38 / 69
38
連続殺人
しおりを挟む洋一は遺体安置所で嗚咽を漏らしていた。
「智子……」
何度も呼びかけるが返事はない。
「お気の毒です」
長田刑事も遠慮がちに声をかける。
「どうしてこんな事に……」
洋一の目から涙が溢れる。
「毒を飲まされたようです」
「毒?」
洋一が心持ち顔をあげた。
「何か心当たりでも?」
「いえ」
洋一は即座に否定した。
「でもどうして毒なんか……。智子は、どうして殺されなければならなかったんですか」
それは質問というより怒りの発露のような口調だった。
*
長谷川吾郎に関する捜査本部に新たに池田智子の死亡事件が捜査対象として加わった。
「〈いけ田〉をめぐって二件目の殺人事件が起きてしまった」
捜査本部長の山本警部補が重々しい口調で言った。
「〈いけ田〉の主である池田智子の毒殺だ」
「池田智子の死は殺人と断定してもかまわないんですかね?」
長田警部補が訊く。
「断定はできないが会食の後の池田智子は路上で死んでいる。自殺だったらそんな死に方はしないだろう」
「心臓病などは? あるいは食中毒の可能性」
「死因が青酸カリだ。自殺でないのなら十中八九、他殺と見てまちがいない」
長田警部補は頷いた。
「死んだときの状況を話してくれ」
表刑事が立ちあがった。
「池田智子は昨夜、毒島綺麗と二人で〈錦秋楼〉にて食事をしていました」
「毒島綺麗は長谷川吾郎の遺体の第一発見者だな?」
「はい」
「また毒島綺麗か」
捜査員の一人が呟いた。
「山本警部補。二件の殺人事件の第一発見者が同一人物などとは聞いた事がありません」
表刑事が発言した。山本警部補は頷いた。
「怪しいな」
長田警部補が露骨な発言をする。
「先日の事情聴取の後、毒島綺麗の後を尾行てみましたが……」
別の捜査員が立ちあがる。
「どうだった?」
「毒島綺麗は迎えに来ていた担当編集者、綾町奈々子の運転する車に同乗して宿泊先のホテルに帰りました。別段、怪しい動きはしていません」
山本警部補が頷くと捜査員は坐った。
「そもそも毒島綺麗はどうして被害者と会ってたんだ?」
「本人の話によると長谷川吾郎の事件の調査をしていて、その過程で会ったということですが」
「普通は素人が調査などしない」
「毒島綺麗は二件の殺人事件の第一発見者です。動きのすべてが怪しいと思われます」
「そうだな。池田智子が死んだのは昨日、九月十五日の夜だ。毒島綺麗と会っていたその時刻に死んでいる」
「毒の種類は青酸カリということですが被害者はどうやってそれを飲んだんですか?」
別の捜査員が訊く。
「ガムです」
「ガム?」
「被害者が口に入れたガムに予め青酸カリが染みこませてあったようです」
「そういう事か」
「青酸カリの致死量は約〇・二グラム。ガム一枚は約一・五グラムですから致死量の青酸カリを染みこませることは可能でしょう」
「言い換えると犯人は被害者にガムを噛ませることができた人物ということになる」
「ガムは〈錦秋楼〉の会計口に置かれていたガムと考えていいと思います」
「〈錦秋楼〉の?」
「はい。〈錦秋楼〉の会計口に籠が置いてありまして、その中にチューインガムが入っています。食事を済ませて帰る客が自由に取っていいようにというサービスです。池田智子が噛んでいたガムは、このガムと同じものです。包み紙などは智子のポケットから見つかっていますから口に入れた際に包み紙をポケットに入れたものと思われます」
「ちょっと待て」
本部長が表を制した。
「〈錦秋楼〉のレジに置かれていたガムには、すべて青酸カリが入っていたのか?」
「いえ。ほかのガムからは青酸カリは検出されませんでした」
「ほかに青酸カリ中毒の報告は?」
「ありません」
「ならば犯人はたくさんのガムの中から池田智子に青酸入りのガムだけを選ばせたというのか」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる