綾町奈々子はいかにして毒島奇麗を落としたか?

奥野とびら

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奈々子と綺麗のディープキス

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 車を降りてホテルに帰ると奈々子は綺麗の部屋のチャイムを押した。
 ドアチェーンが外れる音がしてドアが開き綺麗が顔を見せた。
「入って」
 奈々子は頷くと「お邪魔します」と言って部屋に入る。その声が少し震えている。
「承諾していただいてありがとうございます」
 部屋に入るなり奈々子は奈々子を相手の実験に承諾してくれた事への礼を言った。
「どうしてあなたがお礼を言うのよ」
「あ、いえ」
 奈々子の心臓の鼓動がさらに速くなった。
(理屈で考えればお礼を言うのはむしろ毒島先生の方……。なのに、わたしったらお礼を言って……。これじゃまるでわたしが毒島先生とキスしたがっているみたい)
 奈々子の顔が一気に赤くなる。
「まあいいわ。こっち来て」
 部屋の中央にベッドが置かれている。
 奈々子はベッドの前に進んだ。
 甘い香りが漂ってくる。奈々子は綺麗がすでにフルーツ味のガムを噛んでいる事に気がついた。
「ホ、ホントにやるんですか? 毒島先生」
「やるわよ。当たり前でしょ」
「そうですね。毒島先生の冤罪を晴らすためですもんね」
 池田智子を殺害した犯人は毒島綺麗ではなく北本龍太郎だった――その可能性を検証しようという試みである。
 北本龍太郎は池田智子に無理矢理キスをしてガムを池田智子の口に押しこんだ。その際にガムの包み紙を池田智子のポケットに入れてあたかもガムは池田智子が自分で所持していたもののように見せかけた。その推測が成りたつかどうかの実証検分である。
「ありがとう。覚悟を示してくれたからあたしも腹を括ったわ」
 また礼を言いそうになった。
「行くわよ」
「はい」
 綺麗が奈々子の両肩を掴んでその唇にキスをした。
 目を瞑った奈々子の目の中に七色の光が溢れた。唇から快感が全身に駆けめぐる。

――アァ

 唇が僅かに開いて声が漏れる。その開いた唇から綺麗が自分の噛んでたガムを奈々子の口の中に押しこむ。

――ング。

 綺麗は口を離す。
 奈々子は腰が抜けてヘナヘナと床に坐りこんだ。
「どうしたの? 大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
 奈々子は綺麗の力を借りて立ちあがった。
「で、どうだった?」
「よかったです」
「よかった?」
「あ、いえ」
 奈々子の顔がマックスに赤くなる。
「ガムは入りましたね」
 綺麗から口移しされたガムの香りが奈々子の口の中に広がっている。
「今度は奈々子があたしの口にガムを入れて」
「いいんですか?」
「いいわ。その方が検証になるもの」
「わかりました」
 奈々子は綺麗の両肩を掴んだ。意を決して綺麗の唇にキスをしてそのまま自分の口の中のガムを綺麗の口の中に押しこむ。
 奈々子の体が震える。
(毒島先生とキスをしている。それもディープな)
 二人は唇を離した。気がつくと二人は抱きあった格好だ。
「あの……」
「無理ね」
「え?」
「ガムを相手の口に移す事はできるけど相手が口を閉じていたらガムは押しこめないもの」
 綺麗の言葉を奈々子は頭の中で反芻する。
「ですね」
 綺麗が奈々子を抱きしめた。
「先生……」
 奈々子の体を抱いたまま綺麗は口の中のガムを噛みに包んでポケットに入れた。
「もう一度キスしない?」
「え? もう実験は終わったんじゃ」
「実験は終わったわ。だから実験じゃなくて……恋人同士のキス」
「恋人同士のキス……」
「奈々子さえ厭じゃなければ」
「毒島先生……」
 綺麗の眼が、まっすぐに奈々子を見つめる。奈々子も見つめ返す。
「厭じゃありません」
 奈々子は目を瞑った。唇に綺麗の唇を感じた。
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