綾町奈々子はいかにして毒島奇麗を落としたか?

奥野とびら

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蠢く容疑者

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「〈笹木〉の主が智子さんに目をつけていたって」
「〈笹木〉って呉服屋の?」
「ええ。わたしが友禅を買った店よ」
「狙うっていうのは買収?」
「そうじゃないの」
 綺麗は声を潜めた。
「ものにしようとしていたんですって」
「ものにって……男女の関係にってこと?」
「そうよ」
「それは智子さんが結婚する前?」
「ええ。結婚する前から。でも結婚してからも執拗に誘っていたみたい」
「それは酷い」
「ストーカーかセクハラ……いずれにしろ悪質なことね」
 奈々子は頷いた。
「笹木さんは結婚してるんですか?」
「してるわ」
「池田さんは応じなかったんでしょうね」
「もちろんよ」
 綺麗が断言した。
「あ、本当のことは当人じゃなきゃ判らないだろうけど、わたしはそう思ってる」
「笹木さんは、そんな池田さんを逆恨みしてるかも」
「だから殺した?」
 綺麗の問いかけに、奈々子は首を横に振った。
「判りませんけど、可能性としてはありうると思います」「でも」
 綺麗は酒を一口飲むと言った。
「みんなそれぞれ池田智子さんに対する動機があったとしても長谷川吾郎さんには?」
 奈々子は黙った。
「笹木さんや千場さんが長谷川さんに対して殺意を抱くでしょうか?」
「抱いても不思議じゃないわ」
「え? 毒島先生、どういうこと?」
「千場さんの目的は〈いけ田〉の買収。だとしたら〈いけ田〉の評判が一時的にも落ちれば買収しやすくなる」
「〈いけ田〉の評判を落とすために人を一人殺したっていうんですか?」
「あるいは長谷川吾郎に買収に関わることで脅迫されたとか」
「あ」
 長谷川吾郎には恐喝……美人局の過去がある。
「笹木さんにしたって恐喝されるネタを掴まれた可能性もあるわよ」
「そうか。笹木さんは奥さんのある身なのに智子さんに強引に言い寄っていた」
「それをネタに金を強請られていたら……」
「毒島先生。ありえますね」
「でしょう?」
「でもそれは長谷川吾郎さんの殺害と池田智子さんの殺害が同一犯によるっていう前提の話ですよね」
「ああ、そうね」
 綺麗は頷いた。
「二つの事件が一人の人間の仕業だとは、まだ確定していませんよ」
「でも」
 綺麗が摘みを箸で摘みながら言う。
「そう考えていいんじゃない?」
「そうですね。同じ店の人間が立て続けに殺されたんですからね。とりあえず同一犯という前提で考えてみましょうか」
 綺麗は頷いた。
「千場さんや笹木さんの他に、わたしたちの知らない第三者が犯人ってことも考えられますよね」
「そうね。あるいは長谷川吾郎の悪事のパートナーとして谷内さんも疑わしい」
「谷内さんだって〈いけ田〉に出入りしていますもんね」
「その通り。でも証拠は何もない」
「復讐が動機の場合なら長谷川吾郎が殺されるのは判るとして、どうして智子さんまで殺されたのかしら。悪事の共犯者が谷内結衣さんだったら結衣さんが殺される可能性はあるけど」
「もしかして犯人が長谷川吾郎を殺害した現場を智子さんが見ていたら……」
「あ」
 奈々子は思わず声をあげた。
「証人を消すために智子さんは殺された」
「いずれにしろ可能性の域を出ない。犯人かもしれない人物……千場さんや笹木さんの評判を聞いてみたい」
 綺麗の言葉に奈々子は頷いた。
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