楼〉の?」
「そう」
「知ってます」
珠里はなぜか声を潜めた。
「どんな人?」
「どんな人って言われても」
いきなり訊かれて慌てたのか珠里は口籠もった。
「どうして千場さんのことを知ってるんですか?」
見かねたのか、奈々子が助け船を出すように違う角度から質問をする。
「よくうちのお店に来るんですよ」
「なるほど」
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「仲居室にも?」
「お土産を持ってきてくれるんです。お菓子なんかを」
「へえ。気配りの人なんですねえ」
「ちょっとイケメンだし仲居の間では評判いいですよ」
「買収の噂があるって聞きましたけど?」
「噂じゃありません」
珠里は断言した。
「公然の秘密というか」
「そうなったら若林さんはどう思います?」
「あまり歓迎しません」
「そうなんですか?」
「はい。やっぱり伝統のある店ですから、その伝統は守ってほしいです」
綺麗は深く頷いた。
「千場さんの個人的な印象はどう?」
「個人的?」
「経営者としてではなく、その人の性格とか」
珠里は考えこんだ。
「いい人だと思いますよ。いつも笑みを浮かべて紳士的で。でも」
「でも?」
「どこか信用できない雰囲気もありますね」
「お邪魔します」
声がした。綺麗が「どうぞ」と答えると襖が開き洋一が顔を見せた。
「ご挨拶に伺いました」
洋一が部屋に入ると珠里は出ていった。
「お食事はどうですか?」
「とてもおいしいです」
奈々子が言うと洋一は「ありがとうございます」と頭を下げた。
「うちの板前たちの腕は確かですから」
「ですね。ただ、そのうちの一人が亡くなってしまって……」
「真相追及の進展はございましたでしょうか」
「それが芳しくなくて」
綺麗は心持ち身を竦める。
「早く犯人が捕まってくれないと不安で眠れません」
「すみません」
「いや毒島先生が謝ることではありません。捜査はあくまで警察の仕事ですから」
「それでも自分が関わっていますから何としても犯人を暴きたいと思ってるんです」
洋一は神妙な顔で頷いた。
「亡くなる前、智子さんは何か変わった様子はありませんでしたでしょうか」
「何度も考えたんですが気がつきませんでした」
綺麗が頷く。
「ただ」
洋一が何かを言い淀んだ。
「ただ?」
「遺品の整理をしていたら智子の写真が出てきたんです」
「写真?」
「はい」
「それは、どういう?」
「ご覧になりますか?」
「見せてください」
洋一は写真を綺麗に見せた。
「恋路です」
「洋一さんとご一緒の時ですか?」
「いえ。違います。いつごろ行ったのか、よく判らないんです。最近だとは思いますが」
「智子さんのご出身は金沢……実家はこのお店ですよね」
「はい。恋路ではありません」
奈々子が写真を覗きこむ。
「洋服の智子さん、珍しいですね」
奈々子の言葉に洋一は頷いた。
「恋路に行ってみようか」
「え?」
綺麗が奈々子に言うと洋一は驚いた声をあげた。
「恋路に何があるのか判りません。でも現地をこの目で見て確かめておきたいんです」
洋一は頷いた。
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