綾町奈々子はいかにして毒島奇麗を落としたか?

奥野とびら

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再び綺麗に容疑が

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 綺麗は憔悴しきっていた。
 取調室の椅子に、もう五時間も坐っている。その間、席を離れたのはトイレに一度、立ったきりだ。
「池田智子は死ぬ直前あんたと会っていたんだ」
 長田警部補が綺麗に顔を近づけて言う。
「池田智子の死因は?」
 長田刑事が表刑事に訊く。
「まだ鑑識の結果は出ていませんが、おそらく毒殺だろうと」
「殺されたの?」
「故意ではない食中毒の可能性もある。だが一緒に食事をしていたあんたがピンピンしているところをみると単なる食中毒の線はなさそうだな」
「他の客で食中毒の症状を訴えている人もいませんし」
「つまり、あんたが池田智子に毒を持った可能性が高いんだよ」
 綺麗は長田刑事を睨みつけた。
「わたしは毒についての知識なんかまるっきりないって何度言ったら判るの?」
「毒を入れる機会があったのはあなただけです」
 表刑事が言う。
「わたしは毒をどうやって手に入れたらいいのかも知らない一般市民なのよ。人を殺すなんて」
「長谷川吾郎の死もお前が第一発見者だ」
「偶然よ」
 泣きたくなってきた。
「二人の犠牲者は、どっちも〈いけ田〉の関係者なんだぞ」
「知らないわ、そんなこと」
「どうして池田智子と会っていたんだ」
「わたしなりに長谷川さんの死の真相を調べたかったのよ」
「一般市民のお前がか」
 長田警部補は鼻で笑った。
「普通はそういうことは警察に任せるものだ」
「警察はわたしを疑ってたじゃないの」
「その疑いがますます濃くなったな」
 長田警部補が喋り表刑事は無言で綺麗を見つめている。
「長谷川吾郎を殺したことを池田智子に悟られたのか?」
 綺麗は長田警部補を睨んだ。
「〈錦秋楼〉でそのことを池田智子から告げられた。それで殺した」
「呆れた」
 綺麗は溜息をつく。
「どっちみち証拠はないでしょ」
 綺麗は開き直ったように言った。
「もういいでしょ。話すことはすべて話したわ」
 綺麗の言葉に二人の刑事はようやく綺麗を解放した。
 警察署の玄関を出ると奈々子が待っていた。
「毒島先生」
「来てくれたの?」
「車で迎えに来ました」
「ありがとう。片頭君は?」
「東京に帰りました。急遽、赤川先生との打合せが入って」
「それは外せないわね」
「代わりにわたしが車でホテルまでお送りします」
「あなた運転できたの?」
「実家にあったパッソならなんとか。なのでレンタカーをパッソに変更しました」
「いずれにしろありがたいわ」
 二人は警察署の駐車場に停めてあるパッソに乗りこんだ。
「大変なことになりましたね」
 パッソをスタートさせると奈々子はあらためて言った。
「お疲れでしょう」
「ありがとう。ヘトヘトよ」
「まさか池田さんが死ぬなんて」
 綺麗が頷く。
「何か心当たりはないんですか?」
「あなたまで警察みたいな口を利くのはやめて」
「あ、ごめんなさい、つい」
「いいわ。あなたは頼りになる」
 珍しく綺麗が奈々子を褒めた。それだけ心細い思いをしているのだろうと奈々子は推測した。
「池田さんの死因は毒らしいわ」
「毒?」
「ええ。智子さんは毒を飲まされて死んだ」
「犯人が池田さんに毒を飲ませる機会はあったんですか?」
「考えつかないわ」  
「ようく考えてください。池田さんが殺されて、しかも直前に会っていたのが毒島先生だったんだから毒島先生の立場はますます悪くなったと言えるんですよ」
「酷いこと言わないでよ」
「あ、ごめんなさい」
「でも本当のことね」
 奈々子が頷く。
「会食のときは変わった様子はなかったんですか?」
「なかったわ」
「じゃあ誰かが毒を入れる機会は……」
「ちょっと待って」
 綺麗は目を瞑った。
「なんだか今になって思いだしてきた事がいくつかあるわ」
「え?」
「警察に取り調べを受けている時には思いだせなかったこと。きっと頭がパニックになっていたのね」
「先生でもそんな事があるんですね」
「奈々子の顔を見て気持ちが落ち着いてきたわ」
 綺麗は小さな笑みを浮かべた。
「で、思いだした事って?」
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