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奈々子と綺麗の密談
しおりを挟む綺麗と奈々子はランチを摂りながら事件のことを話していた。
「まさか二人目の死者が出るとは。しかも毒島先生の目の前で」
「そうね」
さすがの綺麗も気落ちした様子だ。
「さらに、あたしとの会食の直後に……。警察は、ますますあたしを疑うでしょうね」
「だからこそわたしたちで犯人を暴かなくてはいけないんです」
「奈々子……」
綺麗が奈々子の手に自分の手を重ねた。
「〈いけ田〉にまつわる二人の人間が短期間のうちに続けて殺された。当然、二つの殺人は〈いけ田〉にまつわる事もしくはまつわる人間が動機に絡んでいると考えていいと思うわ」
「ですよね。そもそも殺人事件が珍しいことなのに、それが同じ店をめぐってですからね」
「でも〈いけ田〉をめぐる動機って?」
「ひとつ気になる事があるのよ」
綺麗が日本酒を呷ると言った。
「何ですか?」
「〈いけ田〉の経営権を〈錦秋楼〉が狙っているって噂を聞いたの」
「〈錦秋楼〉が?」
綺麗は頷く。
「〈錦秋楼〉の主の千場さんは遣り手の経営者よ」
「たしか板前経験のない純粋な経営のプロでしたよね」
「そう。その千場さんが再三、智子さんにアプローチをかけていたらしいの」
「智子さんは何て?」
「もちろん〈いけ田〉を売る気なんてないわよ」
「ですよね。〈いけ田〉は江戸時代から続く老舗ですもんね。そんな歴史のある店を自分の代で人手に渡すなんてできませんよね」
「でも江戸時代から武家商法も受け継いだこともたしか」
「武家商法?」
「ええ」
綺麗は摘みを一つ口に放りこむ。
「江戸から明治に時代が変わって自分で商売を始めなけ
ればならなかった武士が大勢いたの」
「〈いけ田〉も、そんな武士が始めたお店ですね」
奈々子が頷く。
「でも武士たちは商売の勝手が判らない。上から目線が消えなくて商売的には失敗した例が多いのよ」
「それが武家商法ですか」
綺麗は頷いた。
「でもそんな武家の商法が〈いけ田〉に限っては何代も続いたんですね」
「初代の人が商才あったんでしょうね」
「そう。〈いけ田〉は明治時代、大いに流行って店も立派になったわ」
「経営が危なくなったのは最近ですか?」
「智子さんのお父さんの代よ」
綺麗はさらに酒を追加する。
「この人が時代を飛び越えて武家の商法を受け継いじゃったみたい」
「そのかたが亡くなって智子さんが後を引き継いだんですよね」
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「でも経営的には売るのが理に適っている」
綺麗は頷く。
「なんとかしたかったでしょうね、智子さん」
「そんな智子さんが、どうして殺されたのか」
綺麗は猪口を持った手を止めて考えている。
「こんな噂も聞いたわ」
綺麗は酒を喉に流しこんで綺麗の言葉を待つ。
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