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奈々子と綺麗、全裸でベッドに
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洋一は憔悴しきっていた。
「かわいそうに」
誰かが呟いた。
〈いけ田〉で智子の通夜が営まれていた。
遺体はまだ警察に安置されていて遺体なしでの変則的な通夜だった。
「最初は逆玉かと思うたけど、なんやこのところ洋一さん貧乏くじを引いたようなもんや」
列席者がヒソヒソと話している。
末席には毒島綺麗と綾町奈々子が坐っている。
親族に続いて〈錦秋楼〉の主人、千場光臣、さらに〈笹木〉の主人、笹木晃司も列席している。刑事の姿も見える。
〈いけ田〉の従業員たちは裏方仕事に回っている。
「大変な事になりましたね」
奈々子が小声で綺麗に話しかけた。今朝、綺麗のベッドで目覚めたとき、奈々子は気恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になった。
(夕べのこと、夢じゃなかったんだ)
綺麗とキスをして……そのままベッドで二人とも全裸になって愛しあったこと……。
二人は秘めていた思いをぶつけるように長い時間をかけて愛しあった。
それは奈々子にとっての〝初体験〟だった。奈々子個人の大事件だが今は、その余韻を味わっている状況ではないことも承知している。
人が二人も殺されているのだ。しかもその容疑者となっているのが担当する作家であり昨夜、プライベートで恋人となった毒島綺麗なのだ。
「そうね。板前の長谷川さんに続いて女将の池田さんまで」
「しかもまた先生が……」
奈々子は後の言葉を飲みこんだ。
「谷内さんが来ていますね」
奈々子に促されて視線を遣ると和服姿の谷内結衣の姿が見えた。
「北本さんに話を聞きたいわ。裏に回りましょうか」
綺麗に促されて、奈々子は綺麗と共に席を外し厨房に向かった。
「〈いけ田〉はどうなってしまうのかしら」
道下むつみの声が聞こえた。
「女将さんが亡くなってしまって」
「ご主人が後を継ぐやろ」
北本の声。
「でもご主人は、ただのお飾り」
若林珠里の声。
「やめとき。こんなときに」
咳払いをしながら綺麗は厨房に足を踏み入れた。みな一斉に綺麗と奈々子に目を遣った。
「あんたら何しに来た」
北本が低い声で問う。
「まず知りあいとして通夜に参列したいと思ったのよ」
「あんたが犯人かもしれんのやで」
「それは違うわ。その誤解も解きたいと思っているの」
「調べ回りたいのが本音か」
綺麗は反論できなかった。
「こんな席や。帰ってくれ」
「大事な話をしたいの」
「誰にや」
「北本さん。あなたにです」
「俺に?」
綺麗は頷いた。
「俺に何を訊きたい」
「ここではちょっと」
北本はしばらく考えていたが「こっちへ来い」と綺麗と奈々子を裏口から庭に案内した。
「困るやないか」
庭に出ると北本が凄んだ。
「みなの前で話があるやなんて」
「ごめんなさい」
綺麗は素直に頭を下げた。
「でも大事な事なのよ」
「なんや」
「女将が亡くなる直前あなたと会っていたという証言があるの」
北本は目を剥いた。
「しかもあなたが女将に無理矢理キスをしていた」
「人聞きの悪いことを言うな。そんな事実はない」
「信頼できる証言よ」
北本は綺麗を威嚇するように睨みつけた。
「覚えてないな」
「覚えてない?」
「あの日、実は酔っていたんだ」
「どこで飲んでたの?」
「和食だ」
「和食にいたことは認めるのね?」
北本は無言で頷いた。
「どうして和食に行ったの?」
「馴染みの飲み屋があるんだ」
「そこで飲んだというわけ?」
「そうだ」
「そしてあなたは酔った勢いで女将に抱きついた」
「それは覚えてないと言っただろう」
「女将……池田智子さんは何者かに殺されたのよ」
「俺とは関係ない」
「女将は何者かに毒を飲まされた。その毒はガムに含まれていたものよ。あなたが口移しで飲ませた疑いも出てくるわ」
「馬鹿を言うな」
北本は即座に否定した。
「もしそのガムに毒が含まれていたのなら真っ先に俺が死んでいる」
「毒島さん」
杉山が顔を出した。
「そろそろ時間ですので」
綺麗は奈々子と目で合図をした。
「わかりました」
綺麗と奈々子は引き返した。
「かわいそうに」
誰かが呟いた。
〈いけ田〉で智子の通夜が営まれていた。
遺体はまだ警察に安置されていて遺体なしでの変則的な通夜だった。
「最初は逆玉かと思うたけど、なんやこのところ洋一さん貧乏くじを引いたようなもんや」
列席者がヒソヒソと話している。
末席には毒島綺麗と綾町奈々子が坐っている。
親族に続いて〈錦秋楼〉の主人、千場光臣、さらに〈笹木〉の主人、笹木晃司も列席している。刑事の姿も見える。
〈いけ田〉の従業員たちは裏方仕事に回っている。
「大変な事になりましたね」
奈々子が小声で綺麗に話しかけた。今朝、綺麗のベッドで目覚めたとき、奈々子は気恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になった。
(夕べのこと、夢じゃなかったんだ)
綺麗とキスをして……そのままベッドで二人とも全裸になって愛しあったこと……。
二人は秘めていた思いをぶつけるように長い時間をかけて愛しあった。
それは奈々子にとっての〝初体験〟だった。奈々子個人の大事件だが今は、その余韻を味わっている状況ではないことも承知している。
人が二人も殺されているのだ。しかもその容疑者となっているのが担当する作家であり昨夜、プライベートで恋人となった毒島綺麗なのだ。
「そうね。板前の長谷川さんに続いて女将の池田さんまで」
「しかもまた先生が……」
奈々子は後の言葉を飲みこんだ。
「谷内さんが来ていますね」
奈々子に促されて視線を遣ると和服姿の谷内結衣の姿が見えた。
「北本さんに話を聞きたいわ。裏に回りましょうか」
綺麗に促されて、奈々子は綺麗と共に席を外し厨房に向かった。
「〈いけ田〉はどうなってしまうのかしら」
道下むつみの声が聞こえた。
「女将さんが亡くなってしまって」
「ご主人が後を継ぐやろ」
北本の声。
「でもご主人は、ただのお飾り」
若林珠里の声。
「やめとき。こんなときに」
咳払いをしながら綺麗は厨房に足を踏み入れた。みな一斉に綺麗と奈々子に目を遣った。
「あんたら何しに来た」
北本が低い声で問う。
「まず知りあいとして通夜に参列したいと思ったのよ」
「あんたが犯人かもしれんのやで」
「それは違うわ。その誤解も解きたいと思っているの」
「調べ回りたいのが本音か」
綺麗は反論できなかった。
「こんな席や。帰ってくれ」
「大事な話をしたいの」
「誰にや」
「北本さん。あなたにです」
「俺に?」
綺麗は頷いた。
「俺に何を訊きたい」
「ここではちょっと」
北本はしばらく考えていたが「こっちへ来い」と綺麗と奈々子を裏口から庭に案内した。
「困るやないか」
庭に出ると北本が凄んだ。
「みなの前で話があるやなんて」
「ごめんなさい」
綺麗は素直に頭を下げた。
「でも大事な事なのよ」
「なんや」
「女将が亡くなる直前あなたと会っていたという証言があるの」
北本は目を剥いた。
「しかもあなたが女将に無理矢理キスをしていた」
「人聞きの悪いことを言うな。そんな事実はない」
「信頼できる証言よ」
北本は綺麗を威嚇するように睨みつけた。
「覚えてないな」
「覚えてない?」
「あの日、実は酔っていたんだ」
「どこで飲んでたの?」
「和食だ」
「和食にいたことは認めるのね?」
北本は無言で頷いた。
「どうして和食に行ったの?」
「馴染みの飲み屋があるんだ」
「そこで飲んだというわけ?」
「そうだ」
「そしてあなたは酔った勢いで女将に抱きついた」
「それは覚えてないと言っただろう」
「女将……池田智子さんは何者かに殺されたのよ」
「俺とは関係ない」
「女将は何者かに毒を飲まされた。その毒はガムに含まれていたものよ。あなたが口移しで飲ませた疑いも出てくるわ」
「馬鹿を言うな」
北本は即座に否定した。
「もしそのガムに毒が含まれていたのなら真っ先に俺が死んでいる」
「毒島さん」
杉山が顔を出した。
「そろそろ時間ですので」
綺麗は奈々子と目で合図をした。
「わかりました」
綺麗と奈々子は引き返した。
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