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連続殺人
しおりを挟む洋一は遺体安置所で嗚咽を漏らしていた。
「智子……」
何度も呼びかけるが返事はない。
「お気の毒です」
長田刑事も遠慮がちに声をかける。
「どうしてこんな事に……」
洋一の目から涙が溢れる。
「毒を飲まされたようです」
「毒?」
洋一が心持ち顔をあげた。
「何か心当たりでも?」
「いえ」
洋一は即座に否定した。
「でもどうして毒なんか……。智子は、どうして殺されなければならなかったんですか」
それは質問というより怒りの発露のような口調だった。
*
長谷川吾郎に関する捜査本部に新たに池田智子の死亡事件が捜査対象として加わった。
「〈いけ田〉をめぐって二件目の殺人事件が起きてしまった」
捜査本部長の山本警部補が重々しい口調で言った。
「〈いけ田〉の主である池田智子の毒殺だ」
「池田智子の死は殺人と断定してもかまわないんですかね?」
長田警部補が訊く。
「断定はできないが会食の後の池田智子は路上で死んでいる。自殺だったらそんな死に方はしないだろう」
「心臓病などは? あるいは食中毒の可能性」
「死因が青酸カリだ。自殺でないのなら十中八九、他殺と見てまちがいない」
長田警部補は頷いた。
「死んだときの状況を話してくれ」
表刑事が立ちあがった。
「池田智子は昨夜、毒島綺麗と二人で〈錦秋楼〉にて食事をしていました」
「毒島綺麗は長谷川吾郎の遺体の第一発見者だな?」
「はい」
「また毒島綺麗か」
捜査員の一人が呟いた。
「山本警部補。二件の殺人事件の第一発見者が同一人物などとは聞いた事がありません」
表刑事が発言した。山本警部補は頷いた。
「怪しいな」
長田警部補が露骨な発言をする。
「先日の事情聴取の後、毒島綺麗の後を尾行てみましたが……」
別の捜査員が立ちあがる。
「どうだった?」
「毒島綺麗は迎えに来ていた担当編集者、綾町奈々子の運転する車に同乗して宿泊先のホテルに帰りました。別段、怪しい動きはしていません」
山本警部補が頷くと捜査員は坐った。
「そもそも毒島綺麗はどうして被害者と会ってたんだ?」
「本人の話によると長谷川吾郎の事件の調査をしていて、その過程で会ったということですが」
「普通は素人が調査などしない」
「毒島綺麗は二件の殺人事件の第一発見者です。動きのすべてが怪しいと思われます」
「そうだな。池田智子が死んだのは昨日、九月十五日の夜だ。毒島綺麗と会っていたその時刻に死んでいる」
「毒の種類は青酸カリということですが被害者はどうやってそれを飲んだんですか?」
別の捜査員が訊く。
「ガムです」
「ガム?」
「被害者が口に入れたガムに予め青酸カリが染みこませてあったようです」
「そういう事か」
「青酸カリの致死量は約〇・二グラム。ガム一枚は約一・五グラムですから致死量の青酸カリを染みこませることは可能でしょう」
「言い換えると犯人は被害者にガムを噛ませることができた人物ということになる」
「ガムは〈錦秋楼〉の会計口に置かれていたガムと考えていいと思います」
「〈錦秋楼〉の?」
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「ちょっと待て」
本部長が表を制した。
「〈錦秋楼〉のレジに置かれていたガムには、すべて青酸カリが入っていたのか?」
「いえ。ほかのガムからは青酸カリは検出されませんでした」
「ほかに青酸カリ中毒の報告は?」
「ありません」
「ならば犯人はたくさんのガムの中から池田智子に青酸入りのガムだけを選ばせたというのか」
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