綾町奈々子はいかにして毒島奇麗を落としたか?

奥野とびら

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奈々子と綺麗の捜査会議再び

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毒島綺麗、綾町奈々子、片頭悠斗の三人は宿泊先のホテル近くの割烹で酒を飲みながら夕飯を摂っていた。
「いい飲みっぷりですねえ」
 綺麗を見て奈々子が感嘆の声をあげた。
「あなたこそ、いい飲みっぷりよ」
「す、すみません」
「謝る事ないでしょ」
「でも事件の話をしなきゃいけないのに」
「多少、飲んだ方が頭の回転がよくなるのよ」
「一般論ですか?」
 片頭が訊く。
「少なくともあたしは」
 綺麗が答える。
「でも同じホテルに泊まれてよかったわ」
 綺麗が言うと奈々子は頷いた。
「すぐそばに割烹もあるから便利だし。おいしい料理とおいしいお酒が手近で味わえるわ」
「余裕ですね」
 そう言うと片頭は小海老を口に運ぶ。
「料亭で食事をすればそれだけで立派な観光にもなるし一石二鳥よ」
「料亭って割烹のことですか? 毒島先生」
「割烹と料亭は違うのよ」
「あ、そうなんですか」
「料亭というのは主に日本料理を提供する高級飲食店のこと」
 綺麗が取材しているだけあって蘊蓄を披露する。
「割烹もそんなイメージなんですけど」
「割烹も高級な日本料理を提供する店のことなんだけど料亭よりも小振りな店って感じかしら」
「料亭は大きいんですか」
「そう。大きなお座敷があって仲居や芸妓まで用意されてるから」
「なるほど」
「料亭では建物の構えや庭の佇まい、床の間の掛け軸や調度品の贅沢さ、さらには女将の立ち居振る舞いまで楽しむものなの」
 奈々子は池田智子の凛とした佇まいを思い起こした。
「割烹はそこまで大がかりじゃないんですね」
「基本的には個室だしね。京の板前割烹に代表される〝カウンター越しに料理人が料理をしている姿が見える店〟もあるけど」
「料亭は板前が料理をしている姿は見えませんものね」
「そもそも料亭の料理は外部の出張料理専門の店から配達してもらってたのよ」
「え、そうなんですか」
「ええ。料亭はお座敷を提供するものだったの。そこで芸妓を呼んだりね。料理は外部調達」
「今は板前さんがいますよね」
「そうね。今では専任の板前を抱える店が主流になってきているわね」
「それも一流の板前さんですよね」
「もちろん」
 綺麗は料理をパクつきながら答える。
「料亭は日本文化の集大成の場なのよ」
「へえ~」
 奈々子が大げさに感心した。
「だってそうでしょ。料理や器、数寄屋橋造りの家屋、日本庭園、美術品、調度品、芸妓に邦楽。女将や仲居の立ち居振る舞い……。料亭ではあらゆる正統派の日本文化を堪能できるのよ」
「たしかにそうですね」
「だから企業の接待や政治家の密談などにも使われるの」
「なるほどね~」
「もちろん二人で食事を楽しみたいときにも使えるわよ」
「今度、先生と二人で行きたい」
 奈々子の言葉に綺麗は噎せた。
「あ、違うんです。変な意味じゃありません。それより事件の話ですよ」
 奈々子は何とか思わず口に出た本音をごまかした。
「そうだったわね」
 綺麗はそう受けると「片頭君。あなた、仲居さんたちに話を聞いてどうだった?」と片頭に顔を向ける。
「まず思ったのはバランスの取れたいい仲居編成だなってこと」
「何よそれ」
「女将の池田さんはなかなかの遣り手じゃないかって思いましたね」
「でも〈いけ田〉は経営が苦しいらしいわよ」
「〈いけ田〉は古いお店だって聞いたけど今の女将は何代目なんだろう?」
「四代目。江戸時代から続いているのよ」
「池田さんが親から引き継いだときに店の経営状態はどうだったんですか?」
「すでに借金があったらしいわ」
「だったら池田さんの手腕でよく続かせているともいえますよね」
 片頭の言葉に綺麗は頷いた。
「そんな智子さんが編成した仲居さんたちは、やっぱりそれぞれ教育が行き届いていると感じましたね」
「仲居頭の野崎さんの力も大きいと思うわ」
「そうですね。あの人は厳しそうな人だけど、それだけに店に一本、筋が通る印象があります」
「意外に情報通の道下むつみさん、若さ溢れる若林珠里さん」
「〈いけ田〉の仲居さんたちは多士済々ですね」
「中でも道下さんの情報網はなかなか凄いと思う」
「ですね」
 奈々子が同意した。
「あの人、人の噂話がけっこう好きそうだし」
「珠里さんはキャピキャピでマイペースって感じです」
 奈々子の言葉に綺麗は頷いた。
「でも珠里さんがもたらしてくれた情報も気になるところよ」
「谷内さんと長谷川さんが神社で話していたって情報ですね?」
「そう。二人はいったい何の話をしていたのかしら?」
「次は谷内さんに話を聞いてみましょうか?」
「そうね。それと長谷川さんの同僚である板前さんたちにも」
「先生、頼めますか?」
「頼んでみるわ」
 そう言うと綺麗はジョッキのビールををグイと飲み乾した。
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