綾町奈々子はいかにして毒島奇麗を落としたか?

奥野とびら

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谷内結衣の意外な相手

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   道下むつみが前方を見つめながら身を潜めるように歩いていた。
 視線の先には谷内結衣の姿が見える。
(あの女、怪しい)
 むつみはそう睨んでいた。珠里から〝長谷川さんと谷内結衣が〈21世紀美術館〉で会っていた〟ということも聞いている。
(今日こそは正体を突きとめる)
 店が引けた後、自宅へ帰ろうとしたしたとき偶然、谷内結衣の姿を見かけたのだ。
 その時の様子がおかしかった。むつみはピンと来た。
(誰かと会う)
 どことなく背後を気にするような歩きかたにむつみには思えた。
 結衣は繁華街を歩いている。人通りがあるので後ろを振りむかれても気づかれにくいだろうとむつみは思った。
 結衣が立ち止まった。むつみも慌てて足を止める。結衣は後ろを振りむいた。むつみは咄嗟に人混みに身を隠す。
 結衣はキョロキョロと辺りを見回している。
(どうやら見つかっていないみたい)
 結衣は居酒屋に入った。
(誰かと待ちあわせかしら)
 だが自分までその店に入ったら見つかる危険性がかなり高まる。
(どうしよう)
 むつみは辺りを見回した。
 道を隔てて結衣が入った店の正面に喫茶店が見える。壁はガラス張りで通りが見渡せる造りになっている。
 むつみはその店に入り居酒屋の入り口を見張ることにした。居酒屋を気にしながら席を選びコーヒーを注文すると、むつみはウィンドーから外を見た。
(ちょうどいい席ね。居酒屋の入り口がよく見える)
 むつみは少し心を落ち着けた。
 コーヒーが運ばれてきた。むつみはすぐにカップを掴んで一口飲んだ。
(おいしい)
 むつみは目を瞑った。
 すぐに目を開けてウィンドーの向こうに目を遣る。
(あ!)
 見知った顔が歩いてくる。
(やばい)
 むつみは咄嗟にそう思った。
(こんなところを見られたら……)
 人の後をつけて、その動向を見張ってるところ……。
 歩いているのは野崎初子だった。
〈いけ田〉の仲居頭で、いつもむつみは初子に怒られていた。
 初子の姿を見ると反射的に身が縮んでしまう。
 だがすぐにむつみは〝ただ喫茶店でお茶を飲んでいただけ〟という言い訳が成り立つことに思い至った。
(わたしが人の後をつけて、さらに居酒屋の入り口を見張っているところだなんて言わなければ判らないことよね)
 むつみは安堵してコーヒーを啜った。身が縮んだのは、ただの条件反射だったようだ。
(あれ?) 
 初子は居酒屋に入っていった。
(どうして?)
 むつみの体がブルッと震えた。
(どうして谷内結衣と野崎さんが会うの?)
 それとも、ただの偶然だろうか?
 そんな事はない。谷内結衣も野崎初子も一人で居酒屋に入った。一般的に女性が一人で居酒屋で呑むことは珍しいだろう。
(それに、あの二人は特に一人で飲むタイプには思えない)
 だとしたら誰かと待ちあわせていると考えられる……。
(二人が偶然、別の人と待ち合わせてるなんて、そんなの偶然が過ぎるわよね)
 谷内結衣と野崎初子は二人で会っているのだ。
(でもどうして?)
 むつみにはわけが判らなかった。
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