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謎の女
しおりを挟む「誰だ、あんたたちは」
「実は長谷川吾郎さんのことでお訊きしたいことがあるんです」
「長谷川?」
男は露骨に厭な顔をした。
「松山さんから、あなたが詳しいとお訊きしまして」
綺麗と奈々子は自己紹介をすると事情を説明した。
「長谷川が死んだのか」
「はい」
「自業自得だ」
綺麗と奈々子は顔を見合わせる。
「どういう事ですか?」
「長谷川は、ろくな男じゃねえ」
「何かされたんですか?」
奈々子の問いかけに男は顔を伏せた。
「教えてください。長谷川さんを殺した犯人として毒島先生が疑われているんです」
「あいつがギャンブルや女に狂ってて借金を作っていたことは知ってるか?」
「聞きました」
「その挙げ句」
男は口を噤んだ。
「その挙げ句、どうしたんですか」
「悪事に手を染めた」
「どのような悪事でしょうか?」
「美人局だよ」
「つつ、もたせ?」
「奈々子ちゃん。美人局っていうのは女が自分のパートナーの男と示しあわせた上で他の男と関係を持つのよ」
「知ってます。それをネタにパートナーの男が関係を持った男に言いがかりをつけて金をゆすり取る犯罪のことですよね」
「そういえばあなた物知りだったのよね。説くに昔の事もよく知っている」
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「ああ」
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「もちろん本当だ」
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「噂じゃない。俺が当事者なんだよ」
男は声を荒らげた。
「当事者?」
男は顔を背ける。
「美人局の被害者なんだよ」
奈々子が目を丸くしている。
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「そういう事だ」
男は吐き捨てるように言った。
「いつの事ですか」
「二年前だ。あいつが借金で二進も三進もいかなくなって、それで苦し紛れに金を工面しようとしてやったことだ」
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「覚えていない」
「覚えてない?」
「飲み屋で出会って、その夜限りの関係になった。覚えてないよ」
「歳は?」
「三十前後だったと思う」
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奈々子が小声で言った。
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「言ってないんですか?」
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男が強い口調で言った。
「ろくな事にならないぞ」
「殺人事件なんです」
綺麗がキッパリと言った。
「すでに長谷川さんは殺されています。警察もあなたの秘密が外に漏れるようなことはしないでしょう」
「わかった」
男は頷いた。
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